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漫画原作のドラマ化について

芦原妃名子『セクシー田中さん』小学館

もはや旬を過ぎてしまった感のある話題ですが、自分なりに落とし所を考察してみました。

『セクシー田中さん』とは

原作漫画『セクシー田中さん』のひとコマ

ドラマ『セクシー田中さん』は、2023年10月期に日本テレビ系で日曜午後10時半に放送されていた連続ドラマで、漫画家・芦原妃名子さんの同名マンガが原作。
主演は女優の木南晴夏さんで、地味なOLとセクシーなベリーダンサーの二つの顔を持つ田中京子役を演じる。
木南さんが演じる田中さんは、友人も恋人もいない、周囲からは変人扱いされている経理部のアラフォーOLだが、超セクシーなベリーダンサーである裏の顔があり、夜な夜なレストランで踊っている。
しかし、ある日、ひょんなことからその秘密を同僚の朱里に気づかれる。
朱里は、田中さんの生き方に憧れてファンとなり、同じベリーダンス教室にも通うようになり、普通の幸せを望んでいた無難な生き方に変化が生まれていく、というストーリー。

原作漫画『セクシー田中さん』のひとコマ

原作者が自死に至った原因とは

それで、なぜ騒動になっているかというと、作者がドラマの放送終了後に自殺したからです。

日本テレビ系列で2023年10~12月にドラマ化された漫画『セクシー田中さん』の原作者、芦原妃名子さん(50)が1月29日、栃木県日光市内で亡くなっているのが発見された。
報道によると、自宅からは遺書が見つかっており、警察は自死とみて調べを進めているという。
芦原さんはドラマ化を許可する際、原作の版元で著作権管理を委託した小学館を通じ、日テレ側に対して「必ず漫画に忠実に」と要請した。
譲れない条件だった。しかし、それは守られなかったらしい。
芦原さんは死の直前の1月26日、ドラマ化の経緯について振り返った文章を自身のブログに投稿していた(同28日に削除)

『セクシー田中さん』ドラマの原作改変、悲劇の背景を考える
https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g02381/

原作者の芦原さんは、全ての放送回の脚本に目を通してチェックしており、最終話の9~10話に至っては自分で脚本を執筆していました。

昨年10月期に放送された日本テレビ系ドラマ『セクシー田中さん』の原作者である漫画家の芦原妃名子氏が26日、自身のブログで全10話のうち第9話と10話の脚本を自ら執筆した経緯を説明した。
芦原氏は、「ドラマ化するなら必ず漫画に忠実に」「漫画に忠実でない場合はしっかりと加筆修正をさせていただく」「未完の漫画のこれからに影響を及ぼさないよう、原作者があらすじからセリフまで用意する」「ドラマオリジナル部分については、原作者が用意したものを、そのまま脚本化していただける方を想定していただく必要や、場合によっては原作者が脚本を執筆する可能性もある」といった条件を、小学館を通して日テレ側に伝え、了承を受けたことでドラマ化を承諾したと主張。
しかし、「作品の核として大切に描いたシーンは大幅にカットや削除され、まともに描かれておらず、その理由を伺っても納得のいくお返事はいただけない」という状況が続き、それでも加筆修正を行って「ほぼ原作通りの1~7話の脚本の完成にこぎつけた」という。

『セクシー田中さん』原作・芦原妃名子氏、9~10話の脚本執筆経緯を説明
https://news.mynavi.jp/article/20240127-2871418/

芦原さんがドラマの放送期間の後半で、焦りだした(と見受けられる)原因として思い当たるのは、下記の記事です。

10月の番組改編期を経て、多くのドラマの放送が始まっている。
本誌は、独自のアンケート調査を実施。
この秋に放送を開始したドラマで、「もっともがっかりしたのは?」を、テレビドラマ好きの20代から50代の全国の女性、500人に聞いた。
対象としたのは、ゴールデンタイムに民放局で放送されている15作品だ。

【第2位】95票『セクシー田中さん』主演・木南晴夏 日曜22時30分 日本テレビ系
地味なアラフォーOLの裏の顔は、超セクシーなベリーダンサーだった――というラブコメ。共演は生見愛瑠ほか。木南晴夏の熱演ぶりが話題なのだが。
「番宣をみてすごく期待していたが、実際には『なんか違う』感が。ストーリーがなんとなく読めてしまうからか」(20代・会社員・埼玉県)
「原作がおもしろくて期待したけど、やっぱりドラマになるとおもしろさも半減」(20代・秋田県・公務員)
『パリピ』にも言えることだが、やはり漫画原作ドラマ化の難しさはあるようだ。

「がっかりした10月新ドラマ」2位『セクシー田中さん』【女性500人に聞いた】
https://smart-flash.jp/entame/258720/1/1/

この記事が出たのは2023年10月27日で、ちょうど3話分くらいの放送が終了した時点での評価でした。
芦原さんは恐らく、この記事を読んでいたと思われます。
自分で脚本に手を入れたにもかかわらず、視聴率は5%台と振るいませんでした。

