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書評「走って、悩んで、見つけたこと。」(大迫傑)

2019年9月15日に行われた「マラソン・グランド・チャンピオンシップ(MGC)」。日本で初めて行われた代表候補選手が一度に集まり、代表権を競うレースということで、大きな注目を集めました。僕も当日は沿道に駆けつけました。特に男子は親しくしている高木聖也さんがコーチを務める神野選手が参加することもあり、とても注目していました。

MGCがどんなレースになるかは、僕なりにいろいろ予想していました。設楽はどこで飛び出すのだろうか、神野は35kmまでついていけたら面白いし、暑くなったら中本や橋本が強そうだな、なんて考えていましたが、いろいろ予想を頭の中で楽しんだ後、最後は必ずこう考えている自分がいました。

「大迫はどうするんだろうか」

MGCについては考えれば考えるほど、このレースは、大迫がどうするかに左右されるのではないか。そう思ったのです。それほど、大迫の存在は強烈でした。

MGCでの大迫は、「やりたいレース」ではなく、「勝つためのレース」に徹していました。35km過ぎまでは先頭集団にいて、35km過ぎに勝負をかけ、記録ではなく確実に勝つ。そんなレースを展開しようとしていたと感じました。大迫がやりたいレースではなかったかもしれませんが、確実にレースで求められていることを達成しようとする姿勢に、とても共感がもてました。

何より沿道で大迫が走っている姿を直接見て、走る姿、真っ直ぐに前を見据える目の力が印象に残りました。以前から「他のランナーとは違う」とは思っていましたが、より深く知りたいと考え、1冊の本を手に取りました。

僕が手にとった「走って、悩んで、見つけたこと。」は、MGC直前に発売された、大迫の考え方がまとめられた書籍です。

自分で考え、決断し、実行する

本書で最も印象に残ったのが、大迫ができる限りのことを、自分で考え、決断し、実行してきたということです。

自分で考え、自分で決断する。簡単なことのように思えますが、簡単にできることではありません。「自分で考える」ということは、ただ頭を動かすだけではなく、自分の頭に浮かんだことに対して「なぜそう思ったのか」と問いかけ、頭に浮かんだことを、細かく、具体的にしていく作業です。大きな岩を削りながら、彫刻を作るような作業だと例えたら分かっていただけるでしょうか。

そして、自分で考えたことをベースに自分で決める、ということも簡単ではありません。決めるということは、責任が伴います。人に決めてもらうと楽になる部分もありますが、自分の人生を他人に委ねるリスクもあります。大迫はそのことをよく分かっています。

そして、自分で考え、自分で決めたことを、実行する。当たり前のことですが、日本では実行するのが最も難しいかもしれません。「人と同じがよい」と言われることが多い社会で、「人と違う」考えや決断は、どんなに合理的でも支持されにくい傾向があります。

自分で考え、バイアスを排除して合理的に意思決定を行い、実行し続ける。実行したら検証し、改めて実行する。このサイクルを精度高く実行するために、大迫はアメリカを活動拠点に選んだのだということが、本書を読み終えてよく分かりました。

当たり前の「精度」と「実行力」と「継続性」の差

大迫と他の選手との違いは、「自分で考え、決断し、実行する」という当たり前のことの精度と実行力、そして継続性の差ではないかと思いました。

あと、大迫は「他の人がこう言っている」とか「常識ではこうなっている」という言葉は信じません。確たるファクトか、自分で体験したことしか信じない。大迫と接する人は、言葉に気をつけないといけないのだろうな、と感じました。

たとえ小さくとも、自分で積み重ねてきたことと、人に積み重ねてもらったものの差が、目の力の差になっているのではないか。そんなことを感じた書籍です。とても勉強になりました。


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