2018 FIFAワールドカップロシア ラウンド16 日本代表対ベルギー代表 レビュー

2018 FIFAワールドカップロシア ラウンド16 日本代表対ベルギー代表は、2-3でベルギー代表が勝ちました。

ベルギーの攻撃の方法に対する日本代表の対応

この試合のプレビューで、ベルギーの攻撃について、「前の5人と後の5人で役割がはっきり別れている」と書きました。ベルギーは、攻撃時は「5-0-5」にも見えるようなチームオーガニゼーション(システム)を採用します。後の5人は、DFの3人とMFのヴィツェルとデブルイネの5人。前の5人は、FWのルカク、アザール、メルテンス、両サイドのDFの5人です。

後ろの5人が横方向にパス交換をしながら、相手ゴール方向にパスを出すタイミングを探ります。5人とも、10〜15mほどの距離のパスが正確で、相手に奪われない速さのパスを出すことが出来ます。特にデブルイネは、ハーフラインを超えたら、どこにでも、正確に、意図したパスを出せる選手です。

この5人がパスを出すタイミングに合わせて、前の5人は動いてパスを受けます。前の5人と、後の5人の間は10m程空いているのですが、空いているエリアに相手選手が立っていても、関係なく正確にパスが出せるのがベルギーの強みです。そして、前と後に5人ずつ割くことで、数的優位を作り、ボールを奪われにくくしています。

Jリーグだとペトロビッチ監督が率いたチームで採用している攻撃なのですが、パスの正確性と強さは、ベルギーの方が圧倒的に上です。他のチームはあまり採用しない独特の攻撃に対応しないと、勝ち目はありませんでした。

対応する方法として考えられた方法は2つあります。

1つ目は、これまでの試合と同じように、4-4-2のチームオーガニゼーションを維持しながら、相手に中央から攻撃されないように守る。そして、2つ目は、FWのラインに5人いるベルギーにあわせて、後ろを5人にして守る。2つ目の方法が、Jリーグの試合でよく採用されている守備です。

試合前に1つ目の方法がよいのではないかと語っていたのは、オランダの名門クラブ、アヤックスで海外のクラブや選手のスカウティング、コンサルティングを担当し、オランダナショナルチームU-13、U-14、U-15の専属アナリストを担当されている白井裕之さんです。

ちなみに、僕は2つ目の方法がよいのではないかと思っていました。その理由は、日本はガーナ代表との試合で、5-4-1での守備を試していたこと、そして、日本には長谷部という状況に応じてプレーできる選手がいるので、長谷部を下げて5人で守る方法が、最も効果的なのではないかと思ったのです。

では、日本はどう守ったのか。答えはこうでした。

変則的ではありましたが、日本の守り方は5-4-1、あるいは4-1-4-1に見えるチームオーガニゼーションで守りました。

ベルギーがセンターラインを越えるまでは、大迫が3人のDFをマークしつつ、香川は大迫のサポートを担いつつ、MFのヴィツェルへのパスコースを消します。柴崎はデブルイネをマーク、乾は右DFのアルデルワイレルトとムニエの間、原口は左DFのフェルトンゲンとカラスコの間に立ちます。

長谷部、吉田、昌子の3人で、ルカク、アザール、メルテンスをマーク。長友はややメルテンスに近い位置に立ち、ムニエは少しフリーにします。酒井宏樹はアザールを見つつも、長友よりはカラスコに寄った位置に立ちます。アザールがボールを持ったら、長谷部、柴崎、吉田で挟み込み、時に原口もサポートに加わります。

ベルギーのチームオーガニゼーションに合わせつつ、ある程度誰をマークさせるかをはっきりさせ、数的優位を生じさせないようにして守り、ベルギーの攻撃を防ごうという意図がうかがえました。

ボールを奪いにいくポイントや、どんなタイミングでボールを奪いにいくのかも、どう対応するのかも、チームとして明確でした。

DFであれば、狙いはコンパニーとアルデルワイレルト。デブルイネはボールを持ったら素早く挟み込み、ヴィツェルは横方向のパスをさせるように誘導。アザールは横や後ろにドリブルさせても、前にはドリブルさせない。メルテンスは長友がマークして潰す。ルカクは昌子が対応しつつ、空けたスペースは長谷部がカバー。大迫の動きに応じて守備位置を調整しつつ、香川と柴崎がMFからの声かけに応じて、大迫との距離を調整し、選手同士の距離が広がりすぎないようにサポートする。そして、ベルギーがセンターラインを越えたら、4-4-2の守備に移行します。選手たちの動きからは、短期間ですが、細かい約束事を決めて、試合に臨んでいたことがよく分かりました。

ベルギーに対する守備は、ある程度機能していました。ベルギーはワールドカップが開幕してから、緻密に対策を施したチームと対戦していません。ボールを扱う技術で日本の守備を外し、チャンスを作り出していましたが、これまでの試合のように、自分たちの意図した通りにボールを運ぶことは出来ませんでした。

日本代表はベルギーをどのように攻撃したか

日本は攻撃もベルギーに対する対策を準備していました。緻密に準備していたのはロングパスの使い分けです。ベルギーはこれまでの試合よりは、FWが守備の時にボールを奪いにきていました。ベルギーはボールを奪うアクションは早くて力強いので、短いパスをつなぐだけでは、ボールを相手陣内に運ぶのは難しいのですが、日本は上手くロングパスを活用して、ボールを運んでみせました。

ロングパスで狙っていたポイントは2つあります。1点目は左DFのフェルトンゲン。フェルトンゲンはボールを扱う技術に優れ、正確な左足のキックをもっている選手です。一方で、ヘディングの時にも味方につなごうとするあまり、ボールを弾く距離が短くなるときがあります。日本はロングパスをわざとフェルトンゲンの辺りに蹴って、フェルトンゲンが跳ね返したボールを拾って、陣地を進めていました。

