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2017年J1第27節 ヴィッセル神戸対川崎フロンターレ レビュー「運ぶプレーが上手くならない理由を考える」

2017年J1第27節、ヴィッセル神戸対川崎フロンターレは0-0の引き分けでした。

この試合は川崎フロンターレにとって、懸念材料が多い中で迎えた試合でした。中2日で迎えたアウェーゲームという事で、コンディションを整えるための練習しか出来なかったと思います。

いくら、試合に出場しなかったり、出場時間が短かったといっても、ベンチに入ればテンション上がるし、試合に出場すれば疲れるし、眠れないし、移動もあるしと、人間疲れます。出張行って、到着しただけでもう仕事終わった気になるサラリーマン(僕の事です)とは違うのですから。

そして、ノエビアスタジアム神戸のグラウンドコンディションは、川崎フロンターレにとって、とても不利なコンディションでした。芝生はテレビで観ていてもボコボコで、強いパスを蹴ると、バウンドが変わる事もあり、短いパスをテンポよく交換して、相手陣内にボールを運びたい川崎フロンターレにとっては、ボールを「止める」プレーに、普段以上に神経を使わなければなりませんでした。

また、ノエビアスタジアム神戸はゴール裏に風が通る隙間が空いていないので、空気がこもりやすい構造になっています。この構造が芝生の養生を妨げているのですが、中2日で試合を迎えた選手にとっては、よりキツいコンディションで試合に臨まなくてはならなくなってしまいました。

コンディションがキツいチームにとって厄介だったのは、ヴィッセル神戸の攻撃です。

ヴィッセル神戸の攻撃時のフォーメーション

ヴィッセル神戸は、守備時は「4-4-2」というフォーメーションで守りますが、攻撃時は「3-1-6」のようなフォーメーションになります。面白いのは、DF3人が右から、岩波、渡部、高橋と並ぶ事です。中央にパスが上手くない渡部を敢えて起用し、パスの上手い2人から、FWの位置まで上がった、サイドバックや左右のMFに向けて、ロングパスを蹴ります。川崎フロンターレは、「4-4-2」のフォーメーションで守っているので、FWとDFの人数を比較すると、ヴィッセル神戸の方が、数的優位になります。ヴィッセル神戸はこのサイドの数的優位を上手く利用して、相手陣内にボールを運んできました。

川崎フロンターレは、サイドにパスが出たら、素早く移動して、自由にプレーさせないようにしようとするのですが、動きが遅いので、相手に外されてしまいます。そして、サイドに重きをおくと、中央のスペースでポドルスキがボールを受けにきます。ポドルスキは長距離のシュートも上手いので、ポドルスキに対して距離をつめると、他の選手が空いてしまう。この繰り返しで、ズルズルと自陣に下げられてしまいました。

最近の川崎フロンターレの試合を観ていると、MFの守備時の左右の動きは決して連動して守れているとはいえず、特に家長は他の選手より動きが遅れる事もあり、守備者同士の間が空いている事があります。

守備の問題が表面化しなかったのは、攻撃時に相手を押し込み、シュートで攻撃を終わらせたり、相手に優位な攻撃をさせていなかったからなのですが、この試合は相手陣内に上手くボールを運べないので、相手の攻撃を受ける時間がどうしても長くなってしまい、守備の問題が表に出てしまいました。無失点で終わったのは、チョン・ソンリョン、エウシーニョ、奈良、谷口、車屋といった、GKとDFのおかげです。特に奈良は素晴らしいプレーを披露してくれました。多分、鬼木監督に一番信頼されているDFだと思います。

守備は無失点で耐えてくれたのですから、なんとか1点取りたかったのですが、上手くいきませんでした。

パスが上手くつなげないなら、「運べばいい」

この試合のように、「パスが上手くつなげない試合」を川崎フロンターレが得点を奪うために必要なことは何か。今日のレビューはそこを掘り下げて考えたいと思います。

パスが上手くつなげず、相手ゴール前までボールがはごべない場合、他にボールを運ぶ方法としては、以下のような方法が考えられます。

1.ロングパスを相手がいない場所に蹴って、味方に受けてもらう
2.ロングパスを出して、守備者を背負って受けてもらう
3.ドリブルでボールを運ぶ。何人もかわして運べるのがベストだけど、「ドリブル→パス」の繰り返しも効果がある

