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世界的に有名な詩人★谷川俊太郎さん公認『俊カフェ』の店主。“古川奈央”さん。

30代のときに『俊太郎さんになりたい。』と言ってしまったほど、谷川俊太郎さんの詩やあり方に魅了され、『俊カフェ』という専門の店まで作ってしまった古川奈央さん。たくさんの人と言葉に導かれてここまでたどり着いた、愛に溢れたお話をお伺いしてきました。

古川奈央(ふるかわ なお)さん プロフィール
【出身地】北海道札幌市
【経歴】北海道札幌開成高校、埼玉大学卒業。広告代理店、雑誌編集、ブライダル施設企画を経て、 2007年にフリーライターとして独立。
2015年『とても個人的な谷川俊太郎展』を開催し、延べ1000人以上の来場者が訪れ話題を呼ぶ。
2016年、谷川俊太郎さんの作品を編集したリフィル型詩集を発行。
2017年5月3日にOpenした俊カフェ店主。 ポエムピース札幌編集長。
フリーライター・エディター。
 【座右の名】実るほど頭を垂れる稲穂かな


〜紙のページをめくる贅沢な時間
その時の思いに寄り添える場所に〜


記者 : 2017年5月3日に俊カフェをオープンして約一年半ということですが、これからの構想や夢などお伺いできますか?

古川奈央さん: (以下、古川 敬称略)
ここが自然と詩の発信地になるといいなと思っています。
お客様が何気なく手にした詩集の中で、その時のその方の思いに寄り添うものに出会える場合もあります。今は紙のページをめくる時間が贅沢と言えますから、無心に本を読んで、そんな贅沢な時間を過ごしてゆっくりしていただければと思っています。

俊太郎さんがよくおっしゃっているのは、「日常の中に溢れている詩情(ポエジー)を、できるだけ正確に言葉にするのが詩人の仕事」だということ。うれしいとか、悲しいとかワクワクするとかぐっとくるとか、なにかしら心を動かされたことを言葉にしたものが詩であって、特別なものではないんです。そういうものを俊カフェで身近に感じていただいて、気持ちが安らいだり潤ったりする時間をもっていただけたらいいなと思っています。

東京から先生をお招きして詩を書く札幌ポエムファクトリーという講座も2カ月に一度開催しています。参加者は詩人を生業にした人ではなく、普通のOLや主婦、自営業の方や学生さんもいらっしゃいます。詩を書くことで、自分自身でも思いもしなかったような言葉がうまれたり、詩を書くことを通して、心の中にあるもやっとしたものを外に出すことで救われることもあります。SNSがこれだけ一般的になっているということは、みんな何か発信したい、共感してもらいたいという気持ちがあるんだろうと感じています。詩もその一つだと思うんですよね。『詩はあなたの中にもあるんだよ』ということに気付いてほしいなと思います。
現代人は忙しいですから、少しでも気持ちが安らぐ時間を持つことができれば。そういう場所として長く俊カフェを続けるのが、今の一番の夢ですね。

俊太郎さんのファンは全国にいますし、俊太郎さんゆかりの場所も全国にあるので、「俊カフェ札幌店、俊カフェ◯◯店みたいに全国に増えていったらいいですよね」と、以前に俊太郎さんにお話ししたら、「そうだね。そうなるといいね」とおっしゃって。俊太郎さんのファンの方が自然発生的に俊カフェのような場所を作っていったら面白いのではないかと思っています。蔵書と、思いがあればできることだと思いますので。

記者:たしかに、『俊カフェ』という独自の新しいものが、ここを拠点にすでに動き出してる気がしますね。

〜一遍の詩のから沢山の出会いのプロセスを経て〜

記者:ただ、想いだけで実際にここまで形にするのは、かなりの意志やエネルギーがいることだと思うんですが、古川さんをそこまでさせたものは何ですか?

古川:そうですよね。ただのファンが何故ここまでやっちゃうのか?とはよく聞かれます。

私が最初に俊太郎さんの詩にはまったのは、CMにもタイトルが使われた『夜中に台所でぼくはきみに話しかけたかった』という詩集。書店で手に取って好きになりまして、そこからしばらくは、ときどき読んで、また新しい一冊を買って…という“普通の”ファンでした。

28歳で札幌の情報誌poroco編集部に入りまして、DiVa(高瀬麻里子(Vo)、谷川賢作(Pf)、大坪寛彦(B)によって結成された、現代詩を歌うバンド)と俊太郎さんとのコンサートをステージページでご紹介して、コンサートも観にいったんですけど、これがとても素敵だったんです。

俊太郎さんご本人の声で詩の朗読を聴くのもよかったですし、まこりん(Vo:高瀬麻里子)の声が好きだということもあるんですが、詩を歌で聴くと、黙読するのとはまた違った印象で物語として心に届く。詩にはまり、ここで音楽にもはまりました。まこりんを二度ほど取材して仲良くなり、まこりんから俊太郎さんの人柄を聞いて、やっぱり素敵な人だな…と思いました。

