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川崎フロンターレは37歳になった中村憲剛とどう向き合うのか

僕は、2017年シーズンは川崎フロンターレのプレビューとレビュー記事は、書かないつもりでした。書き始めたのは風間監督のチーム作りを学びたかったからであり、誤解を生みがちな風間監督の考え方を多くの方に知ってもらいたかったからでした。風間監督が退任された2017年シーズンは、プレビューとレビューはもう書かないつもりだったし、実際そう発表しました。

でも、時間が経つにつれて、追いかけてみたいテーマが1つ頭に浮かびました。このテーマなら書いてもいいな。そう思ったのです。僕が2017年の川崎フロンターレで追いかけたいテーマは、鬼木新監督の事でも、タイトル獲得までの過程でもありません。

川崎フロンターレは37歳になった中村憲剛とどう向き合うのか」です。

僕がこのテーマでチームを追いかけたいと思ったのには、理由があります。それは、2016年シーズンのMVPに輝いたとはいえ、中村憲剛のパフォーマンスが明らかに落ちてきていると感じるからです。


2013年シーズン以降、中村憲剛のプレーに少しずつ陰りが見え始めてきた

2016年シーズンの中村憲剛の成績は、31試合に出場して、9ゴール11アシスト。MFの選手としては、特筆すべき成績を残したように思えます。自ら「史上最高の中村憲剛」と語った2013年シーズンの成績が、7ゴール7アシストですから、いかに2016年シーズンの中村憲剛の成績がよかったかが分かります。

しかし、僕は2013年シーズン以降、中村憲剛のプレーに少しずつ陰りが見え始めてきたと感じます。敵が警戒している事もありますが、ボールを受けたら相手ゴール方向を向き、相手ゴール方向にパスをするシーンが減り、受けたボールを戻したり、横方向にパスするシーンが増えました。また、ボールを受けた後に、次のプレーまでに時間がかかるシーンを見かけるようになりました。僅かに次のプレーに移るアクションに時間がかかるようになったことが、中村の代名詞ともいえる「スルーパス」を出す機会が減った要因だと、僕は考えています。

中村のパフォーマンス低下に伴い、サイドを経由した攻撃が増える

2016年シーズンに中村が9ゴール11アシストという結果を残す事が出来たのは、他の選手の能力が向上し、ボールをゴール前に運ぶ事が出来るようになったため、中村が仕事をする場所が、ゴールにより近い場所になったからです。ただ、中村を経由する機会が減ったことによる弊害も生まれました。縦方向にパスを出し、相手を外して受けてを繰り返し、素早くゴール前までボールを運んで崩すゴールが、ほとんどみられなくなりました。

ボールは相手の少ないサイドを経由する事が増え、ボールを保持する時間は増えましたが、攻撃にかかる時間も増えました。そして、攻撃がサイドを経由するようになった要因の一つは、中村のパフォーマンスだと、僕は考えています。

中村も2017年で37歳になります。頭のよい選手なので、タイミングを見計らって、相手の動きを外したり、相手がいない場所をみつけて、ボールを受ける事は出来ます。しかし、ボールを受けた後、「よっこいしょ」と身体の向きを変える回数が、年々増えてきました。この「よっこいしょ」が入るだけで、パスをつなぐテンポは遅くなります。中村がボールを受けて、「よっこいしょ」と動く度に、わずかに空いていたパスコースが塞がる。そんなシーンを何度もみかけました。

中村のコンディションを判断するポイント

僕が中村のパフォーマンスを測る基準にしているのは、攻撃ではなく守備です。コンディションが良い時は、ボールを奪いに行くアクションの回数が多く、スプリントの回数が増えます。しかし、コンディションが悪い時は、守備の時はただ空いている場所を埋めているだけになり、ボールを奪いに行くアクションの回数が減ります。スプリントの回数も減ります。中村は2017年シーズンは、週1回のペースで試合をした場合、2試合目までは、よいパフォーマンスでプレー出来ていました。ところが、3試合目以降は明らかにパフォーマンスが落ちます。

