2018年J1第8節 ベガルタ仙台対川崎フロンターレ レビュー「出来ると思って意識しなくなったポイントからフォームは崩れていく」

2018年J1第8節、ベガルタ仙台対川崎フロンターレは、0-0の引き分けでした。

素晴らしいプレーを披露したベガルタ仙台

2017年シーズンJ1第29節、ホームでベガルタ仙台と戦った時、川崎フロンターレは家長が退場したこともあり、大苦戦しました。ベガルタ仙台が後半にシュートを打たず、3点目を奪いにこなかったため、最終的には3-2で逆転勝利しましたが、ベガルタ仙台の戦い方はとても印象に残りました。

J1で同じような戦い方をしているチームはありませんが、非常に考え抜かれていて、渡辺監督を始めとするスタッフがよい仕事をしていることが分かります。

この試合のベガルタ仙台は、2017年シーズンのJ1第29節同様に、攻撃時は3-3-4、守備時は5-3-2というフォーメーションで戦いました。

ベガルタ仙台は、FWを西村とジャーメイン、中央のMFに左に野津田、右に梁勇基、中央に冨田が位置します。この配置の狙いは、川崎フロンターレのDFとMFにマンツーマンで対応し、ボールを奪う事でした。

ベガルタ仙台は西村とジャーメインが奈良と谷口をマークし、野津田が守田、梁が大島、冨田が中村をマークします。川崎フロンターレがサイドにパスを出してボールを相手陣内に運ぶチームではないので、そこまで意識的に実施はしていませんでしたが、中央方向にパスを出させ、マークしている選手に対して素早く身体を寄せてボールを奪う。そんな意図が読み取れました。この仕掛けが前半は上手く機能します。川崎フロンターレは、選手たちのアクションが遅かった事もあり、相手の守備に捕まってしまい、何度もボールを失ってしまいました。

ベガルタ仙台は、DF3人とMFの冨田の4人でパス交換しながら相手陣内にボールを運んでいくのですが、中央の4人が相手に捕まりそうになった時に備えて、相手に逃げるための場所が2箇所用意されています。

1箇所目は、サイドの中野。中野はドリブルが上手く、ほとんどボールを奪われないので、困ったら中野にボールを渡します。そして、もう1箇所は梁と野津田です。この2人が川崎フロンターレのMFの背後から、突然目の前に現れるような動きをしてボールを受けるので、川崎フロンターレのMFはこの2人を捕まえるのに苦労します。DF3人でパス交換しながら、野津田と梁にパスを出し、2人がパスを受けられなければ、中野にボールを渡す。この繰り返しで、ベガルタ仙台は効率よく相手陣内にボールを運んでいきました。

川崎フロンターレは野津田と梁に対して、MFが素早く距離を詰めたいのですが、詰められなかったのには理由があります。それは、FWのジャーメインと西村の動きです。ジャーメインは常にDFの背後を狙っており、なかなかDFは思い切って前に出られません。また、西村がDFとMFの間でボールを受けようと動いているので、MFとしては西村も気になってしまいます。ベガルタ仙台はこうした選手同士の動きを上手く組み合わせて、川崎フロンターレの守備をかいくぐっていました。

そして、サイドの蜂須賀や中野がボールを受けた後、川崎フロンターレのサイドのDFの背後を狙うように、西村とジャーメインが動きます。この動きに川崎フロンターレの中央のDFが対応しなければならなかったため、川崎フロンターレのボールを奪う位置が自陣に下がっていきました。

もしかしたら、この文章を読んだ方は気づいたかもしれません。

そう、「この試合のベガルタ仙台は」から「下がっていきました」までの箇所は、第29節のレビューに書いた内容とほぼ同じなのです。

当然、川崎フロンターレもベガルタ仙台が同じように戦ってくることは分かっていたはずです。ただ、中2日の試合ということで、準備がほとんど出来なかったこと、そして、ベガルタ仙台の戦い方が、他のJリーグのチームとは異なるということもあり、上手く対応出来ませんでした。

後半に入ってから、ベガルタ仙台が背後を狙うパスの本数が減ったことで、川崎フロンターレは少しずつ相手を押し込めるようになります。しかし、前半のうちにロングパスへの対応に労力を割いたため、攻撃の時に丁寧にプレーする力が残っていませんでした。

2017年シーズンの奈良が戻ってきた

この試合、奈良と谷口は難しい対応を強いられました。ベガルタ仙台が必ずエウシーニョと車屋の背後を狙ってくるので、奈良と谷口は守りたい中央を外れて、エウシーニョと車屋の背後を守りにいかなければなりませんでした。しかし、奈良と谷口は上手く連携し、1対1を仕掛けてきても、上手くボールを奪っていました。

