書評「新版 社員をサーフィンに行かせよう―――パタゴニア経営のすべて」(イヴォン・シュイナード)

本を読んでいると、何気なく手に取ったのだけど、妙に印象に残った本というものがあったりします。10年以上前、表参道のIDEE CAFEに置いてあった1冊の雑誌が、ふと僕の目に止まりました。その本は、Tarzanのパタゴニア特集。

パタゴニアが教えてくれること」というタイトルがつけられた雑誌には、パタゴニアの商品がただ紹介されているわけではなく、働き方、環境への配慮、流行を追うのではなく本質を追求するといった、パタゴニアの理念を詳しく紹介した雑誌でした。僕はこの雑誌をボロボロになるほど読みました。

このジャケットを買わないで

パタゴニアは、NewYork Timesに2011年に掲載したある広告で話題になりました。広告のタイトルは、「Don't Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」。掲載されたタイミングは、「ブラックフライデー」。

アメリカでは11月の第4週の金曜日はクリスマスへ向けたセールシーズンの幕開けの初日として、一部の主要小売店などは営業時間を変更し、安売り大セールを繰り広げます。パタゴニアはあえてセールが開催されるタイミングで、こんな広告を掲載したのです。

パタゴニアはこんな広告を掲載したのはなぜか。

掲載した理由は、消費者が商品を買うということは、温室効果ガスを排出し、廃棄物を生み、貴重な水を大量に消費し、環境に大きな影響を与えているということを、このタイミングで考えてほしかったからです。もちろん、パタゴニアは、物を作り、販売するビジネスをしています。「偽善者」と呼ばれることを承知の上で、パタゴニアはこのようなメッセージを発信しました。

なぜなら、「ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」というのは、パタゴニアのミッションの一部だからです。

パタゴニアという会社は、どんな会社なのか。どのような考えで経営されているのか。多くの経営者が、パタゴニアの経営を参考にしていると聞いたことがあります。

本書「新版 社員をサーフィンに行かせよう———パタゴニア経営のすべて」は、パタゴニアの創業者のイヴォン・シュイナードが、パタゴニアの沿革、経営理念、取り組みなど、パタゴニアという会社がどのような会社なのか、詳しく紹介している1冊です。

パタゴニアが社員の20%を解雇して気づいたこと

本書を読んで最も印象に残ったのは、パタゴニアが経営の危機に瀕していた時のエピソードです。

年率30%から50%(!)で成長してきた会社の成長が鈍化し、在庫が増え、融資限度額は引き下げられ、経費削減が求められた結果、全従業員の20%を解雇するという決断を下します。アウトドアメーカーとして、友達のアウトドア経験者を雇い、友達の友達を雇いといった具合に、社員同士の絆が強かったパタゴニアにとっては、とても大きな出来事でした。

危機に瀕する前に、イヴォン・シュイナードは会社の状況に危機を感じ、あるコンサルタントに会いに行きました。あるコンサルタントに「事業をしている理由」を聞かれたイヴォン・シュイナードは、「環境活動への寄付の資金を得るためだ」と答えました。

答えを聞いたコンサルタントは、しばらく考えた後「それはたわ言ですな。寄付がしたいのなら、会社を売ればよい」と答えたそうです。

同席していたパタゴニアの経営幹部から抗議の声が上がりますが、コンサルタントは涼しい顔でこう口にしました。「つまり、あなたは自分に嘘をついておられるわけですな。事業をしている理由について。

なぜ、パタゴニアを経営しているのか。イヴォン・シュイナードは危機に瀕しているまさにその時、幹部をアルゼンチンのパタゴニアに連れていき、風の吹きすさぶ山々を歩き回り、なぜビジネスをしているのか。パタゴニアをどういう会社にしたいのかを考え続けました。

その後、イヴォン・シュイナードは悩んだ末に、「なぜパタゴニアを経営するのか」という答えにたどり着きます。たどり着いた考えは、パタゴニアの理念としてまとめられています。

最近僕は、多くの人に「あなたは何がしたいのか」とよく聞かれます。自分自身明確な答えがあるわけではありませんが、自分自身の事を考えるにあたって、とても参考になる1冊でした。経営者の方には、特に読んで頂きたい1冊です。

「新版 社員をサーフィンに行かせよう———パタゴニア経営のすべて」


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西原雄一

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