Football LABというWebサイトの中村の個人データの「守備ポイントの変動」を見ると、試合間隔が中6日以上空いた時は、守備ポイントのグラフが右肩上がりに上がりますが、その後の試合で下がり、試合が続くと低いレベルで停滞している事がよく分かります。

余談ですが、中村のパフォーマンスが悪い時は、姿勢が前かがみになります。もともと猫背気味の姿勢ですが、身体の調子が悪い時は、より前かがみになります。

大久保嘉人が苛立ちをぶつけたかった本当の相手

中村のパフォーマンスが落ちたことで、もっとも影響を受け、苛立ちを募らせたと思われるのは、大久保嘉人です。大久保が理想としているのは、2013年後半から2014年前半の川崎フロンターレの攻撃だと思います。

攻撃の時に、大久保がボールを受け、キープし、時に「取りに来い!」と挑発しながら、相手を外す。大久保からボールを受けた他の選手が、ボールをゴール前まで運び、最後に大久保が再び受けて、ゴールを決める。サイドを経由しなくても、中央から相手の守備をかいくぐるようにペナルティーエリアに侵入し、ゴールを決める。このサッカーに魅せられた人も多いと思います。

ところが、中村のパフォーマンスが落ちたことで、中村から大久保というパターンでゴールを挙げる回数が減っていきました。大久保は、2016年シーズン中に「自分にもっとボールを預けて欲しい」「もっと縦方向にパスを出して欲しい」と要求し続けました。

大久保は、あえて「誰に」要求しているかは、言いませんでした。チームの雰囲気を考えて、あえて「誰に」対する発言か、言わなかったのだと思います。僕は、大久保は、中村に対して、この言葉を伝えていたのではないかと思っています。中村も理解していたと思います。しかし、中村は大久保の期待に応えるようなパフォーマンスを披露出来なくなりました。

僕は、2016年シーズンの川崎フロンターレの成績は、ギリギリいっぱいまで力を尽くした結果の2位だと思っています。36歳の中村、34歳の大久保をフル稼働させ、登録した全選手を試合で起用し、チームの力をぎりぎりまで引き出した上での2位。僕はそう感じています。

力の落ちたベテランの扱いが一番難しい

そして、2017年シーズンの川崎フロンターレには、重い課題と向き合わなければなりません。37歳になった、チームの象徴とも言える、中村憲剛をどう扱うかです。

昔、東尾修さんが「力の落ちたベテランの扱いが一番難しい」と語っていた事があります。プロとしてプレーしている以上、自分の力が落ちたと認めるのは、簡単な事ではありません。野球のピッチャーに例えるなら、150km/hのストレートを投げて、先発完投していたピッチャーが、速い球が投げられなくなり、スタイルや違う役割を求められた時に、適応するのは簡単ではありません。自分に照らし合わせて考えると、なおさらです。

中村のプレーを観ていると、満身創痍なのではないかと感じます。天皇杯決勝のプレーを観ていると、腰、足首といったところが痛そうで、身体が万全でなかったのだと思います。2週間のオフしかない状態でスタートした2017年シーズンは、ACLもあるため、コンディションを維持、向上させるのは簡単ではないと思います。

2017年の川崎フロンターレは、中村憲剛という、チームにとって大きな影響力があり、力が衰えつつある選手とどう向き合うか、大きな課題をつきつけられています。

鬼木新監督にとっては、避けては通れない課題です。この課題とどう向き合い、どう対応するのか。そして、中村はどのように抗うのか。どう対応するのか。僕自身も会社では中堅となり、中村のような立場に少しずつ近づいています。中村が置かれている状況を想像すると、結構辛いものがあります。だからこそ、2017年の川崎フロンターレは、中村憲剛とどう向き合うのか、注目したいと思います。


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