書評「育成主義」(曺貴裁)

サッカーの監督で、戦術のことを語る監督はいる。戦術のことすら語れない監督もいる。でも、本当に監督がやるべきなのは、「どう戦う」かという戦略、いや戦略より深い「哲学」という言葉で表現されるようなことを語ることなのではないかと思っている。

哲学を語れる監督は少ない

そう考えると、ヨーロッパのトップクラブの監督の動向を追いかけても、戦術のことを語る人は多いけど、哲学を語れる監督は少ない。なぜなら、哲学を語るには「人としてどうあるべきか」が問われ、サッカーの言葉では通用しないからだ。

ヨーロッパのサッカーの監督のことを調べていて、哲学を語っている監督として思いつくのは、リバプールのユルゲン・クロップ、マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ、レアル・マドリーのジネディーヌ・ジダン、アタランタFCのジャン・ピエロ・ガスペリーニ、だろうか。

哲学を語り、選手に伝えられる監督は、心の底から選手を動かすことが出来る。なぜなら、選手だって人間だからだ。戦術も大切。技術も大切。でも、本当に大切なのは、人として自分が成長していると実感出来ることではないか。

ヨーロッパサッカーの監督ですら少ないのに、Jリーグで哲学を語れる監督は少ない。名古屋グランパスの風間八宏監督、松本山雅FCの反町監督は数少ない監督だし、最近はサンフレッチェ広島の城福監督の発言は、サッカーの戦術というより、よい意味で哲学っぽくなってきた。そして、FC今治の岡田武史さんも、哲学を語れる人だし、イヴィツァ・オシムという人は、監督というより、哲学者が監督をやっていたようにすら見えた。

監督の真価は「いかに選手を成長させるか」で問われる

そして、Jリーグで哲学を語れる監督としては、この人のことを忘れてはならない。「湘南スタイル」を築き上げた、湘南ベルマーレの曺貴裁監督です。

僕は曺さんが監督としてすごいのは、「選手を成長させる」ことだと思っています。選手の心を動かし、選手自ら行動し変化させる手腕は、Jリーグの監督としては随一です。

湘南ベルマーレのサッカーが、湘南ベルマーレのサポーター以外も魅了し、リスペクトされるのは、湘南ベルマーレの選手たちが生き生きとプレーしていることが、観客に伝わっているからだと思います。

前置きが長くなりましたが、本書「育成主義」は、そんな曺さんの「哲学」を読み解くことが出来る1冊です。

本書を読んでいると、曺さんは常にサッカーの事を考えているように見えます。常にサッカーの事を考えているからこそ、曺さんはサッカー以外のこと、自分のチーム以外の人にヒントを求めます。

ネットにアップされていた、カーリングの本橋麻里さんの言葉に共感し、年に1度FC今治の岡田武史さんに会いに今治に出向き、ミーティングでは日経平均の話をする。サッカーで表現出来ることを増やすには、サッカーだけではなく、人としての器を大きくしなければならないということを、曺さんは選手たちに伝えようとしています。真剣で、嘘をつかず、権力で自由を奪うようなこともしません。

もし、曺さんが日本代表の監督をやってくれたなら

僕は、風間八宏さんが日本代表の監督になったらということは考えたことはありませんが、曺さんが日本代表の監督をしたら、どんなサッカーをしてくれるのかなぁと考えたことはあります。

たぶん、ハリルホジッチが本当にやりたかったことを、曺さんなら、血の通ったチームとして、生き生きとした選手たちによって、表現してくれたのではないか。そんな事を考えたりします。

曺さんの著書は、出来る限り目を通していますし、湘南ベルマーレの試合は出来る限り観るようにしています。曺さんの取り組みからは、サッカーという競技の魅力が伝わってきます。そんな曺さんの哲学が読みとける書籍です。ぜひ読んでみてください。

書評「育成主義」(曺貴裁)

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西原雄一

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