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2019年4月富岡浪江取材 荒らされた体育館

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〜〜〜〜〜

<続き>

ある意味異様な空間に車酔いのような感覚を覚えながら、イベント会場である富岡第二中を目指した。

この道を歩いてきた。左は帰還困難区域、右は桜のトンネル。

富岡第二中へ向かいながら脇を見る。バリケードだ。

無造作にフレコンバッグも置かれている。

(ここも)

桜並木を南下し、桜まつりが行われている会場である富岡第二中学までたどり着いた。校庭には仮設のステージが築かれている。

…なんだこれは。

ステージのイベントは6日だけのようだったが、露店はこの日も開店していた。ACIDMANの曲が全体に流れている。たくさん敷き詰められたテーブルとイスに多くの人が座り、食事をしながら過ごしている。

「ドラマチックトーン」で撮影してみる。今の自分が感じているままの空になった。おぞましい。

環境省、そして…

「日本原子力研究開発機構」

ここで思わず立ち尽くす。どんな神経をしてるのだろう。ここに来ている人たちは、この文字をどんな思いで見るのだろう。
この日はこんな状態で誰もいなかったが、もしいたら僕は詰め寄っていたかもしれない。地元では、JAEAはイベントの度に顔を出しているというし、そんなことをしてもただのクレーマーとしか見られないだろうけど。「もう8年も経つのに」と。

目の前で展開されている光景を、どんな思いで見ているのか。ずっと眺めてしまった。

僕は、昨年5月にここを訪れ、体育館の中が震災直後のままだったことが強烈に記憶に残っていたので、もう一度見に行ってみた。校庭でこんな祭りをしてるのだから、中は片付けたのだろう…

しかし、予想に反して中はそのままだった。いや、入り口付近に無造作に段ボールが置かれ、「荒らされた」という表現が適切かもしれない。震災後のまま片付けられることもなく、ただ祭りのための荷物置き場として中にたくさんの段ボールが持ち込まれていた。

祭りで復興“ムード”を演出したい人々によって「荒らされて」いた。

(昨年5月の様子)

まさかと思い別の入り口からも中を覗いてみたが、やはり体育館の中は一切片付けられることなく、震災直後のまま。そこにダンボールが運び込まれている。こんな光景を前にして、人々は祭りに興じ笑顔で豚丼を食べる。

紅白の垂れ幕もそのまま。体育館の周囲に人はいない。みんな見ないようにしてるのか、本当に気付かないのか。NHK、この狂気の空間をニュースで流したらどうだ? 新聞記者は、なんとも思わないのか?

これを見た僕の中で、沸々と湧き上がるものがあった。

体育館の脇に無造作に放置された自転車。この裏には、ロープが貼られて入れないエリアがあったが、そこには猪の糞があった。

眉間に皺を寄せながら校庭を歩いてみた。露店の中には、富岡町役場のブースもある。僕は思わず「あの体育館は何なんですか?」と詰め寄りそうになったが、思い留まった。役場職員はただ上の指示に従っているだけで、ここで文句を言っても彼らには迷惑でしかない。

(モニポ。毎時0.167μSv)

しかし手元のガイガーフクシマはこの数値だった。福島県外であれば、立入禁止で除染が必要な数値。しかし「福島差別!」「風評!」と言い募る人たちは、この福島県だけ違う基準を「福島差別」とは言わない。

(会場のレイアウトとプログラム)

顔出し看板からひとりマヌケ面晒して顔だしてみようか。もうヤケクソだわ。

お疲れ。もう二度と祭りの日には来ないよ。

(桜は綺麗なのに)

(続々と人がやってくる。彼ら全員に体育館の中を見てもらいたい。見ないだろうけど)

(荒れ果てている。100メートルも歩けばこんな場所ばかり)

野良ザクラ。こっちの方が僕は好きだ。

『ただ人だけが 何もなかったかのように 忘れたふりをする』

桜まつりの喧騒に乗れない僕は、大きな違和感と孤独を感じながらあの空間を歩いた。昨年、一昨年に訪れたときは誰もいなかった夜ノ森。未だに放射線管理区域レベルの空間線量があり、ゲートの警備員が被曝量を管理しながらマスクやゴーグル、専用の作業着で身を守りながら働く場所。そこに赤子を含めた多くの家族連れが何も気にすることもなく訪れ、祭りに興じる。行政がお膳立てした戦時中の特攻さながらのイベントを、嬉々として報じる大手メディア。ここで行われているのは、壮大な人体実験であり詐欺でありとんでもない棄民政策ではないかーーー軽い目眩を覚えながら、僕はそのある種「夢」のような空間から逃げるように去った。

…これが現実なのか。

<続く>


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