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マーケティングでは数字で“最適解”は出せるけど“最高解”は出せない

マスとデジタルの考え方は、どう変わってきてる?

ここ数年で、マス広告とデジタル広告は競合するものではなく、互いに連携していくものだという風潮が盛んになってきました。

マスは感性を刺し、認知させるものから一歩進み、行動を起こさせることを考えよう。

一方デジタルは、小手先でクリック数や表示回数を追うのではなく、ブランドを認知させ記憶に残すことを考えよう。

最終的に2つが目指すところは一緒で、「消費者のロイヤルティを高め、プロダクトを長期的に使用してもらう」こと。それが安定的な売り上げにもつながっていくことになります。

ロイヤルティを高めるには、どちらか一方の視点ではもはや足りません。役割が全く違いますし、どちらもマーケティングにおいてちゃんと必要だからです。

だけど実態としては、マスの人もデジタルの人も、自分が普段関わっていない方の領域については、どんな視点が足りていないのかなかなか気づくのが難しい。

なので、化粧品メーカーでの商品企画(マス)とwebサービスマーケティング(デジタル)両方の世界を見てきた筆者が考える、各領域のマーケッターが心がけるといいのではということをまとめてみます。

デジタルは「仮説」を立てて、クリエイティブの精度をあげよう

「仮説なんてすでに立ててるぜ」と思った方。実際のところ、どこまで立てているでしょうか。

デジタル広告でやりがちなのが、テキストや色、画像を少し変えた大量のクリエイティブを回してABテストした後、一番よい数字のものに絞って集中的に広告を打つこと。

例えば、ライブ動画サービスの広告をwebで打つとしましょう。ぱっと思いつくコピーは、「配信者とリアルタイムにコミュニケーション」。

「ターゲットは男女どちらもいるから、広告の文言は男性ユーザーには『配信者』→『美女』にして、女性ユーザーには『イケメン』にした方がクリック数は上がるはずだ」

こう仮説を立てて、テキストを変更したクリエイティブを3つ作成する。しかしこれは、メーカーやマス広告の人たちからすると、「仮説」になってなかったりすることも。

クリエイティブの「仮説」とは本来、「プロダクトを使用する消費者の利用実態を含む生活実態を理解し、インサイト(=消費者の隠された本心)を探し当てた上で、そこを解決する手段について考えること」。

ライブ動画サービスにしてもいくつもありますが、それぞれコンテンツの特徴も集まるユーザーも、性質が違ったりします。

例えば業界の先駆的な存在であるSHOWROOMでは、配信者が雑誌モデルになれたり声優出演ができたりと、配信者の夢を叶える「イベント」というしくみがあることが人気の理由の1つです。SHOWROOMのコアファンとなるユーザーは、夢を叶えるために頑張る配信者を応援することにやりがいを感じる、人情深い人たちだったりします。

そうすると、SHOWROOMのコアファンになりそうな潜在ユーザーに広告を打つ場合、「あなたの応援が配信者の夢を叶える」など、そういうコピーの方が刺さる可能性も出てきます。「あまり限定的にするより広くリーチした方がいい」という考え方もあり、目的によってはそれでいいのですが、類似サービスにも汎用的に使えるふわっとした訴求のものだと、その分刺さる確率も低まります。

そのサービスならではの強みやターゲットの性質を調べ、理解した上で「仮説」立てられたクリエイティブの方が、欲しいターゲット=潜在コアファンに対する打率は上がるのではないでしょうか。

何となくのイメージで4割のクリエイティブを大量に出してそこそこの“最適解”を出すのではなく、「プロダクトやターゲットをまず理解する→仮説を立てる→6~8割のクリエイティブを出す」というプロセスで、“最高解”を見つけてみることも大切なのではないかと思います。

メーカー(マス)は「感想」だけではなく「行動」を可視化しよう

一般的にメーカーは、商品をリリースしたりマス広告を打ったりする時に、商品感想や認知度評価に関するアンケート調査をかけます。

この時によく質問項目で見られるのが、知りたいことを直接聞くもの。しかし、この結果を見て「数字を見てるぜ」と思うのは落とし穴です。うのみにしてはいけないのです。

なぜなら、びっくりするほど人は「本音と発言が食い違う」イキモノだからです。

例えば、恋愛の話ひとつとってもそう。ブランディングコンサルを行うインサイトフォース(株)代表の山口さんが『朝渋読書会』で好事例をあげていますが、「好きな異性のタイプを教えてください」という質問をしたあとに、「過去に付き合った人はどんな人か教えてください」と質問すると、両者が一致することは、ほとんどないそう。これ、めちゃ心当たりありません?(笑)

私は過去、友人(男性)に「彼女が“誠実な人が好き”っていうから合コンもいかず良い彼氏でいたのに、“退屈”って振られたあげく、あきらかにカラオケでEXILE歌ってそうな広告代理店のイケイケ男子と結婚したんだけど、どういうこと?」と血走った目で相談された経験があります。わかる。その気持ちわかるよ…。

そう、人の言動には驚くほど矛盾があり、本人ですら意識していないこともしばしばなんです。

じゃあどうすればいいか?
それは、「行動」にも焦点を当てることです。

商品・広告評価で意見や感想を聞くだけでなく、「実際にどういう行動を取ったか」に関する項目も入れるのです。

少し話はずれますが、昨今ブランドのロイヤルティをはかる指標として注目されているNPS(ネットプロモータースコア)も、これまでよく使われていた「あなたはこの商品にどれくらい満足していますか」ではなく、「どのくらい友人におすすめしたいですか」という想定行動ベースでの質問をしています。

感情は、記憶や認知のゆがみによって(無意識的にでも)操作されてしまう可能性がある。だから、同時に行動を可視化することが重要になってくるのです。

ここらへんは下記の本をぜひ読んでみてください!インサイトを見つけるための調査設計の考え方が書かれており、とっても参考になります。

その点webではリアルタイムでターゲットの行動を可視化・数値化できるため、参考になる考え方がたくさんあると思います。

意見・感想と行動をセットで聞いて照らし合わせることで、想定していた仮説やインサイトがさらに深掘れるようになると思います。もしデジタル広告やキャンペーンも回していたらそれも併せて数字をみると、さらに深く消費者の行動のインサイトを見つけにいくことができるでしょう。

まとめ

仮説なしに広告を当てで制作し、大量に投下して数字のみ見るのではなく。感性や想いのみで商品を届けるのでもなく。

① 「ターゲットはきっとこんなことに困ってるから、この商品でこう解決したい」という想いをもってインサイトを想定し、仮説を立て、商品開発の骨子を考える
② 調査等でターゲットの利用実態を含めた生活実態を知り、理解する
③ 調査をもとに仮説の見直しをはかった上で、商品に落としていく
④ 商品が伝えたいこと×消費者のインサイトをあわせたクリエイティブをつくり、広告を回す

このプロセスの中でマス・デジタルそれぞれの良さである「消費者のインサイトに刺す視点×数値検証する視点」を両立させることが、“消費者を行動させる”クリエイティブをつくる上で大事になるのではないかと、私は考えています。

そんなことを念頭に置きつつ、私自身もウンウンうなりながらマーケティングに向き合っている日々でございます。

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