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チェンマイの闇は深く・・・(2)

大都市バンコクは まるで「東京砂漠」のようだった。
人で溢れてかえっているのに、いや 
人に溢れているからこそ感じる「孤独」を感じ
敗北感に全身ずぶ濡れになりながら
一縷の望みをかけて タイ第二の都市 北部のチェンマイを目指すことする。

長距離バスターミナル。休憩とともに、たくさんの物売り達がお客に近寄ってくる。
わざわざ遠くの市場まで食べ物を買いに行かなくてもいいから、考えてみると楽なシステムだが
慣れないうちは、ただ、物売りの勢いにおどおどするだけで 何も買うことができずにいた。
ミャンマー国境に近い北部の町 チェンマイ

チェンマイはさすが「北方のバラ」とも称される美しい古都 だけあって
町も整然と美しく整備されていた。
バンコクの雑然とした感じとは 雰囲気が異なっている。
いつもどこかで交通渋滞が起き、クラクションが鳴りやまないバンコクと違い 空気がしんと 静まりかえっているような 町だった。

商品が山積み!少数民族がひと針ひと針 丁寧に作成した民芸品なども売られている。

チェンマイの夜道は非常に暗い。暗くて野犬もうろついている。
夜の雰囲気も カオサンロードと全く異なっていた。

チェンマイはナイト・バザールでも有名。
山岳民族がすむ地域に近い為、珍しい民芸品を手に入れることができる。
日中は残念ながら閉まっていて、足を運びたかったら 夕方から夜にかけて行くしかない。夜中12時まで開いている。

https://www.thailandtravel.or.jp/chiang-mai-night-bazaar/

バザール内は アジアン雑貨が 圧縮凝縮されて 
所狭しと並べられている。その中で欲しいものを見つけたら
数件回って相場を確認してから、値切り交渉をして 購入する。
定価の値札の付いている日本と比べると
買い物ひとつにしても いちいち面倒くさいなと思うけれど
それもまた 東南アジア旅の楽しみ、と捉えれば、そんなものだ。

物価がとても安いし
少しぐらいボラれたとしても 許されるくらいの少額だ。
しかもその頃 日本ではアジアン雑貨旋風が吹き荒れており
買い付けの業者さんもいっぱい来ている中
個人でこんなに かわいい雑貨を 買って回れるなんて 楽しい!
と久しぶりの ウキウキ気分を満喫していた。

広大な敷地のマーケットを興奮しながら 隅々まで歩き回った。
ふと気づくと あれ?何時だろう?
どうやら ナイトマーケットもそろそろ終わりかという時間。
明らかに、客の数も減ってきた。

私は チェンマイに来たからには と
街はずれの静かな地区に 宿を探してチェックインしていた。 
カオサンロードの喧騒に嫌気がさした、反動だったと思う。
たしか ナイト・バザールから徒歩30分はかかる場所だったと思う。
宿の周りには たいした店もなく かなり 静かな場所だった。

久しぶりに ココロオドル体験をして
ウキウキと両手にいっぱいの買い物袋をぶら下げた私は
「は!」っと 我に返る。

やべえやべえ
どうしよう・・・・
しかも 興奮して買い物してたから
お腹もすっかり減ってしまっているのに 何も食べていなかった。
このまま空腹を朝まで我慢して寝るか
途中で何か食べ物を買って 宿に帰るべきか・・・。

バザールを出てすぐ 食べ物を売る屋台が集まった場所があったので、
足を止めて 何か食べられるものを買って帰ることにした。
気持ちだけは焦っているので しっかり吟味をすることなく
目についた 一番手前のチキン&ライスを出す店に お金を払って
テイクアウト用に パックに入れて包んでもらうことにする。