川崎フロンターレのFWを務める小林は、1も2も得意な選手ではありません。ある程度は出来ますが、1は金崎ほど繰り返し動けるわけでもないし、2は杉本や興梠ほど受けられるわけではありません。(ここに小林が代表で呼ばれない理由があるのですが、それは別の機会に)

したがって、川崎フロンターレは、パスが上手くつながらない試合では、3のドリブルでボールを運ぶという行為を選択します。

ブラジルやアルゼンチンなど、グラウンドが悪い環境でプレーすることに慣れている選手は、「運ぶ」プレーが得意です。パスがつながらない環境でもボールを運べなければならないからです。スペインでは、相手がいないところにボールをコントロールするトレーニングを徹底的に行っているという話も聞いてことがあります。

「運ぶ」が飛躍的に上手くなった選手は出てきていない

川崎フロンターレのチーム作りを追いかけていると、「止める」「外す」「受ける」という動きは、飛躍的に成長しました。しかし、この4年間で劇的に「運ぶ」が上手くなった選手はいません。中村憲剛がメッシみたいにはなりませんでしたし、成長してドリブルで何人も抜けるようになった選手は出てきていません。

「運ぶ」という動きを重視していながら、「止める」「外す」「受ける」ほど熱心に取り組んではいないのではないかと、僕は感じていますし、風間監督も、鬼木監督も、「運ぶ」プレーについては、個人の技術や元々の実力に依存しているだけではないかと思います。そもそも、プロのトレーニングに「運ぶ」プレーの要素が少ないのかもしれませんが、実は川崎フロンターレの伸びしろは、この「運ぶ」プレーにあるのではないかと思うのです。

なぜ、「運ぶ」プレーがこの4年間で伸びなかったのか。それは、「パスを出して、受ける」動きを重視すると、「運ぶ」プレーを誰かがするたびに、パスわ受けるために動き直さなくてはならなくなるため、テンポが遅くなる事があるからです。

そして、風間監督も「運ぶ」動きを改善させるメソッドは持っていなかった。そうとも考えられます。ただ、チームとしては2013年序盤に西本直さんを招いたとき、身体の使い方の改善について取り組みました。身体の使い方が変わると、「運ぶ」動きは最もプレーの質が変わります。ただ、西本さんの取り組みは途中で頓挫。それ以降チームは「運ぶ」動きを改善するようなトレーニングが行われたという話は聞きませんし、劇的に改善される事はありませんでした。

この試合を勝たせてこそ、家長昭博という選手の価値が上がる

これまでの川崎フロンターレでは、大島、エウシーニョ、車屋など、特定の選手以外は「運ぶ」というプレーを、チームのプレースタイルの中で、効果的に発揮出来てはいません。川崎フロンターレが採用した策は「運べる選手を獲得する」事でした。それが、長谷川であり、ハイネルであり、家長なのです。三好も期待されている選手ですが、結果を出せてはいません。だからこそ、「運べる」選手は貴重なのです。

この試合は、家長の価値を示すには、絶好の機会でした。「苦戦したけど、家長の力で勝った」。そんな試合になるのが理想でした。ACL 2nd legの浦和レッズ戦、そしてこの試合。皆が疲れていて、普段通り動けないこんな試合こそ、家長の力で勝たせて欲しい。僕はそう感じました。もっと、ドリブルにトライして良いし、シュートを打つためのプレーを選択して欲しい。もっと出来る選手だし、この試合のような試合に勝たせてこそ、家長を獲得した価値があるというものです。期待したいと思います。

この試合に引き分けた事で、鹿島アントラーズとの勝ち点差は8に開きました。ただ、Jリーグは毎年もつれます。鹿島アントラーズだって、ぎりぎりで勝ち点を獲得していますが、いつ歯車が狂うかは分かりません。粘り強く勝ち点を積み重ねていれば、チャンスは来ると思います。期待しています。

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