2012年には母校、開成高校の50周年記念歌を俊太郎さんが作詞されて、11月の記念式典には俊太郎さんが来賓でいらっしゃいました。その時、1時間ほど2人でお話しする機会をいただいて、緊張しながらもたくさん会話ができました。
その中で、oblaatというブランドのポエペンシルという商品の話になったんですね。これは鉛筆に詩が書いてあるもので、私は存在は知っていたけれど、詩をグッズ化することに抵抗を感じて持っていませんでした。その時俊太郎さんから「鉛筆持ってる?」と聞かれて、持っていないと答えると、すぐに東京から送ってくださいました。実物を見ると、なんと楽しい商品なんだろう!とワクワクしました。その時、俊太郎さんのおっしゃっている「日常の中にある詩情」というものを、初めて理解できたんだと思います。

記者:古川さんにとっての詩情とはどんな感情ですか?

古川:本の中だけではなくて、商品そのものに書かれた言葉にも心に深く入ってくるものがあるということでしょうか。面白い言葉や、懐かしい言葉が鉛筆1本1本に書かれていて、モノの気持ちを聞かせてくれるというか…。それを見てから、グッズにもはまって集めるようになりました。

あんなに世界的に知られる詩人で、結構な御大なのに、俊太郎さんは持ち上げられることを嫌います。そして、いろんな方から「こういうことやってみませんか?」と提案されると本気で向き合う、その人柄もとてもすごいなと感じました。もちろん俊太郎さんご自身のアイディアもありますし。”谷川俊太郎さんは詩集だけでなく、こんなにいろいろな表現をしているんですよ、ということを人に伝えたい”と、その頃から思うようになったんですよね。

2014年くらいからは、「いつか俊太郎さんのものを1カ所に集めた場を作りたい」と思うようになって、周りの人にも話すようになりました。
翌年、ギャラリーをもっている友人から「いきなり場作りをするのはリスクが高い。まずは期間限定でやってみては?」と提案をいただいて、彼女のギャラリーで2015 年7月に、『とても個人的な谷川俊太郎展』を開催することになりました。もちろん俊太郎さんにも了解をいただいて、展示用の私物を送っていただいたり、本をいただいたりと多大なご協力もいただきました。この企画展には、のべ1000人以上の方が足を運んでくださいました。

〜 いつでも扉は開けているので、
ゆっくりしたくなったら おいで 〜

記者:『とても個人的な谷川俊太郎展 』という場所に、お客様は何を求めて来られたと思いますか?

古川:人によって違うとは思うんですが…。
思い出を語ってくれた人もいるし、展示していた詩の前で泣いちゃう人もいましたね。私は泣くことは浄化だと思っているんですね。そういう力が言葉にはあると感じました。あるいは年配の女性が2 人でいらして、「この詩はね」ってクスクス笑いながら会話をしている姿もとても可愛らしかった。
そんな会話の『間にある』のが俊太郎さんの詩で、そういうふうにして心がほぐれる場所だったのかなと思います。

記者:今は店に来られるお客様の日常に対して、問題意識なども感じていらっしゃいますか?

古川:みんな絶対に、迷いとか悩みなどなど、なにか心に抱えているものはありますよね。私は人を癒したいというよりは、ここでほっとしてほしい。現代人は「あれやらなきゃ」「これやらなきゃ」「ちゃんとしなきゃ」って、常に頭の中が忙しい状態。ここにいるときは、その忙しさから少し離れてみる、忙しい日常をリセットする時間をもつことで、呼吸が深くなる。少し身体の力がぬける。心をほぐす時間をもちたいと思ったときに、ここがその選択肢のひとつになればいいなと思っています。
いつでも扉は開けていますので、みなさんゆっくりしたくなったら『俊カフェにおいで』『俊太郎さんの詩と出会いにおいで』と思っています。

〜本質に気付かせてくれる
俯瞰してみる宇宙的な視線、ポエムアイ(詩の視点)〜

記者:谷川俊太郎さんの何に一番惹かれたのですか?

古川:いろいろなことの本質を、誰にでも伝わりやすい平易な言葉を使って詩にしていること。
3000くらいの詩を書いているのに、俊太郎さんは「言葉を信じてない」とおっしゃいます。自分が表現したいことを本当に真に表現できているか。そこに近づけるため、俊太郎さんは1カ月くらいかけて詩を推敲することもあるそうです。それでもなお言葉を信じてない。そこに近づけようとして書き続けた詩だからこそ、人の心に届く、私にも深く響いてくる。そういう詩を書き続けていることに対する尊敬もありますし、もちろん俊太郎さんの詩にすごく救われる時とか、ハッとさせられる時もたくさんあります。俊太郎さんの詩は、自分が思いもしなかったことに出会わせてくれるんです。

記者:古川さんが思う本質とは何ですか?

