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長尾彰さんインタビュー「指導」と「刺激」とチームの話

ひょんなことから、組織開発ファシリテーターの長尾彰さんにお会いしたのが、2018年12月。元々チームビルディングやファシリテーションについて興味があったので、「勉強会をやってほしい」とお願いしたところ、快く引き受けてくださったことがきっかけで、いろいろ話すようになりました。

みんなで力をあわせて、みんなで同じ"言葉"を使って、同じ絵を描く。それが理想のチームだということばを耳にするのですが、僕はずっと「違う」と思っていました。

1人1人がバラバラに見えても、全力が発揮できるチームの方が、よいチームじゃないのか、と。

知り合って、いろいろな場所で、いろいろな話をしていくうちに、僕と長尾さんが考える「チーム」に対する考え方は、共通する点が多いのではないかと思うようになりました。8月1日にBOOK LAB TOKYOで実施した勉強会の前に、長尾さんにお話を伺いました。

「指導」の人、「刺激」の人

――長尾さんの著書には、「理想のチームはない」と書いてあったけれど、「理想のチームはない」という話をする人は少ないと思います。でも、僕は元々「理想のチームはない」と思っていたし、レビューに何度も書いてきたのですが、理解してくれている人は少数だったんです。

長尾:今いるメンバーで100%出せるチームが理想のチームだから、成果に対する責任を掲げている人は、理想のチーム像を掲げない。その時々でベストが出せるチームが理想のチームだから。

――その話を聞いて頭に思い浮かべたのは、元800m日本記録保持者の横田真人さんのチーム。横田さんのチームは、所属先、競技、性別が全然違うし、メニューも違う。目標がバラバラだけど、「横田さんからコーチを受ける」という目的でつながっているチームなので、チームメイトが勝ちそうなら、ライバルを応援するような選手がいると聞いたことがあるんだけど、「横田組」と言われるほど、妙な連帯感があるように見えます。

長尾:たぶんなんだけど、横田さんは、セルフコーチングでやってきたから、理想のコーチも、理想のチームもないのだと思う。

「宇宙兄弟 今いる仲間でうまくいく チームの話」に書いたんだけど、マインドセットには「価値観」「信念」「世界観」の三点セットがある。価値観は好き嫌い、信念は正しいか間違っているか、世界観は美しいか醜いか、なんだけど、話を聞いていると、横田組は「世界観」でつながっているチームだと思う。

世界観でつながっているチームは、選手たちが自立している感じがする。選手の壁打ち相手として、横田さんがいる感じじゃないかな。こうしろ、ああしろって、全然言わないと思う。世界観だけでつながる強さがある。

――僕はチームとは「バンド」だと思っているのですが、長く続いているバンドほど、メンバーの個性がバラバラだと思う。

僕が10代の頃から好きだったLUNA SEAというバンドは、ドラムは能楽師の息子、ベースはパンクロックが好き、ギターは1人がバイオリンが弾ける人で、ボーカルはソロではポップスを歌ったりとバラバラ。でも一緒に演奏すると不思議な一体感がある。それって、どうやったらできるんだろうと疑問でした。

たとえば、風間八宏という指導者は、ひたすら「個」にこだわる。一人ひとりが上手くなることが、チームを強くすると考えている。

長尾:おそらくなんだけど、「個」に対する敬意があるんだと思う。集団で見ず、一人ひとりを尊重するからだと思う。

風間さんもそうだと思うけど、チームの中にムーブメントを作ろうとする特質があるんじゃないかな。例えば、小学校だと最初にキン消し持ってきて、次の人もキン消し持ってきて、というようなムーブメントを作るのが上手いんじゃないかな。

――風間さんはムーブメントを作るために、チームで一番上手い人を焚きつけようとする。川崎フロンターレだと中村憲剛だし、名古屋グランパスだとジョーだと思うんですが、一番上手い人を焚き付けて、チーム全体を巻き込もうとしているように見える。

長尾:そこの考え方は、僕も風間さんとおそらく同じ。実力が上の人に火をつけないと、下の人に火はつかないと思う。企業研修でどこに予算をかければよいかというと、新人ではなく、マネージャーにコストをかけた方がいい。そして、マネージャーの中でも、自分で手を上げて、研修に参加してくれる方がいい。そういう人たちが、チームを変えてくれる。

――僕は風間さんに会ったことはないけれど、もし風間さんに会えるとしたら、聞いてみたいことは一つだけ。なぜこんなチーム作りの方法を知っているのか。それだけなんです。

ダイナミックとスタティック

――「目を揃える」という話って、一般的なチーム作りの話として言われる話なんですか?