谷口は見ていて辛くなるくらい、疲れていることが伝わっていました。普段の谷口でしたらありえないようなミスが出て、奪ったボールがつながらない場面が何度もありました。本人も悔しかったと思いますが、最低の最低のレベルでも、これだけ出来るというのは、谷口という選手の能力の高さを証明してくれたと思います。

ハリルホジッチ監督は、なぜか谷口をなかなか選んでくれませんでしたが、今の谷口なら十分代表に選ばれるだけのプレーを披露していると思います。

そして嬉しいのは、奈良のプレーのレベルが2017年シーズンのレベルに戻ったことです。2018年シーズン開幕当初は、奈良らしくないミスが何度も見られました。1対1で何度も相手にぬかれ、ボールを持っても縦方向にパスをせず、横方向のパスばかり。強気な奈良のプレーがほとんど見られませんでしたが、試合に出ていない間に、上手く立て直してきたと思います。

2017年シーズンの川崎フロンターレが優勝出来たのは、奈良が最後の最後で相手のシュートをブロックしたり、数的同数の相手の攻撃を止めてくれたからだと思っています。奈良と谷口が数的同数の攻撃を止め続けてくれたおかげで、川崎フロンターレは後半相手を押し込むことが出来ました。

攻撃が左に偏るところはまだ改善されていない

この試合の中央のMFは、守田、大島、中村の3人という組み合わせでした。

普段は守田に代わって、エドゥワルド・ネットが出場しています。エドゥワルド・ネットが出場している時は、攻撃時に中央のDFの奈良と谷口の間に立ち、DFからMFへのパス交換をサポートします。しかし、この試合は守田がDFの間に下がるのではなく、MFとFWの近くでパスを受けようとするので、奈良と谷口がベガルタ仙台の守備に捕まってしまい、なかなか相手陣内にボールが運べませんでした。

ただ、守田が中央のMFに入ったことによって、改善されたこともあります。それは、左右の攻撃の偏りが(少しだけ)改善されたことです。この試合の守田は、右サイドのエウシーニョにもパスを届けていました。最近のエドゥワルド・ネットは、ボールを持つとどうしても左サイドの方を向いてしまうので、右サイドにボールが届かず、エウシーニョが何度もボールを受けようとしても、ボールが届かず、徒労に終わるという場面が何度もありました。

また、右MFの家長がボールを受けようとして、中央から左に動いてしまうため、さらに左に攻撃が片寄ります。相手チームとしては、右サイドからの攻撃は「考えなくてよい」ので、守るコートの幅が5m狭くなるのです。この5mの違いは、小さいようで、とても大きいのです。選手間の距離が狭くなることで、相手は自分の守る範囲のなかで、より多くの選手を捕らえることが出来ます。

左に偏る攻撃で不利益をこうむる阿部

左に偏る攻撃によって、自分のプレーを披露出来ていないのが、阿部です。

阿部の凄さは、「フィールド内で常に最適なプレーが出来る」事です。今は攻撃すべきなのか、ボールを保持することを優先したほうがよいのか、ボールを奪いにいくべきか、常にチームにとって最適なプレーが出来る選手です。特に守備は極上といってよいほどで、ボールを奪うタイミング、パスコースの消し方など、阿部の守備をみているだけで、試合は楽しめると感じるほどです。

しかし、2018年シーズンの阿部は、本来のプレーをほとんど披露出来ていません。その理由は、自分がプレーするエリアに、家長、中村、車屋、そして時にFWの知念、小林、大久保といった選手が集まるので、自分がプレーする場所がほとんどないのです。

右に移ったり、中央に移ったりすることもあるのですが、今の阿部は「自分はどうしたらよいのか」、迷いながらプレーしているように感じます。常に最適なプレーを披露する阿部が迷っているように見えるほどですから、なかなか状況は深刻なのだろうなぁと感じます。

では、家長に「右にずっといるように」というのも簡単ですが、家長を右に配置する時間を長くしたかったら、左からの攻撃の偏りを修正しなければなりません。左の攻撃の偏りは、左にパスが集まること、人が集まることから生まれるので、そもそも、攻撃をどのように進めるのか、攻撃の起点のプレーを見直す必要があります。

鬼木監督も、問題には気がついているので、様々な修正を施しています。齋藤を右で起用したり、家長を左で起用したりといった具合に、左サイドに攻撃が偏らないように、偏ったとしても、右サイドにドリブルが得意な選手を配置することで、ドリブルでボールを運んでもらい、シュートチャンスを作り出せないかといったトライをしています。(バスケットボールだとよくあるオプションの1つです。)守田を中央のMFで起用しているのも、試行錯誤の一環です。

修正する時間がほとんどない

悩ましいのは、見直す時間がほとんどないことです。中3日、中2日で試合の準備を進めなければならないので、試合をしながら修正していくしかありませんが、メンバーも入れ替えながら戦っているので、修正する時間が十分確保できないのです。

ただ、僕が現在の問題で最も悩ましいと感じているのは、

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西原雄一

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