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【コラム】今泉のクレジットの変遷|古畑任三郎大事典

1.はじめに

今泉のフルネームが「今泉慎太郎」であることは、2nd season放送日の深夜にオンエアされていたスピンオフドラマ『今泉慎太郎』で一気に知れ渡った。

しかし、1st seasonの頃は、エンドロールでも「今泉」としか表記されておらず、下の名前を知る人はきっと少なかったはずである。

そんな彼の、エンドロール時の名前の表記に関する変遷から垣間見える制作側の事情について、考察、というか推察されることを整理してみる。

2.1st season:最後の「慎太郎」

最初に言っておきたいのは、エンドロールで「今泉」としか表記されていなかった1st seasonにおいても、下の名前は劇中で明らかにされていたということである。しかも、かなり初期の段階で。

その回こそが、古畑と今泉が初めて一緒に捜査をしたとされる「動く死体」(堺正章の回)である。1st seasonの第2話であり、事件発生時系列では第1話。しかも、古畑と今泉が初めて会話を交わすシーンで、今泉の下の名前は語られる。

古畑「君、今泉君って言ったっけ?」
今泉「はい!今泉慎太郎であります!」

しかし、これを最後に、1st seasonの劇中で下の名前が登場することはない。そして、この回のエンドロールも「今泉」という表記のみ。エンドロールにおいては、第1話死者からの伝言」(中森明菜の回)からずっと「今泉」としか表記されない状態が続く。

その状態に変化が起こるのが、1st seasonの最終回「最後のあいさつ」(菅原文太の回)である。この回、下の名前は劇中ではやはり登場しないものの、エンドロールで「今泉慎太郎」表記となるのだ。

この背景について、これは出所が私の記憶なので確証がないのが歯痒いのだが、エンドロール後に小説版のプレゼントのおしらせを今泉が行った(※声のみ)際、「今泉慎太郎でした」と締めたことから、エンドロールでも「今泉慎太郎」と表記したのだと思われる。小説版プレゼントという企画があったからこそ、「そういえば」「最終回だしね」と、スタッフが気を利かせたのではないだろうか。

3.SPECIAL1:再び消えた「慎太郎」

視聴率的には振るわなかったこともあり、続編が制作されることは期待こそされたものの、なかなか難しいのでは、と思われていたであろう1st seasonから1年後、SPECIAL1「笑うカンガルー」(陣内孝則の回)が放送される。1st seasonの最終回で晴れてエンドロールでフルネームで表記された今泉。この回ではそのままフルネームで定着・・・と思いきや、また「今泉」に戻ってしまった。

この現象の背景については、次のように考えられる。すなわち、

  • 「最後のあいさつ」がむしろ特別扱いだった

  • 1年ぶりの制作だったためエンドロール作成の際にスタッフが参照した記録が「最後のあいさつ」以外の回のものだった

ということのいずれかではないか、ということである。
いずれにしても、せっかくのSPECIALなのに、やや気の毒な慎太郎である。

4.2nd season:開幕時にブレた「慎太郎」

「笑うカンガルー」から約9か月後、ファン待望のシリーズ第2作(2nd season)が始まった。そして、第1話「しゃべりすぎた男」(明石家さんまの回)のエンドロールでは、堂々の「今泉慎太郎」表記に。これはおそらく、殺人の罪をなすりつけられる(「しゃべりすぎた男」)、爆弾が仕掛けられた観覧車に閉じ込められる(「赤か、青か」(木村拓哉の回))、ステージで踊っている最中に客席で殺人が起こる(「しばしのお別れ」(山口智子の回))、といった特にフィーチャーされた回への言及を待たずとも、各回での登場シーンの増加に見られる今泉のプレゼンスの向上によるものであると思われる。極め付きが冒頭でも触れたスピンオフドラマ『今泉慎太郎』のオンエア。名実ともに、今泉が『古畑任三郎』に欠かせない存在となったといえよう。

ところが、喜びも束の間、2nd season第2話「笑わない女」(沢口靖子の回)では、なぜかまた「今泉」に戻ってしまう。「しゃべりすぎた男」であれだけ華々しく再登場し、名前を冠したドラマまで制作されたにもかかわらず、である。この不可解な現象、どう考えれば良いのだろうか。

5.撮影時期に翻弄される「慎太郎」

この現象を考える際のヒントとなるのが、この回の撮影時期である。実は「笑わない女」は、2nd seasonで最初に撮影された回だったのである。

※これまた確実な出所が不明で申し訳ない(確かマニアの方がお持ちの台本に記載されている撮影日だったと思う)。しかし、田村正和の古畑の演じ方がまだ落ち着いていること、今泉もまた落ち着いていること、そして話全体として2ndらしい派手さがないこと、等に鑑みると、最初に撮影されたと言われても納得できるのである。

要は、事情は「笑うカンガルー」の際と同様というわけである。久しぶりのシリーズ再開ということで、スタッフは前シリーズないし「笑うカンガルー」の映像を参照し、踏襲すべき点は踏襲するという制作手法を採ったはずである。そしてエンドロールは従来と同様のスタイルでいきたいということで、それなら、とスタッフが1st seasonの「今泉」表記の回をそのまま参照し、作成したのだろう。

当初は『今泉慎太郎』の制作は決まっておらず、『古畑任三郎』本編の撮影が進むなかで、制作が決定された。それに伴い、本編でのエンドロール表記も「今泉慎太郎」に固定しようということになった。そして、「今泉慎太郎」で固定する方針となった後に制作された「しゃべりすぎた男」が第1話として、それより前に制作された「笑わない女」が第2話としてそれぞれ放送されることとなったことで、上記の「ブレ」が生じてしまった。事情はおそらくそんなところであろう。

このように一瞬のブレはあったものの、2nd season第3話「ゲームの達人」(草刈正雄の回)以降は、晴れて「今泉慎太郎」表記で固定されることとなった。よかったね、慎太郎。

6.おわりに

『古畑任三郎』を語るうえで欠かすことのできない忠実な部下・今泉慎太郎。エンドロールにおける彼の名前の表記の変遷を追うことで、制作の裏側が垣間見える。もっとも、制作の裏側について確たる答が欲しいわけではなく、あれこれ推察、あるいは妄想ができれば十分である。そして、妄想の材料がおそらく図らずも散りばめられている。こういうところが、『古畑任三郎』のおもしろさのひとつである。少なくとも、私にとっては。


【参考】エンドロールにおける今泉の名前の表記まとめ

1st season 
 第1話〜第11話  今泉
 第12話     今泉慎太郎
SPECIAL1     今泉
2nd season
 第1話      今泉慎太郎
 第2話      今泉
 第3話以降    今泉慎太郎

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