長尾:言わないと思う。みんなが同じ方向で、同じことを出来るようになるまでリーダーが引っ張るというのが、一般的なチームビルディングの考え方。

でも、今いる人たちで成果を上げるには、揃えようとせず、それぞれがベストを尽くせる環境を整える。それしかないと思う。

――僕は、一緒に同じ考えでやるのは、リーダー役の人にとってはストレスは少ないし、成果が出るのも早いだろうけど、限界がくるのも早いと思っています。

長尾:ダイナミック(動的)とスタティック(静的)の違いだと思う。状況も、関係性も、能力も変わらないことが前提なら、スタティックスにアプローチするほうがいいと思うけど、状況も、関係性も、能力も、日々変わるのだから、変化に応じてベストが尽くせるように環境を整えていくしかない。

――「目を揃える」チームの取れ高は、まちまちになると思っている。取れ高に差が出るのはしょうがない。ジャズバンドの演奏みたいなもので、最高の演奏と最低な演奏に差があるようなものだと思っています。

2018年のJリーグで、名古屋グランパスは14試合勝ちなしという期間があり、8連敗も経験した。14試合勝ちなしの期間中も、風間さんは全く慌ててなくて、その後7連勝して、結果的にはJ1残留を果たした。僕は7連勝している名古屋グランパスを見ながら、こんなことを考えてたんです。

「7連勝はいいけど、14試合勝ちなしで失った勝ち点をどう取り返すつもりだったんだろう...」って。

長尾:自分の中でアイディアが浮かんだんだけど、ダイナミックなアプローチをする人は「刺激」を与えるのが上手いけど、スタティックなアプローチをする人は「指導」するのが好きなのだと思う。「刺激」と「指導」の違い。風間さんは揺さぶるのが上手いと思う。

最近研究会を立ち上げた「ナッジ」も「刺激」なんだよね。「刺激」に対しては、人それぞれ「反射」をする。反射をした人はすぐに行動につながる。でも、「指導」は、指導されたことを咀嚼しなきゃいけない時間があるから、行動に移すまでに時間がかかる。でも、「刺激」は行動に移すまでに、時間がかからない。

ダイナミックとスタティック、刺激と指導の違いじゃないかな。

――僕からすると、グアルディオラという指導者は「指導」の人に見えます。クロップはグアルディオラと違って「刺激」の人に見えるけど、サッカーの最先端には指導の人が多いように感じるのは、なぜでしょうか。

長尾:メンバーのスキルレベルが一定だからじゃない?

「できる」ことが前提の人たちだから、育てる必要がないし、ああしろ、こうしろのほうが、話が通じる。官僚みたいなもので、解釈ができる選手たちが揃っているから、上手くいくのだと思う。

ところで、オシムって刺激の人じゃない?

――刺激の人!僕は刺激の人に興味がある。クロップとかアッレグリのような監督に興味がある。アッレグリのチームの選手は、気持ちよくプレーしているように見えます。

オシムさんの練習メニューは「こんな問題があります。あなたはどう解きますか?」と選手に問いかけている練習メニューに見える。他の指導者は「解き方を教える」メニューを実行しているように見える。他のチームも実行しようとしているけど、オシムさんのようには上手くできない。

長尾:彼らの刺激はいい刺激なんだろうね。上手な整体みたいなもので、ギリギリ痛いみたいな。

「刺激」は再現性が低い。その時々の刺激で反応が違うから、前はこの「刺激」でよかったけど、今日はこの「刺激」でダメだったということはある。「刺激」が上手い人は、見立てが上手なんじゃないかな。腰が痛い患者の治療で、足の裏を揉んで治すみたいな。

チーム作りをしていると悩むことがあって、それは個人の悩みに対して、どれだけ集団が個人の内面に関与するかってことなんだ。

指導って内面への介入だから、コーチングであっても、内面に介入していくのは同じ。でもそれを「刺激」って考えると、人によって好ましい刺激は違う。人にあった「刺激」を与えらえる人は、よい指導者や先生になれると思うな。

(Photo:Yuki Iwasaki)

※公開後にタイトルとテキストを調整しました。

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