2点目は右DFのアルデルワイレルトとムニエの間です。ムニエという選手は、ボールを追いかけるアクションをサボる傾向があるのですが、アルデルワイレルトはムニエとの距離を空けがちで、2人の間にスペースが空いていることがあります。この2人の背後を日本は明らかに狙っていました。左DFのフェルトンゲンのクリア、もしくは大迫がコンパニーに競り勝ってキープしたボールをつなぎ、左サイドに運んで、ペナルティエリアに侵入し、シュートチャンスを作り出す。このプレーでチャンスを作り続けました。

勝敗を分けた選手交代

勝敗を分けたのは、両チームの選手交代です。

ベルギーは65分にカラスコに替わってシャドリ、メルテンスに替わってフェライニを入れます。フェライニはヘディングが強い選手なので、サイドからのパスやロングパスにヘディングで競り勝ち、起点を作ってもらおうという狙いが読み取れました。身長が低い選手が多い日本にとって、194cmのフェライニをマークするのは難題でした。

そして、シャドリがカラスコに替わって入ったことで、酒井宏樹がシャドリに対応しなければならない時間が長くなっていきます。

酒井宏樹、柴崎といった、ポーランド戦に出場した選手は、時間が経つにつれて、少しずつプレーの質が落ちていきました。2失点ともセンターライン付近でパス交換が上手くいかず、ボールを奪われてベルギーの攻撃を受けたことが要因で生まれた失点なのですが、後半20分頃から日本選手の足が止まり始めていました。

ただ、西野監督は動きません。2失点目前には原口も足がつっていたのですが、本田と柴崎が入ったのは、2失点目から7分後。準備が遅れたことは否めません。そして、この選手交代は、微妙に勝敗を左右しました。

山口に引き継がれなかった柴崎の役割

僕が気になったのは、山口のポジションです。柴崎と同じ役割を担い、デブルイネをマークするのかと思ったのですが、山口はポーランド戦と同じ中央左側のMFに入ってしまい、長谷部とポジションが重なってしまいます。

長谷部は気を効かせて右に移動するのですが、この微妙な変更によって、守備の位置取りが狂います。そして、柴崎を替えたことで、相手の守備を動かすようなパスが減ります。

僕は山口ではなく、大島でも良かったと思います。大島のボールを運ぶドリブルは、スペースが空き始めた試合終盤でこそ、効果を発揮したはずです。確かに、ベルギーが背が高い選手を入れたのに、背が低い大島を入れる事をためらうのは分かります。でも、僕は攻撃する事で道を開いてきたチームらしくない交代だと感じましたし、スタッフも山口にきちんとやるべきことを伝えていたのか疑問に感じました。

選手交代の影響を受けた3失点目

そして、本田と原口を替えたことは、決勝点にも微妙に影響しました。普段、コーナーキックの時に、自陣で守っているのは、原口と長友と長谷部です。

しかし、決勝点の時は、山口と長友と長谷部。山口が中途半端にデブルイネに対して距離を詰めた結果、シャドリがフリーになってしまいます。結果論ですが、デブルイネに距離を詰めず、シャドリをマークするという方法もあったと思います。悔やまれるプレーでした。

ベルギー、日本、共に延長を見据えていたため、選手交代は2人しか行ってませんでした。紙一重の差だと思いますし、日本はベルギーのゲームプランを妨害し、上手く試合を運んでいました。

消耗していた選手たち

紙一重の差を分けたのは、コンディションだと思います。ベルギーはイングランド戦からスターティングメンバーを10人替えて臨めました。一方の日本は6人。そして、3人は交代出場しています。気温35℃の試合の後、中3日で迎えた試合にコンディション万全で臨めた選手が少なかった事が悔やまれます。

予選リーグ1位なら中4日ありました。セネガル戦で勝ち切れなかったこと、ポーランド戦でエネルギーを消耗したメンバーがいたことなど、ちょっとしたことの積み重ねが、試合結果に影響してしまったと、僕は感じています。

吉田、酒井宏樹、長友、柴崎は4試合通じて素晴らしいプレーを披露しましたが、疲労の色は隠せませんでした。入れ替える選手との実力差、起用出来るレベルの選手が少なかったことは、西野監督の責任ではありません。

出来る限りの緻密な準備をしてきた日本代表

西野監督とスタッフは、出来る限りの緻密な準備をして、大会に臨んだと思います。コンディション、戦略、戦術、選手交代など、出来ることは全てやったと思います。

特に相手チームへの対策は、宿舎内で動きの確認含めて、綿密に行っているのだなと、プレーを観ていて感じました。攻撃、守備、それぞれに幾つもの約束事を設け、選手は忠実に実行する事で、相手チームとギリギリの戦いを繰り広げてきました。もしかしたら、他のチームは日本ほど約束事を細かく設けていないかもしれません。よくこの短期間で間に合わせたなぁと思います。何気なくつながるパス1本にも、チームの意図がきちんと感じられました。だからこそ、チームの戦いを評価する人が少なくないのだと思います。

ただ、出来る事はすべてやったと言っても、1ヶ月の準備では、限界があります。短期間で詰め込んだ結果、理解度に差が出た事は否めません。そして、選手が交代した後のセットプレーの守備など、詰めきれなかった項目もあります。西野監督が悔いが残っていることがあるとしたら、細かく詰めきれなかった失点に直結したり、勝敗を左右した問題が解決できなかったことかもしれません。

この試合のレビューの終わりに代えて、試合とは関係ありませんが、ずっと書きたかったことを書きたいと思います。読みたい人だけ読んで頂ければよいので、有料にします。

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西原雄一

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