暗闇に沈んだ屋台村は 一見 見えにくかったが
料理を頼んで しばらく待っている間に目を凝らしてみると
そこの皿や調理道具を洗っているであろうバケツに目が留まる。
水道は引いてないだろうし 屋台の脇には
汚い濁った水をたたえた バケツがひとつ置いてあるきり。
そこに使用済みの皿を入れて 洗って お客に出すらしい。
少し上級の屋台になると バケツがふたつあって
汚れた水のバケツで皿を洗い、仕上げ用の もう一つのバケツ
さっと皿をくぐらせて お客に出すのだが
そこの屋台には どうみても この汚れ腐った水を入れたバケツ
ひとつしか見当たらない。
う~ん。
ここでちょっと嫌な予感はしたけれども
お金も払っているし、注文も入れてしまっているし 後にはひけない
悩んだ末、とりあえず買って帰ることにする。

街灯がポツンポツンとしかない夜道は 野犬もうろついているし
そもそも こんな東南アジアの夜道を
私のような無防備な女の子が一人で歩いて帰っていいものなのだろうか?
知識も経験も何もない
ただ恐怖だけが 身体をすっぽりと覆っている。
ダッシュしかない! これが私のできる唯一の最高の方法
と結論に至った私は 宿まで猛ダッシュで帰ることにした。

なんとか暗闇の向こうに うっすらと灯りをともした 宿が見えてきた。
ぜぇぜぇ はぁはぁと 必死の形相で走ってきた私は
ここにきてやっと 徒歩に戻り 安堵と共に部屋に帰り着くことができた。

この安宿も 他の宿と同様 おひとり様の個室タイプ
でも、なぜかトイレ・シャワーだけは廊下の突き当りにあった。

ひとまず、先ほど買った チキン&ライスをビニル袋から取り出してみる。
疑惑に満ちてはいたけれど、
ひとたび 匂いを嗅ぐと 空腹がその疑惑を押しのけて
食べろ!」と有無を言わさない強引な命令がくだされた。
完敗した私は そのチキン&ライスを 腹に掻きこんで
やっと得た満腹という満足に満たされながら 眠りに就く。

深夜2時くらいだろうか。
猛烈な気持ち悪さに 目を覚ます。

部屋の暗さのせいだろうか?
まさかここは 巷で有名な 呪われてる部屋なんだろうか?
私が新規さんで この街の不穏な噂を知らないがために
この部屋に通されてしまったのだろうか?

ありもしない 猜疑心で 頭がいっぱいになる。
たった一人の夜は ありもしないものが見えるし
聞こえもしない音が聞こえてくるものなのだ。

深い眠りからこっちの世界に戻ってきたばかりで
頭がうまく回転しない。
スイッチを入れて起動するまでに少しの時間を要し
その後、「気持ち悪い」の原因究明
冷静な判断ができるようになってくると
思い当たるのは 寝る前に食べた チキン&ライス だけだ。

あれか?あいつか?
怪しいなと思いながら食べた、あいつが犯人か!!!!

冷静な判断ができるようになった頭に 原因が突きつけられたその瞬間
待ったなしで襲ってくる 吐き気と腹痛

全く不運なことに
この宿には シャワートイレが 部屋の中になかった・・・
廊下の突き当りまで 猛ダッシュするしかない状況だった。

身体的警報が鳴り響く中 待ったなしで
長い廊下の突き当りまで 猛ダッシュした。

人間って、上からも下からも同時に出したい場合ってのは
どちらを優先したらいいものなのか
走りながら思考回路の電波はすごいスピードで答えを探していた。

タイの安宿のトイレというのは たいがいこんな感じ。

トイレ写真なかったのでお借りしてきました

この写真の雰囲気よりは もっと薄汚れていたし
裸電球だけの狭いトイレは なんというか 
妖怪さえ住んでいそうな 雰囲気があった。
そのトイレに まずは 顔を近づけ 盛大に嘔吐する。
お腹の中のものをひとしきり 吐き出した後には
身体の体制を変えて 今度は 下から。
(汚い描写ですみません・・・)