古川:嘘がない、ごまかし、言い訳がない。
例えば人に言い訳しても、周りはごまかせても自分自身はごまかせないと思うんですね。「これは言い訳だ。原因は自分にある」って、自分自身は分かっているはずじゃないですか。でも、実はそれが言い訳かどうか気付いている人と気付いていない人がいる。それを気付かせてくれる。本質というかリアルな現実に気付かせてくれます。

たとえばこの『黄金の魚』という詩。幸せな人がたくさんいるその裏には、不幸せな人がいる。悲しい思いをしている人、犠牲になってる人もいるということ。あるいはたくさんものを持っているけれど幸せじゃない、逆に何も持ってないけど幸せだとか。常に表と裏、すべてに目を向けていること。
いろいろなものを俯瞰してみる宇宙的な視線、ポエムアイ(詩の視点
とでもいいましょうか。 世の中の見えないこと、自分には見えていないことを、詩を通して見せてくれる。気づかせてくれる。
自分だけがいいってことじゃないということを教えてくれます。

まあ、でもそういう理屈ばかりではないんです。私にとってはどの詩集を読んでも、その時々で心に響いてくる作品があって、いろんな感情をいいカタチで揺さぶってくれるんです。

記者:初めにおっしゃっていた詩情でしょうか?
古川:そうですね。

記者:詩って難しいという人もいると思うのですが、何故でしょうね?

古川:詩に対してアレルギーを持っている人は、国語の授業で「この時作者はどう思ったでしょう」っていうような曖昧な設問に答えないといけない教育を受けてきたんだと思います。「そんなの作者も分かんないよ」ってね。

「詩は読んだ人が解釈をしてくれればそれでいい。手をはなれたら読者のものだから」と俊太郎さんはおっしゃっています。でも、実際は国語の授業で、答えを見つけなければいけないという詩との出会い方をしてる人が圧倒的に多くて、理解できないとなダメなんじゃないか、理解できない自分はダメなんじゃないかって、思っちゃう人が多いんじゃないかな。

でも詩はそんな面倒なものではないですよね。一冊の詩集を手にとって、ひとつでも心に残る詩と出会えればいいんじゃないかなと。
一期一会なんですよね。みんな「お勉強ができる子」にならなくてもいいんですよ。店主からして「できる子」じゃないんだから。 

記者:自由なんだけど、その人個人をちゃんと尊重している感じがしますね。
古川:人は尊重されるべきものですからね。

記者:最後に、古川さんの座右の名は何ですか?

古川:『実るほど頭を垂れる稲穂かな』
俊太郎さんは、誰に対しても同じ態度です。厳しい時は厳しいし、優しい時は優しいし、子どもも子ども扱いしない。偉ぶることを嫌いますし、持ち上げられることも嫌います。先生って呼ばれるのも嫌がりますね。
人をちゃんと尊敬するし、自分は有名であるし知られてるという自覚を持った上での人との接し方をします。そういうのって、本当にすごいことだと思うんですよ。誰でも調子に乗っちゃう時ってあるじゃないですか。でも、俊太郎さんはそれがない。平等で、人を上にも下にもおかない。

記者:なるほど〜。それをあり方として実践できるってすごいですね。
今日は楽しいお話ありがとうございました。

古川:ありがとうございました。

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俊カフェ・古川奈央さんに関する情報はこちら⬇⬇

★今後の主な活動
・2018年12月5日(水)北海道の楽しい100人Vol.2に登壇
・2018年12月22日(土)まちライブラリー@千歳タウンプラザ 2周年イベントのカタリスト
・2019年1月20日(日)「詩を思い、そして 思い出す日。」
(詩とパンと珈琲モンクール
)に登場
・2019年5月26日(日)俊読2019
Facebook https://www.facebook.com/shun.T.cafe/
★Twitter https://twitter.com/hachamu
★俊読http://shijinrui.blogspot.com/2018/07/blog-post_9.html

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【編集後記】
今回記者を担当した清水です。
お父様が編集者で、ご両親とも詩を書いていらして、本や活字は当たり前に日常にあったという古川奈央さん。言葉を通して大切に育まれてきたものを愛おしそうにお話しされてました。
谷川俊太郎さんが詩を一カ月かけて推敲することや、俯瞰してみる宇宙的視点、ポエムアイというものを、今度は古川さんがこの俊カフェというカタチでお客様に体現されている感じがしました。
そういう意味ではこのカフェも一篇の詩のような役割を担っているのでしょうね。ぜひ皆さんにも、忙しい日常から少し離れて詩情に出会う贅沢な時間を味わっていただけたらと思います。

古川さん。ありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしています!

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この記事はリライズ・ニュースマガジン”美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36


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