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2017年J2第9節 名古屋グランパス対レノファ山口 レビュー「ようやく見えてきたチームの骨格と杉森が起用される理由」

2017年J2第9節、名古屋グランパス対レノファ山口は、0-2でレノファ山口が勝ちました。この試合はレビューとして試合の分析を行うというよりは、9試合を消化した時点での各選手に求められている役割、評価について書きたいと思います。

まず、開幕から9試合を消化し、5勝2分2敗という結果は悪い結果ではないと思います。2016年シーズンから20人以上の選手が入れ替わり、監督もスタッツも替わり、全く別のチームになった事を考えるとなおさらです。ここまでの9試合を観ていると、風間監督は自分のチームの選手がどのような能力を持った選手なのか、実戦を通じて見極めることに費やしてきたという印象を持っています。そして、9試合を消化し、誰が2017年シーズンのキーマンであり、選手毎にどんな役割を担っているのか、次第に分かってきました。

櫛引のパートナーを誰が務めるのか

GKは楢崎が起用されています。41歳を迎えても、向上心を保ち、パスを受けてもフィールドプレーヤー同様にパスをつなごうとする姿勢をみせているのには、頭が下がります。DFはこれまで全試合フル出場の櫛引がキーマンです。足の速さを活かした1対1の強さ、攻撃時に強気にボールを運ぶプレーは、いまやチームに欠かせません。ボールを止める動きもスムーズになり、縦方向のパスの精度も開幕後数試合から飛躍的に向上しました。

ただ、櫛引と一緒に組めるセンターバックは決まっていません。この試合で酒井が先発しましたが、前半は左のセンターバックを務めていたものの、後半に右センターバックに代わった事を考えると、風間監督はパフォーマンスに必ずしも満足していたとはいえない気がします。櫛引と一緒に組むセンターバックに誰が起用されるかは、名古屋グランパスの守備だけでなく、攻撃も左右する重要な問題です。僕は小林裕紀が怪我から戻ったら、センターバックで起用してもよいと思ったりしています。

名古屋グランパスのサイドバックに求められるのは、ボールを積極的に受けて、ボールを相手陣内に運び、攻撃の起点になるプレーです。攻撃のテンポも司る重要なポジションです。サイドバックは、右サイドバックに宮原、左サイドバックに内田が起用されています。

内田は貴重な左利きであるだけでなく、自信をもってボールを受けるプレーが出来る選手で、チームに欠かせない存在になりました。この試合はMFで起用されていましたが、攻撃時のプレーは悪くありませんでした。今後も対戦相手によっては、選択肢の1つになりうると思います。宮原は左右のサイドバック、センターバック、ボランチと様々なポジションで起用されています。1対1に強く、スピードがあり、ミスも少ない選手ですが、このチームではサイドバックかボランチで今後は起用されていくんじゃないかと思います。宮原のプレーを観ていると、バイエルン・ミュンヘンのフィリップ・ラームを思い出します。宮原の潜在能力はとても高いので、もっと自信をもってボールを運んだり、パスで相手の守備を崩すプレーを身につけて欲しいと思います。

風間監督の試験に「合格」した和泉

和泉、杉森、杉本、永井といった選手がウイングバックに起用されていたのは、「ボールを運ぶ」というプレーを披露して欲しかったのと同時に、180度しか観なくてよいので、目の前の敵を外す動きを身につけて欲しいという意図もあると思います。風間監督は、川崎フロンターレの時から、期待している選手はまずサイドでプレーさせ、相手を外す動きを身につけたり、チームのテンポに慣れたと判断したら、中央で起用てきました。大島僚太、小林悠、谷口彰悟といったプレーヤーたちもサイドでプレーさせましたし、大久保嘉人も加入当初はサイドでプレーしていました。

和泉は風間監督の試験に合格した選手です。この試合も後半からMFで和泉がプレーした後は攻撃がスムーズになりました。玉田同様に欠かせないチームに欠かせない選手です。和泉と玉田は、「ボールを受ける事を恐れない」、「常に相手ゴール方向に向かってプレーしている」、そして「動きを止めない」プレーが出来る選手です。MFは玉田と和泉をどう活かすのか、この2人を活かせるプレーが出来る選手を起用していくと思います。

田口、八反田、ワシントン、それぞれの選手の課題

田口はボールを止める動きが上手くないので、相手の守備者の間でボールを受けるのは得意ではありませんが、DFラインに近い場所でボールを受ける時は、正確なキックという強みを活かす事が出来ます。この試合でも、和泉と玉田の後ろでプレーしている時はとてもよいプレーをしていました。もっと強いパスで相手を動かせるようなプレーが出来れば、和泉、玉田、田口の組み合わせが第一候補だと思います。あとは守備時に相手の攻撃を止められるかだと思います。

ワシントンは身体が強く、守備が上手い選手です。しかし、攻撃時はボールを止める動きが田口と比べても上手くないので、どうしてもパス交換のテンポが遅くなってしまいます。八反田は「出して、受ける」プレーは素晴らしいのですが、守備が上手くないことと、相手の守備者が自分の近くにいる時にボールが正確に止まらない事があるので、今のところはパス交換のテンポが悪い時に、途中から出場してパス交換のテンポを上げる役割を担う選手だと思います。

