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2017年J1第4節 FC東京対川崎フロンターレ レビュー「点差通りの試合。勝敗を分けた選手交代」

試合後の僕のTwiterのタイムラインには、「点差程の差はなかった」というツイートが流れてきたのですが、僕はそう思いませんでした。点差通りの試合だったと思いますし、終始FC東京が試合をコントロールした試合だったと感じました。

FC東京の川崎フロンターレ対策

FC東京は2016年の試合同様に、川崎フロンターレのセンターバックがボールを持ったら、積極的にボールを奪いにきました。特に奈良がボールを持った時はFWの阿部が寄せて、ボールを奪おうとします。橋本と高萩の2人は、大島とエドゥアルド・ネットをマーク。FWの動きにMF、DFの選手も連動し、選手間の距離も短く、川崎フロンターレにボールを受ける場所を与えません、

FC東京の攻撃時の狙いは明確でした。効果的だったのは、ロングパスです。

ボールを持った時、森重、丸山、そして高萩といった選手からのロングパスを起点に攻撃を仕掛けます。特に田坂と谷口の背後に狙いを定め、背後に出たボールの処理が上手くない選手に狙いを定め、川崎フロンターレのDFラインを押し下げる事が狙いでした。また、攻撃の時はDFの4人が広がり、距離を広くすることで、川崎フロンターレがボールを奪おうとしても、1人1人の距離が広くて、なかなか連続してボールを奪いにいけません。

川崎フロンターレが阿部をFWに起用しているのは、阿部の守備の上手さを活かして、より相手ゴールに近い位置でボールを奪いたいからなのですが、FC東京はその狙いをわかった上で、阿部を起点にして守備をさせないようにしていました。

DFとMFの間で受ける選手がいない

川崎フロンターレは、どうにか中央から攻撃を仕掛けようとします。阿部がDFラインの背後を狙って何度も動き、大島とエドゥアルド・ネットが少し下がった位置で受けることで、DFとMFの間を空けようとします。

空けたスペースで誰かが受けられればよかったのですが、本来その役割を担うはずだった中村は、受けられる位置にいません。中村は選手間の距離が狭いと、コンタクトをしない位置でボールをもらいたがる傾向があります。また、コンディションが悪いとその傾向が強まります。この試合は、コンタクトを避ける&コンディションが悪いという状況も重なり、いつも以上にボールを欲しがって下がってしまったため、間で受ける選手がいませんでした。

登里や小林が何度か受けてくれましたが、2人が受けた後、次に受ける選手がいません。サイドにパスをすると、サイドバックの田坂と車屋が受けるのですが、相手のサイドバックとサイドハーフに囲まれ、2対1になってしまい、攻撃はやりなおし。そんな場面が何度もみられました。

また、阿部の動きも効果的だったとはいえません。DFラインの背後を狙う動きは悪くないのですが、受けるふりをして、DFとMFの間で受けるなど、いろんな動きを交えて、揺さぶっても良かったと思います。

また、ボールを受けても、ワンタッチかツータッチで味方にバックパスするだけなので、せっかくよい場所で受けてもボールが下がってしまうので、結局攻撃が半歩後退してしまうような場面もみられました。ボールは受けられてきているのですが、まだまだ他の選手のリズムにあわせて受ける事が出来ていませんでした。

試合を動かした選手交代

この試合を動かしたのは、両チームの監督の選手交代でした。まず、鬼木監督が動きます。ボールを受けられない、守備がはまらない阿部に替わって、ハイネルを入れます。小林をFWに上げて、ハイネルを右サイドに入れます。登里がいる左サイドは上手く攻撃が出来ていましたが、右サイドは攻めきれていませんでしたので、ハイネルの強みであるスピードを活かして、もっと押し込みたかったのだと思います。

しかし、この交代は効果的ではありませんでした。ハイネルも阿部同様に、チームのリズムにあわせてボールを受けられないという問題をかかえています。ハイネルが入った時間は、後半11分。まだ選手間の距離も短く保たれており、ハイネルの強みがなかなか活かせるようなスペースは生まれません。

登里がいる左サイドが上手く攻撃出来ていた要因は、FC東京の右サイドの守備、特に永井の守備が原因でした。永井は足も速く、シュートも上手い選手ですが、1つのアクションを終えてから、次のアクションの移るまでに立ち止まってしまう傾向がある選手です。連続して動くというプレーが得意ではありません。永井の問題は、守備で弱点として現れます。永井が一呼吸置いて立ち止まった時、その隙を見逃さずに登里が上手く動いてボールを受けてみせます。サイドバックの室屋は、1対1もしくは2対1を強いられ、後手に回る場面がみられました。