そのトイレが 汚いとか臭いとか 怪しくて危険ながいそうとか
そういった 理性的なことを考える思考は
身体の緊急事態によって すべてシャットアウトされていた。
今の私は そんな薄汚れたトイレ以下の存在なのだ、
真夜中にたった一人 狭く暗いトイレで 
便器に こうべを垂れて かしづいている。
こうなってくると もう 自分が 世界で一番底辺の生物
のような 救いようのない気分になってくるのだ。

しばらくそうして ひとしきり身体の中の物を出しきって
緊急事態が 落ち着くまで トイレに居座っていた。

歩けるような状態になったら 自分の部屋に戻り ベッドに倒れ込む。
そして またあの有無を言わさない強烈なビッグウェーブが
身体を襲う度に
廊下を猛ダッシュして さっきまで自分の居た
自分だったのか、妖怪だったのか、が居た 場所に戻って
うずくまる。

自分の部屋と そのトイレとの間には いくつか個室のドアが並んでいて
不安と心配に絞り殺されそうになっていた私は
こんな真夜中だというのに 手あたり次第ノックして
誰か住人を叩き起こして 助けてもらうと考えた。

考えたのだが 
その時の自分の思考回路は 限界に達していて
このドアの向こうに誰もいかなったらどうする
いや、このドアはもうどこにも通じてなくて
この世界には 私たった一人しかいなくて
だれもここには住んでいなくて
私は永遠にこの苦しみの中をさまよい続けるのだ
という精神状態。

そんな精神状態で 何度か 部屋とトイレを往復していると
次第に空が白み始めてきた。

とうとう!が来たのだ!

白み始めた空は まるで天女が私の頭の上から
薄い輝く衣を ふわっとかけてくれたような
「あなたはこの長い夜を たった一人でよく耐えましたね」という
癒しの光のようだった。

永遠に続くかと思われた闇は やっと終わりを告げたのだ。

朝が来たからには きっと 妖怪たちももういなくなったはずだ。
私はそうして ゲストハウスのオーナーの部屋をノックして
「Help me!」と助けを乞うことができた。

オーナーは真っ青でふらふらしている私を 心底心配してくれて
自分の車に乗せて病院まで連れて行ってくれた。
「もっと早く言ってくれればよかったのに、我慢する必要なかったのに」
と優しく声をかけてくれるオーナーに
その夜の自分の精神状態を説明して弁解する体力は残っておらず
そのままチェンマイの病院に入院することになった。

(つづく)
次のストーリーhttps://note.com/ninguru/n/n1ccc53d934e2











裸電球がひとつぶら下がる薄暗い便所に
座り込んで おえ~~おえ~~~と 吐く。
もうそこの便所が 汚いなとか 臭いなとか
そんなことまで考えている余裕は皆無。

お腹の中の物を吐き出しては
少し落ち着いたころに自室にもどり ベットで横になる。
さらに何度か高い波が来て
その度に その長い廊下を猛ダッシュして
便所に覆いかぶさる。

うっすらと 空が白み始めることには
なんというか 廃人 になったようにして
ベットに横たわっていた。

きっと これがもしオーストラリアの一人旅だったら
異変を察知した誰かがたくさん寄って集まってきてくれて
すぐに 介抱してくれたに違いないのに
タイの宿に泊まっている限り
個室で完全 シャットアウトして 寝込んでいる隣りの部屋の人は
気づいてくれることはなかった
途中、何度か勇気を振り絞って
隣りの住人さんのドアをノックしようかとしたのだけれど
その勇気は 結局 朝になるまで 出てこないままだった。
(そもそも隣に人が誰かいるか、どの部屋に人が寝ているのか
知る由もないのだけれど、手あたり次第ノックしようか、とも思った)

ふらふらになりながら 朝が来るのを待って
宿のオーナーに
「食中毒になったみたいで・・・夜中何度も吐いて・・・」と
説明して、小さな病院に連れて行ってもらった。

そこで 点滴をしてもらうことになった。
そして そのまま帰っていいと言われたけれど
もう私はあの 過酷な 真っ暗な 独りぼっちの部屋
どうしても帰ることができずに
一晩 入院させてもらうことにした。




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