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2017年J1第9節 セレッソ大阪対川崎フロンターレ レビュー「やせ我慢が足りない」

2017年Jリーグ第8節、セレッソ大阪対川崎フロンターレは、0-2でセレッソ大阪が勝ちました。観終わった時、久々にひどい試合を観たなと思いました。

ロングパスを活用するセレッソ大阪の攻撃方法

セレッソ大阪の攻撃は、2017年シーズンから尹晶煥監督が就任し、3年前のサガン鳥栖と似た攻撃方法に変わりました。

セレッソ大阪は、攻撃時に選手間の距離を長く保ちます。センターバックはペナルティエリアの横幅に広がり、サイドバックもタッチラインの横に移動します。セレッソ大阪は攻撃を仕掛ける時、杉本と山村の2人を狙って、ロングパスを蹴ってきます。2人がロングパスを競り合うのは、相手のサイドバック。サイドバックなら、背の高いFWが競り合えば、高い確率で競り合いに勝てるからです。杉本と山村が競り合った後、柿谷、清武がボールを受け、ペナルティエリア付近までボールを運び、2人の背後からサイドバックの2人がサポートします。

中央のMFを務める、ソウザと山口は、あまり攻撃を開始する時にパス交換には加わりません。2人の役割は、ペナルティエリア付近までボールを運んだ後、中央で相手ゴール方向を向いてボールを受ける事、そしてサイドからのパスを相手がクリアしたボールをひろうこと、そして、相手の守備者がペナルティエリア付近まで下がった事によって出来たスペースに走り込み、シュートを狙うプレーでした。

川崎フロンターレにとって厄介だったのは、セレッソ大阪の選手がサガン鳥栖に比べて、ボールを扱う技術に優れたチームだという事です。サガン鳥栖に比べてミスが少なく、清武、柿谷、杉本、山口といった選手は短い距離のパス交換も出来ますので、一度ペナルティエリア付近まで押し込まれると、なかなかボールを奪い返す事が出来ません。

また、厄介だったのは山村です。元々センターバックやボランチを務め、ボールを扱う技術に優れるだけでなく、ジャンプ力の高さは知られていた選手ですが、スピードが早くなく、ボールを奪うのが上手い選手ではないので、使い方が難しい選手でした。ところが、尹晶煥監督はトップ下と呼ばれる中央のMFで起用することで、山村の攻撃力を引き出してみせました。山村のプレーを観ながら、トップ下にポジションをコンバートして成功した、マンチェスター・シティのヤヤ・トゥーレを思い出しました。

杉本だけでなく、山村もヘディングが強いため、ヘディングに強い選手が少ない川崎フロンターレにとっては、なかなかロングパスを跳ね返す事が出来ず、ズルズルと押し込まれてしまいました。

谷口を中央のMFで起用した理由

川崎フロンターレは、この試合では谷口を中央のMFで起用しました。谷口を起用することで、山村に対するロングパスを跳ね返そうという考えがあったのだと思いますが、セレッソ大阪は谷口の守っている場所にはロングパスを出しません。したがって、谷口の守っている場所でロングパスを跳ね返し、セレッソ大阪の攻撃を防ぐという狙いは空振りに終わってしまいました。むしろ、谷口が中央のMFでプレーする時になぜか出るパスミスが目立ち、ボールが相手ゴール方向に進まない要因になってしまいました。

明らかに悪かった森谷のコンディション

もう1つ、谷口を中央のMFとして起用した理由が考えられます。それは、森谷のコンディションです。この試合、森谷は動きが重く、怪我を抱えているのではないかと思えるほど、コンディションが悪そうでした。攻撃時は特に問題なかったのですが、問題だったのは守備です。ペナルティエリアに向かって走ってくる、ソウザや山口に対するチェックが遅れ、何度もシュートを打たれてしまいます。森谷がきちんとアプローチしていれば、シュートを打たれなかったと思う場面でも、森谷は簡単にかわされ、反応が遅れていました。

鬼木監督は、森谷のコンディションの事はよく分かっていたのだと思います。だから、谷口を中央のMFで起用して、守備の強度を保ちたかったのだと思います。ところが、谷口は自分の役割を分かっておらず、ボールを必要以上に追いかけすぎて、守るべきペナルティエリア中央付近を空けてしまいました。したがって、守備でも攻撃でも、谷口をMFで起用した狙いは機能しませんでした。

大塚を残すべきか、残さないべきか

鬼木監督は、ボールを奪う位置を自陣ペナルティエリア付近まで下げる決断を下し、谷口をDF中央に下げ、守備時は4-2-3-1から変更し、5-4-1で守る事を決断しました。このフォーメーション変更によって、杉本と山村に対して、奈良と車屋がマークできるようになり、サイドバックが競り合う場面が減り、川崎フロンターレがボールを保持する時間が増えました。しかし、中央のMFの組み合わせが大塚と森谷に変更になり、谷口と森谷に比べたら、さらに守備の強度が落ちてしまいました。ただ、この試合大塚は動きがよく、川崎フロンターレの攻撃の選手の中では、最もよいプレーをしていた選手でした。大塚と森谷を起用して、ボールを保持する時間を増やすことで、守備をする時間を減らすか。大塚と森谷のいずれかを交代させて、守備を強化するか。鬼木監督が選択したのは後者でした。

