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這いつくばって脱出

ビルの二階にある、チェーン店のカフェが好きだ。
都会でも、旅行先でも、地元でも、街中でいつものカフェに出会うと安心する。

ああ、知っている場所がある。何かあってもここに入ればいつものコーヒーが飲めるというお守りのようなものなのかもしれない。

特に、ビルの二階にある店舗で、カウンター席がお気に入りである。窓からの眺めは良くてもよくなくても、なんならすりガラスで見えなくても問題はない。

昔から高い場所が好きで、高い場所にいると気持ちが落ち着くからだ。外が見えなくても、高い場所にいるという事実だけでいいから便利なものだ。


ここ数週間ほど、気持ちがひどく落ち込んでいる。
時折やってくる「生きるモチベ」低迷期である。

人と関わることがしんどくなって会うことを避け、自分のお世話もまともにできなくなってしまう。

洗濯物や洗い物が溜まり、食事が疎かになる。風呂は寝る前に入る。休日は昼頃に起きて、とりあえず何かで胃を満たし、昼過ぎに寝て、夜起きてシャワーを浴びてまた眠る。

ほんとうは誰かに構ってほしいのに、めんどくさいと思われたくなくて布団にこもっている。余計めんどくさい。

恩田陸の『蒲公英草紙』に登場した一族の「虫干し」だと思うと少しは持ち直せるかなとか思いながら、外の光で明るい天井を眺めているだけでは一向に気持ちが沈んだまま。

考える前に動いてみたら案外うまくいくと昔読んだ本に書いてあったことを思い出し、ベッドからこぼれ落ちるように脱出。

一年前、無職だった時期に通っていたハローワーク。帰りに近くのコメダでモーニングを食べることがささやかな贅沢だった。

無職の自分に対しても丁寧に接客してくれる店員さんのやさしさに何度救われたか。(自意識過剰)店内も綺麗で快適。そしてなんといってもビルの二階にある。

縋るような気持ちであのコメダへ向かう。コメダブレンド(たっぷりサイズ)とミニシロノワールのセットを注文。

久しぶりに小説を開き、耳にはヨルシカを注ぐ。2アルバムほどの時間を過ごし、店を後にする。少し軽くなった足で、巨大な本屋さんを徘徊して帰宅。


書き連ねてみるとなんてことない外出だが、今の自分にとっては地を這うような脱出だった。

過去の傾向からすると、もうしばらく時が経てば回復し、こんな落ち込んでいたことを忘れてしまうと思う。

そしてまた日々が過ぎて塵が積り山となった時に、溶けて消えたいと思ってしまうだろう。そうなってしまったら、また二階のカフェに登ってから考えよう。

遅くなってしまった衣替えから始めるとする。

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