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書評「禅とジブリ」(鈴木敏夫)

本書は淡交社から発刊されている茶道に関する雑誌「なごみ」に連載されていた、スタジオジブリの鈴木敏夫さんと3人の禅僧との対談「半径2メートルの禅問答 喫茶去」とまとめた書籍です。

僕がこの連載のことを知ったのは、毎週楽しみに聴いている「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」というラジオ番組がきっかけでした。ラジオを聴いていたら、鈴木さんが細川晋輔さんという禅宗の和尚と対談をしている。しかも、その内容が面白い。この連載が本にならないかなぁと思っていたのです。

鈴木さんと3人の和尚との対談では、禅宗の教えから、鈴木さんの仕事に対する考え方や、スタジオジブリの作品に根付く禅に通ずる考え方が、分かりやすく説明されています。

例えば、鈴木敏夫さんは、常々「大切なのは、今ここ」と口にしています。過去を悔やまず、未来を憂うことなく、今ここで起こっていることだけに目を向けて、前に進んでいく。そんな考えは鈴木さんだけでなく、宮崎駿監督も、高畑勲監督も持っており、深くスタジオジブリの作品に根づいているといいます。

一日暮らし

そんな鈴木さんの考えを、細川さんは昔の禅宗の和尚の「一日暮らし」という言葉を引用して、こう語っています。

どんなつらいこともその日一日だと思えば耐えられるし、どんな楽しいこともその日一日だと思えば浮かれることはない

また、本書に登場する玄侑宗久和尚は、鈴木さんとの対談でスタジオジブリの作品について、こう語っています。

ジブリ作品は「何が起こるかわからない。それでも行く」。ああ人生そのものだな。と。

喫茶去

本書の基になった連載のタイトルに使われている「喫茶去」という言葉は「お茶でもどうぞ」という意味で、客人の貴賤・貧富・賢愚・老若職業などにとらわれることなく、さりげなく一碗の茶を差し出してもてなす。そこに人の心が現れるのだと、僕は「喫茶去」という言葉には、そんな意味が込められているのだと解釈しました。

本書は「喫茶去」というタイトルが象徴するように、お茶を飲むように、気軽に読める作品です。気軽に読みながら、自分自身のことを振り返ったり、周りのことを考えたうえで、すべてを忘れて今を生きる。そんな活力をもたらしてくれる作品です。


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