女優の木南晴夏さん主演の連続ドラマ「セクシー田中さん」(日本テレビ系、日曜午後10時半)の最終回が12月24日に放送され、平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区・以下同)は、世帯5.6%、個人3.1%だった。

ドラマ「セクシー田中さん」の視聴率記事一覧
https://mantan-web.jp/matome/%E3%82%BB%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%BC%E7%94%B0%E4%B8%AD%E3%81%95%E3%82%93/#matome-0

テレビドラマの視聴率は、15%以上が「高視聴率番組」のボーダーラインとされており、15%未満になると低視聴率とされています。
5.6%のような一桁台は、業界でいうところの「爆死」です。

爆死とは、ネットスラングの一種で、鳴り物入りで始まったアニメ・ゲーム・映画などの商業企画が結果として失敗に終わり、収益面で大損をしたりファンの失望を買った制作サイドへの揶揄として用いられる。

爆死とは
https://dic.pixiv.net/a/%E7%88%86%E6%AD%BB

原作をうまくアレンジできるかどうかが重要

原作漫画を超えたドラマは数多くあるわけで、要は、脚本家などの制作スタッフがいかにうまく原作をアレンジするかだと思います。

もちろん、漫画原作を実写化して盛大に失敗した例もあります。
みなさんもよくご存じの『ドラゴンボール EVOLUTION』とか(笑)

映画『ドラゴンボール EVOLUTION』より

脚本を担当した相沢友子さんは2022年に『ミステリと言う勿れ』という漫画原作のドラマ化でヒットさせている方で、少なくとも爆死請負人ではなかったでしょう。

亡くなった芦原さんには申し訳ないのですが、もしかしたら芦原さんが脚本に手を入れなかったら、もっと視聴率が上がったかもしれません。

最後に、漫画家の永井豪さんの言葉で締めたいと思います。

斬新な発想と個性的なストーリーで日本の漫画界に多大なる功績を残した永井豪。
数多くの傑作漫画の中でも代表作の一つとしてあげられる『キューティーハニー』が『CUTIE HONEY -TEARS-』(監督:A.T.ヒグチリョウ)として2016年、実写映画化された。
これまでのハニーとはまったく違う世界観で描かれた本作に「すごく良かった」と満面の笑顔を浮かべて語った永井だが、彼にとって、原作を映像作品に提供するということはどんな思いなのだろうか。

「映画は監督のもの、原作はお嫁に出したと思ってください」

永井の代表作は枚挙にいとまがないが、その多くがアニメ化や実写映画化などのメディアミックス展開を遂げている。
『キューティーハニー』も、これまでさまざまな形の表現方法で視聴者を魅了してきたが、本作もまったく新しい世界観となっている。
そのことについて永井は、「漫画と映画はまったく媒体が違うので、思い切って発想や切り口を変えたほうがいいものができると思っています。なまじ原作と似せて作ったりすると、色々なところが気になってしまうんですよ」と苦笑い。

作品がアニメ化や映像化される際、原作者の立場としては、「自分が直接作らないのであれば、一切口出しはせず、すべてお任せするようにしています」と永井は断言する。
こんな考えにたどり着くまでには色々なことがあったという。

「以前、とある実写映画化のとき、シナリオや設定が当初の話と、どんどん変わっていったんですね。
その際、色々な話をさせていただいたのですが、なかなかうまく進まなくて。
そんなときにあるパーティーで大林(宣彦)監督と話す機会があり『映画というものは監督のもの。(原作は)お嫁さんに出したと思ってください』って言われて吹っ切れたんです。
お嫁に行ったならしょうがないってね(笑)」

漫画家・永井豪「キューティーハニーは嫁に出した」実写と原作は全く別物https://news.yahoo.co.jp/articles/de69ffd273f79c7897cda45d865239c845178184

漫画が実写化される際に原作者が改変されるのを嫌がるのは理解できます。
私も、好きな漫画がドラマ化された際には、あちこち原作と異なる点が気になって、駄作に見えてしまうこともあります。
漫画と全く同じ内容にしないと気が済まない原作厨と呼ばれる人たちもいます。
でも、たとえ自分の意に沿わない形でもヒットしさえすれば、原作の株も上がるわけですから、漫画家は永井豪さんのように達観すべきではないでしょうか。

口出しするにしても、

私は漫画家なのでドラマは門外漢です。
なのでドラマ化についてはプロにお任せします。
原作者は一切口出ししませんので、どうぞご自由にアレンジして下さい。
ただし、爆死したら許しませんよ(笑)

と、このくらいのプレッシャーかけるぐらいで、ちょうどいいんじゃないかなぁと。

原作漫画『セクシー田中さん』のひとコマ

騒動があってから、私は『セクシー田中さん』の漫画版を電子書籍で読みました。
とても素晴らしい作品で思わず引き込まれました。
未完で終わったのが、とても惜しく感じます。
芦原妃名子さんのご冥福を心よりお祈りいたします。

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