後半開始から、川崎フロンターレは板倉が入ります。交代したのは大塚。森谷はそのまま残りました。ただ、疲労で動きが重い選手が多い中で、唯一ボールを受ける動きを繰り返していたのが大塚でした。大塚が走り回り、森谷が縦方向にパスを付ける事で、どうにか攻撃が出来ていたのですが、大塚がいなくなったことで、ボールを受ける選手がいなくなり、ただでさえ上手くいかなかった攻撃が、さらに上手くいかなくなってしまいました。さらに、板倉は攻撃時に谷口同様にパスミスを繰り返してしまい、交代前より状況は悪くなってしまいました。

動かない事で余裕をみせる

僕は、この試合は攻め込まれていましたが、0-0で後半25分まで進めばOKだと思っていました。チョン・ソンリョンが危ないシュートは止めてくれていましたし、相手の攻撃をペナルティエリア付近で跳ね返しながら、ゆっくりとパスを回し、相手がじれてから勝負しても良かったと思います。セレッソ大阪は積極的にボールを奪いにきていませんでしたし、大塚と森谷のところでパスは回せていました。苦しい展開でしたが、自分たちから動く必要はなかったと思います。セレッソ大阪は、この試合までリーグ戦2試合連続引き分け、カップ戦もあわせて4試合連続引き分け。0-0が続けば、どこかの時間で勝負を仕掛けてくる事は分かっていました。むしろ僕は0-1になってから仕掛けても良いと思っていたくらいです。

しかし、鬼木監督は早めに動きました。僕は動いちゃまずいと思っていた理由がもう1つあります。それは、相手に「余裕がない」という事を悟られてしまうからです。こういう試合は、やせ我慢するくらいでないといけません。持ち札がなくても、使えないはずの持ち札をあるように見せかけることも必要です。だからこそ、修正したくてもじっくり構えて、余裕がなくても余裕があるように見せなければなりませんでした。しかし、動いてしまったため、相手に「余裕がない」事を悟られてしまいました。

鬼木監督は、パスミスが多かった三好に代わって、後半19分にハイネルを入れます。しかし、この交代も機能しません。僕はハイネルを入れるのは悪くないと思いますが、ハイネルを入れるなら、相手が得点を奪いに来る後半30分以降だったと思います。セレッソ大阪が攻勢に出てきたら、サイドバックもより相手ゴール付近に位置取るはずです。そうすれば、攻撃時にはスペースが生まれるので、ハイネルのスピードがより活きたはずです。ハイネルが入ってから3分後に、0-1になったことで、ハイネルが活きるスペースがなくなってしまいました。

鬼木監督は3人目の交代として、森谷に代わって長谷川を入れます。しかし、長谷川、小林、阿部、ハイネルと並んだことで、ボールを運ぶ、受けるのが得意な選手ばかりが並んでしまい、彼らにボールを届ける選手がいません。僕は、こういう試合こそ、狩野の出番だと思っていました。チームが疲れている時に、のらりくらりと動いてボールを受けて、味方が次のプレーに動く時間を作ってくれますし、セットプレーの時には正確なキックは武器になります。ただ、狩野は出場せず、速く攻める必要のない試合で、速く攻める選手ばかりが入り、テンポのよいパス交換は時間が経つほど見られなくなってしまいました。

期待に応えられなかった森谷

鬼木監督の問題を指摘し続けましたが、鬼木監督が対処しようとしたのは、森谷のプレーが悪かったからです。森谷のコンディションも分かった上で、鬼木監督は森谷を起用しています。それだけ、この試合を迎えるにあたって、鬼木監督は森谷に期待していたのだと思います。しかし、森谷はそんな鬼木監督の期待に応えるようなプレーは、披露できませんでした。攻撃時も普段通りと言えば普段通りのプレーでしたが、この試合の森谷に求められていたのは、中村の不在を感じさせないくらいチームを引っ張り、「自分がチームを勝たせる」という気持ちを表現したプレーです。コンディションが悪いからこそ、森谷が普段披露してくれる熱い気持ちのこもったプレーが観たかったのですが、期待に応えられたとは言えません。

僕は森谷の能力をとても高く評価しています。しかし、この試合のようなプレーをしていては、たまにスタメンで出る程度の活躍しか出来ないでしょうし、大島、中村、エドゥワルド・ネットが復帰したら、ベンチに戻ってしまうでしょう。森谷にとって、今後を左右する大切な試合だったのですが、この試合のプレーに、僕はとてもがっかりしています。

「自分がチームを勝たせる」という気持ちがみられない選手が多い

ただ、森谷だけでなく、他の選手も「自分がチームを勝たせる」という気持ちがほとんど見られませんでした。気持ちをプレーで表現していたのは、チョン・ソンリョン、奈良、阿部、大塚、小林くらい。それ以外の選手は、淡々とプレーしていたように見えました。ACLのアウェーゲームから中4日、しかもアウェーゲーム。コンディションがきつい事は分かっています。しかし、こういう試合にどうプレーするかが、その選手が持っている本質だったりします。苦しい時にどう振る舞うか。勝負の世界で戦っている人としての振る舞いが、監督、選手ともに残念だった。僕はそう感じました。

最悪な試合をしましたが、まだまだリーグ戦は続きます。次節は中4日でホームゲーム。こんな試合は許されません。次の試合までの4日間で、チームがどんな準備をして、どんな試合をみせるのか。次の試合の戦いによって、清水エスパルス戦、ACLで持ち直してきた事が、全て帳消しになってしまいます。楽しみです。

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