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全てのコンテンツが「箱庭」を目指すべき理由

「箱庭療法」という精神医療における治療法がある。どういう療法かというと、その名の通り箱庭を用意して、そこに家具や人形を配置してもらう、というものだ。平たくいうと「お人形遊び」である。お人形を遊びが、傷ついた心を癒やすのに大変効果があるのだ。そもそもはユングが提唱し、日本には河合隼雄さんが持ち込んだ。実際これで、癒やされている人は多いという。

近年、「遊び」が教育にはもちろん人間が生きていく上でもとてつもなく大切だという研究発表があちこちで為されている。そして有史以来、人間の最も本質的な遊びは「人形遊び」だ。古代の遺跡からも、人形がどんどん見つかっている。原始人の子供たちも人形で遊んでいたのだ。そして今でも、フィギュアや模型など、子供はもちろん大人まで、人形で遊ぶ。人間にとって最も大切なものが遊びであり、その遊びの中で最も本質的なものが人形なのだ。

では、なぜ人間には人形遊びが必要なのか? ぼくの仮説はこうである。

人間はそもそも、不条理の中で生きている。やがて死ぬということがまず不条理だし、そもそも赤ん坊は、安全で安心な母親の胎内からつらく厳しい胎外に放り出される。こんな理不尽なことはないだろう。人間が泣きながら生まれてくるのは、その理不尽を儚んでのことである。

そういう理不尽に耐えるため、人間は「空想」を必要とする。ここではないどこかへ、もう一つの世界へと飛翔する必要がある。その空想の世界へと飛翔したときだけ、人は心が癒やされる。現世の不条理を片時だけ忘れることができる。

ただ、人間の空想力、想像力は未熟だ。そこには何かしらの「助け」がいる。そして、その助けるものこそ人形なのだ。人形の助けを借りれば、人間は空想力、無走力がぐっと高まる。「ごっこ遊び」もしやすくなる。

だから、その需要に応じて「人形師」という職業が生まれた。そして、これがあらゆるエンタメビジネスの根源である。小説もマンガも映画も、全て顧客の空想力、夢想力を助けるという意味において「人形」であり、クリエイターは「人形師」なのである。顧客は、その人形の助けを借りて、空想力、夢想力をふくらませ、浮き世の憂さを忘れる。そうして、精神的な安定を得る。

では、なぜそこで「箱」が必要なのか?

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