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最高のコーチは教えない

最近「コーチ」について、よく考える。

そもそも会社員には、「上司」はいるが、「コーチ」はいない。工場や工事現場では違うと思うのだが、僕は手取り足取り仕事のやり方を人に教わったことがない。新人時代は上司どころか、指導役の社員すらいない環境で働いていたので、人の仕事ぶりを見て学ぶしかなかった。

ずっとコーチがいない

僕はずっとコーチがいない。中学時代はサッカー部に所属していたが、顧問の先生はほとんど練習を見ていなかったので、サッカーを教わった記憶がない。高校時代はサッカー部に所属せず、帰宅したら自分で練習メニューを考えて、地元の小学校で友人と2人でトレーニングしていた。自分で考え、実践して、また考える。その繰り返しだった。仕事も、サッカーも、誰かに教わったことがない。だから、僕は「コーチ」や「指導者」が必要だと考えたこともなかった。

ただ、自分の年齢が30歳中盤を超え、今後のキャリアを考えたとき、個人ではなく、チームとして仕事をしていく必要があると考えたとき、自分が「コーチ」をやるとしたら、「コーチ」は何をすべきなのか、深く考えるようになった。

コーチが嫌いだった理由

僕にコーチがいなかった要因は、大抵のコーチが頭ごなしに「こうしろ」「オレの言うことを聞け」と命令するコーチばかりで、そんなコーチの言うことを聞くことができなかったからでもある。たまに少年野球や少年サッカーを見ていると、頭ごなしに命令するコーチばかりで、普段の自分の仕事や環境への不満を子供にぶつけたくてコーチをしているんじゃないか、と思うような人もいる。いや、そんな人が大半だと思う。

僕はそんなコーチが大嫌いだったし、コーチより自分の方が詳しい自負があったから、言うことを聞かなかった。実際、僕より詳しかったり、経験に基づいたアドバイスをできる人は多くなかったと思う。だから、コーチに頼れないので、自分で調べて、自分で試すしかなかった。考えるのは自分だから、失敗も成功も自分のせい。このやり方で、サッカーも、仕事も、このnoteもやってきた。

コーチが欲しい理由

しかし、最近になって、ふと「コーチが欲しい」と思うようになった。30歳半ばになり、仕事の難易度は上がり、個人的に誰もやったことがないような相談が持ち込まれるようになり、自分の頭だけで考えるのは難しいと思うようになった。自分の判断が正しいのか、今後のキャリアに必要な取り組みは何か。自分の考えだけではなく、他人の考えも知りたいと思うようになった。

今の会社員は、上司がコーチ役になるわけでもないので、自分で技術を磨き、自分でキャリアを組み立てなければならない。もしかしたら、コーチがいるアスリートの方が恵まれているかもしれない。

男子陸上800mの元日本記録保持者で、NIKE TOKYO TCのコーチを務める横田真人さんは「セルフコーチングとは、矛盾を抱えているものだ」とTrack Town Shibuyaで語っていた。何も考えず実行する自分と、それを一歩引いた目線で評価する自分。この2つを持ち続けるのは簡単ではない。

「質問」するためには「観察」が必要

最近、日本ハムファイターズでピッチングコーチを務めている吉井理人さんが書いた「最高のコーチは教えない」という書籍を読んだのだが、この本に書かれている「最高のコーチ」は、「観察」「質問」「代行」という3つを繰り返しながら、強みを伸ばしていく存在だと語られている。

日本のコーチは「質問」が「命令」になりがちだという問題があるのだが、そもそも「観察」が出来ていないのではないか、と僕は感じている。表情、仕草、喋り方などから、相手の状況を感じ取る。言葉で話されたことだけではなく、身体から発信される情報を感じ取る。「空気を読む」ことは出来ても、「観察」は出来ていないんじゃないかと思うときがある。そして、『観察」ができなければ「質問」もできない。

僕の考えとして、「観察」が出来なければ、選手のステージが上がったときに、コーチから「教わることがなくなった」と判断し、選手の信頼を失うことがありうると思うからだ。そもそも、自分でメニューを考え、自分で正確に実行できれば、コーチはいらない。

Track Town Shibuyaでは、コーチをつけずに10,000mで28分台を出すまでに成長した桃澤選手が、横田さんに「コーチは必要か」と相談している。横田さんは「ディスカッションできる人が良いのでは?」と、北京五輪男子10,000m日本代表だった竹澤健介さんを紹介しているのだが、ディスカッションできる人を見つけることすら、今の日本では難しい。

自分でメニューを考え、自分で正確に実行できる人は一握りだが、アスリートのトップレベルは、自分でメニューを考え、自分で正確に実行できる人ばかりだ(これはビジネスマンでも同じだ)。そんな選手に対して、コーチは何をすべきなのか。

マネージャーの仕事は環境整備

僕の現時点での答えは「環境を用意する」ことだと思う。僕が新人時代に他部署の上司は「マネージャーの仕事は環境整備だ」と言った上で、5つの役割を話してくれたことがある。

1.仕事を作る
2.仕事の方向付けを行う
3.仕事の環境整備を行う
4.仕事に必要な経営資源(人、モノ、金)を獲得する
5.仕事の成果に対する正当な評価を行う

ここで大切なのは、「技術指導」は含まれていないということ。成長するための土壌というか、環境を整備するのがマネージャーの仕事だということだ。もしかしたら、プレーヤーのステージによって、技術指導が求められるステージと、力を発揮させる環境を整備するステージがあるのではないかという気がする。これは、コーチの役割にも当てはまるのではないか。

サッカーについて聞かれて、サッカーで返してはいけないこともある

力を発揮させる環境を用意したからといって、「観察」を疎かにしてはいけない。選手が自立すればするほど、質問の難易度は上がる。難易度が上がると、競技や仕事に関する知識だけでは、対応できない質問も増えてくる。哲学や芸術の観点から回答する必要があることもあるだろう。そして、選手の一部には、コーチより先に哲学や芸術の分野について学び始めている人もいるからやっかいだ。サッカーについて聞かれて、サッカーで答えているようでは、選手のニーズを満たせないのだ。

実はこのnoteは、ある選手がFacebookに「指導者・監督・コーチの仕事って何だと考えていますか?」と投稿したことがきっかけになって書いた。僕も勉強中だけど、少しでも役に立てば嬉しい。

そして、かつての上司の方、現在の上司の方は、僕がなぜ言うことを聞かなかったのか、少しでも理解してくれたら嬉しい。

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西原雄一

プロ・スポーツレビュアー。note「勝ち負けだけじゃないスポーツの楽しみ方」で #川崎フロンターレ #ビジャレアル と #Bリーグ のレビュー連載中。趣味は愉快な人同士をつなぐこと。#coffee ☕好き。

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