FC東京の篠田監督はその事を分かっていたので、後半17分に永井に替えて、ピーター・ウタカを入れます。一見攻撃のための交代のように見えますが、これは守備を重視した交代でした。阿部が右サイドに入ったことで、次第に川崎フロンターレは左サイドから攻撃出来なくなっていきます。

篠田監督の選手交代は的確でした。後半5分に橋本がイエローカードをもらった後、立て続けに2回ファウルしてしまいます。特に2回目のファウルは、ユニフォームを引っ張っていたので、2枚目のイエローカードが出てもおかしくありませんでした。しかし、イエローカードは出ません。ここは勝負の分かれ目でした。イエローカードが出なくなったとはいえ、もうファウル出来なくなった橋本の状態を考慮して、すぐに田邉と交代。10人になるリスクを回避してみせた上で、川崎フロンターレの大島とエドゥアルド・ネットへの守備の強度を保つことに成功しました。

川崎フロンターレは、疲れてアクションが遅くなったエドゥアルド・ネットに替わって、長谷川を入れます。長谷川を右サイドに入れて、中央でボールを受けられなかった中村をボランチに下げ、ハイネルをFWに入れます。長谷川が入ったことで右サイドから崩せるようになりましたし、中村がボランチに入って、パスが回るようになりました。しかし、新たな問題もかかえてしまいました。

1つ目は中村がボランチに入ったことで、中央の守備が弱くなりました。中村がボランチに入った時間辺りから、大久保が中央でボールを受けられるようになります。2つ目は、ボールを受けられないハイネルを中央に置いたことで、中央からの攻撃が停滞してしまいました。交代で1つ問題をつぶすと、他の問題が出てくる。そんな状況が続いてしまいました。そして、大久保が中央で受けられるようになった事が、FC東京の先制点につながります。

川崎フロンターレとしては、失点して得点をとりにいかなければならなくなったので、切り札である三好を入れます。しかし替えたのは、好調だった登里。登里を替えたことで、左から上手く攻められなくなり、サイドを攻略しても、中央でボールを受けようとしているのは小林だけ。ハイネルはボールを受けられません。

FC東京とすれば、「小林だけマークしていればよい」と思って守備をしていたのではないのでしょうか。もちろん、意識しても小林を抑えるのは簡単ではありませんが、FC東京のセンターバックは森重と丸山という日本代表に選ばれるレベルの選手です。そんな2人が集中して守ったら、川崎フロンターレも崩すのは簡単ではありません。

そして、失点していたため攻撃に意識を傾けていたこと、ボランチを中村にしていたため、中央のスペースが空いたことといった要因が、余計な2失点を生んでしまいました。まずは相手を押しこんで、確実に1点を奪いにいくという選択もあったと思いますが、疲れていたチームにそこまでの余裕はありませんでした。結果的に、終始FC東京が試合をコントロールしていた試合だと思います。

疲れている時に効果的な「動ける選手」の存在

広州恒大戦から中3日という事を考えると、川崎フロンターレはよい試合をしたと思います。しかし、違う戦い方もあったと思います。僕の経験からいうと、疲れている時の試合は、1人走れる選手がいると助かります。出して受けて、守備もしてくれる選手がいると、その選手に引っ張られて、他の選手の動きもよくなる。そんな事があります。

僕は、森谷を入れても良かったと思います。この試合、鬼木監督が選択した交代選手は、ハイネル、長谷川、三好と「ボールを持って、何かをする」選手ばかりです。この試合のFC東京はボールを持った選手には集中して守備が出来ていたので、ボールが無い所でなにかアクションを仕掛けないと、なかなか崩すのは難しかったと思います。こういう試合こそ、森谷の出番だと僕は思っているのですが、起用されなかったのは残念です。

この試合を終えて、ACLは3引き分け、リーグ戦は2勝1分1敗の勝ち点7。悪くない結果だと思いますが、いくつか問題も出てきています。

けが人が増えてきているのはしょうがないと思いますが、一番課題だと感じるのは、「小林の他に誰が得点を奪うのか」という問題です。

2016年までは、小林がおさえられても、中村も、エウシーニョも、そして大久保もいました。しかし、2017年シーズンは、エウシーニョと大久保の代わりとなる選手が現れていません。この試合でも、登里が左サイドを崩して中央にパスをした時、中央では誰も待っていないという場面が何度もありました。エウシーニョか大久保ならいた場所に、阿部も、ハイネルも、走りこめていません。強いチームは、得点を取れる選手が何人もいます。この問題が解決しないと、川崎フロンターレの順位が上がっていくことはありません。

今の川崎フロンターレは、手痛い傷は負ったものの、致命傷には至っていない。ただ、すぐに手を打たないといけない。という状況でしょうか。日本代表に誰も選ばれていないのは、むしろ好材料だと思います。中断期間を利用して、状況を好転させることが出来るか。鬼木監督の手腕と、選手の力が試されています。引き続き注目です。

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