誰に得点を取らせようとしているのか

問題はFWです。シモビッチ、フェリペ・ガルシア、佐藤、永井、押谷といった選手が起用されていますが、「誰に得点を取らせようとしているのか」試合を観ても分かりません。シモビッチに得点を取らせたいなら、サイドから高いパスを出した方がよいのですが、今のところそんな攻撃は1試合を通じて数えるほどしかありません。むしろ、シモビッチ、フェリペ・ガルシアといった選手たちはボールを受ける時のアクションが少ないので、なかなか相手ゴール方向にボールを運べない要因になっており、彼らの強みより弱みが目立ってしまっています。

永井は、サイドから相手の背中を取るプレーは少しずつ上手くなってきました。ただ、中央でプレーするには、もっと前後の動きだけでなく、左右の動きで相手の守備者を外す動きを身につけなければなりませんし、パスを受けたらスムーズに相手ゴール方向を向くプレーが出来ないと、中央ではプレー出来ません。まだまだ、中央でパスを受ける動きについては、佐藤の方が上です。

佐藤はこれまでシモビッチ、永井といった選手の動きにあわせてプレーする事を優先していて、自分の強みを100%発揮出来てはいません。しかし、和泉と玉田というボールを運べる選手がMFに増えたので、佐藤がゴール前の仕事に専念できる状況は整いつつあります。怪我から復帰したら、佐藤がFWの第一候補だと思います。

押谷は連続して動く事は出来ているのですが、スピードの強弱をつけて相手を外して狭いエリアでボールを受けたり、ボールを止める時にボールが身体から離れてしまう事があります。シュートが上手い選手であり、中央でボールを受ける事が出来そうな選手なので、問題が解決されれば継続して起用されると思います。

杉森が期待されている理由と課題

ただ、FWはこれだけ選手がいても、エースと呼べるような選手はいません。だからこそ、風間監督が期待している選手がいます。それは、杉森です。杉森が能力の高い選手であることは、ひと目観れば分かります。姿勢のよいドリブル、左右で蹴れるキックの強さ、バネのある動き、どれも能力の高い選手にしか持ち合わせていない動きです。ただ、杉森は明確な欠点もかかえています。それは、プレーの選択がミスだらけだという事です。「いつ」「どこで」「何を」するのか、「どう」ボールを受けるのか、ボールを受けたら次にどんなプレーをするのか、プレーの選択におけるミスが多すぎるのです。したがって、持っている能力を全く活かせていないのです。正直、中学生や高校生がするようなミスをしています。

この試合の前半20分、センターライン付近でボールを受けたにもかかわらず、杉森は相手の守備者が近くにいる状態で、玉田とのワンツーパスを選択します。目の前にスペースがあったのに、杉森はパスを出した後に、相手の守備者が近くにいる中央に向かって動き出してしまいます。パスを受けた玉田は相手の守備者だけでなく、杉森も寄ってきたため、ボールをコントロールするスペースを失い、ボールを相手に奪われ、相手の攻撃を受けてしまいました。このプレーからレノファ山口ペースになり2失点するまでチームはミスが続く事になります。このプレーの後、風間監督は杉森に対して「縦に走れ!」と大きなアクションも交えて指示をしていましたが、直後にアップになった杉森の顔は、パニックになった事がひと目で分かる顔をしていました。前半27分で交代されたのも分かりますが、ただでさえプレーの選択に難がある選手に対して、相手の守備が見やすいポジションで起用したいからといって、慣れてないポジションで起用するのは、無理があったのではないのでしょうか。僕は杉森のプレーが上手くいかなかったのは、本人の問題より、監督の問題だと思います。この試合は、杉森を前半27分で代えた時点で負けです。監督のミスで負けた試合だと思います。

ただ、そこまでして風間監督が杉森にこだわるのは、杉森が持っている能力をチームになんとか活かしたいと考えているからだと思います。ミスをしてもいいから試合に出して、様々な経験をさせて、最終的にチームに欠かせない選手に成長させたい。そう考えているからだと思います。僕は杉森には、いっそ本来のFWで起用してあげた方がいいと思います。今の名古屋グランパスのFWなら、誰が出てもそこまで変わりません。中央のFWもまだ固定されていません。この試合によって、もう当分杉森をサイドバックでは起用できなくなったのですから、FWで起用して、本人の心の負担を減らしてあげた方が、よいプレーが出来る気がします。

ようやくフォーカスすべきポイントが見えてきた

僕は名古屋グランパスのシーズンを追いかけると決めた時、誰に、どこにフォーカスしてよいか、決められずにいました。しかし、9試合を消化して、ようやくフォーカスすべきポイントが見えてきました。宮原、櫛引、内田、和泉といった新たにチームの中心になりつつある選手がどのようなプレーをするのか。そして、杉森が今後どのようなプレーをするのか。この2点に注目して、シーズンを追いかけていきたいと思います。

9試合を消化し、ようやく名古屋グランパスがどんなチームなのか、分かってきた気がします。今後のチームがどんな歩みを進めるのか、とても楽しみです。

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