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リーガ・エスパニョーラ 2018-19シーズン 第28節 ビジャレアル対ラージョ・バジェカーノ レビュー「ようやく訪れたストーミングの終わり」

リーガ・エスパニョーラ 2018-19シーズン 第28節 ビジャレアル対ラージョ・バジェカーノは、3-1でビジャレアルが勝ちました。

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なぜカソルラを中央のMFに起用したのか

この試合のポイントは、カソルラがプレーしたポジションだと思います。

この試合のビジャレアルは、5-4-1というチームオーガニゼーションで臨みました。MFの4人は、左からイボーラ、カソルラ、モルナレス、チャックエズと配置したのですが、気になったのはイボーラとカソルラのポジションが、普段プレーしている位置と逆だったことです。

なぜ、逆だったのか。僕なりにいろいろ考えました。イボーラのコンディションがよくないのでできるだけ守備の負担を軽減させようという意図だったり、ボールを持つとドリブルを仕掛けるチャックエズとカソルラを遠ざけようという意図だったり、いろいろ考えたのですが、僕なりに出した結論は、カソルラを中央左のMFで起用することが、ラージョ・バジェカーノ相手にボールを運ぶのに最も有効だと考えたからだと思いました。

ビジャレアルがボールを持つと、カソルラは左中央DFのビクトル・ルイスの左横に立ち、ボールを受けようとアクションを起こします。ビジャレアルと同じように5-4-1のチームオーガニゼーションで守るラージョ・バジェカーノですが、右MFの選手のボールを持っていないときのアクションが遅く、たびたびスペースを与えていました。

カソルラはラージョ・バジェカーノの弱点を見逃さず、右MFの選手が対応するか迷う位置に動き、ボールを受け続けます。カソルラはボールを受けたら、相手に奪われることはほとんどありませんので、カソルラを起点にビジャレアルはラージョ・バジェカーノ陣内にボールを運び続けました。

もちろん、カソルラがボールを受けやすいように、イボーラはラージョ・バジェカーノの右中央のDFを牽制して背後を狙うアクションや、守備者の間でボールを受けるアクションを繰り返していましたし、左DFのペドラザは相手の背後を狙いつづけ、ラージョ・バジェカーノのDFを牽制し続けます。カソルラがフリーになってるけれど、誰も対応できない。この状況を上手く作り出したのが、ビジャレアルの勝因だと思います。

第22節カジェハが監督に復帰してからのビジャレアルは、3勝2分2敗と立て直し、順位も17位と降格圏を脱出。UEFAヨーロッパリーグでもベスト8に進出しました。

3バックがビジャレアルを好転させた2つの理由

ビジャレアルが好転したきっかけの一つに、カジェハが復帰してから採用しているDFを3人にした「3バック」というチームオーガニゼーションの効果が出ていることが要因だと思います。

実は2018年12月にビジャレアルの佐伯さんにお会いした時(佐伯さんはトップチームとは関係ない仕事をしています)、僕は佐伯さんに「3バックにしたほうが良いと思う」と伝えたことがありました。3バックにしたことが全てではありませんが、3バックにしたことで明らかに状況が好転したのは、自分自身の見立てが少し当たっていたようにも感じ、とても嬉しいです。

僕が「3バックにしたほうがよい」と思った理由は2点あります。

1点目は「中央でプレーするDFに素早い選手がいない」からです。

アルバロ、ビクトル・ルイス、フネス・モリ、ボネーラといったビジャレアルの中央のDFは、自分の前方を守るのは得意ですが、背後を素早く移動してカバーしたり、走るスピードが速い選手への対応が苦手ないように見えました。したがって、相手チームは彼らの背後を狙ってロングパスを出し、ロングパスを警戒した中央のDFが警戒して自陣に下がってしまいました。

ビジャレアルのFWがボールを奪いにいこうとしても、DFが連動しないため、FWとDFの距離が空いてしまい、相手チームがボールを受けるスペースが生まれる場面が何度もありました。

また、GKのアセンホはシュートストップは得意なのですが、足でボールを扱うプレーが得意ではないので、どうしてもカバーできるスペースが限られます。アセンホのプレースタイルも、ビジャレアルのDFが下がってしまう要因でした。

2点目は、サイドのMFにドリブルでボールを運べる選手がいない、ことです。

カジェハは解任されるまでは、4-4-2のチームオーガニゼーションを採用し、サイドのMFにはフォルナルスやカソルラを起用していました。2人ともボールを扱う技術に長けた選手ですが、中央のエリアでプレーするのが得意なため、どうしても中央に移動してプレーしてしまいます。

ビジャレアルのサイドのDFには、スピードが速い選手がいないため、サイドのDFだけでは、サイドからボールを運べません。したがって、ビジャレアルの攻撃が中央に片寄ってしまいました。

中央に片寄ってしまったので、サイドからボールを運べる選手をと考え、右MFに左利きでドリブルでボールを運ぶのが得意なチャックエズを起用したのですが、チャックエズはサイドでドリブルしかしないので、他の選手と連携があいません。そして、左になかなかボールが届かないので、左MFのカソルラが右に寄ってしまうという悪循環が続いていました。

実はビジャレアルにはペドラザという、サイドからボールを運ぶのが上手い左利きのMFがいます。ところがペドラザは、左MFとして起用するにはボールを扱う技術が不足しており、左DFとして起用するには守備が心もとない選手なのです。素晴らしい能力を持っている選手なのですが、4-4-2のチームオーガニゼーションでは力が活かされない、と思っていました。

この2点の問題を解決するのに、3バックはうってつけでした。

まず背後を狙われるという問題は、背後を狙われたら中央のDFがカバーをすることで、対応することができます。カバーする選手がいることで、アルバロやビクトル・ルイスは思いきってボールを奪いにいけるようになりました。

また、3バックにしたことで、左DFにペドラザが起用できるようになりました。ペドラザを起用したことで、左からボールが運べるようになりました。

そして、3バックの恩恵を受けているのが、カソルラとイボーラです。この2人が中央のMFとしてプレーすることで、相手チームにボールを奪われることなく、相手陣内にボールが運べるようになりました。特にカソルラはサイドでプレーしていたころに比べてボールを触る回数が激増し、明らかに楽しそうにプレーしています。かつてのようにドリブルで相手陣内に侵入するプレーを連発するというよりは、シャビのように適切なプレーを選択し続けることで、味方がプレーしやすい環境を作り出しています。それは、イボーラも同様です。この2人が今のビジャレアルの心臓です。

開幕してからずっと抱えてきた問題は、3バックの採用によって解決しました。今節は監督が期待して起用し続けてきたエカンビが2得点、途中出場のジェラール・モレノが1得点を挙げました。特にジェラール・モレノが得点を挙げたときのチームの喜びようは凄まじく、モルナレス、ペドラザといった選手たちが監督の元に飛びつく光景は、感動的ですらありました。そして、何よりジェラール・モレノが得点を挙げた後に、とてもホッとしたような表情をしていたのが印象的でした。なかなかリーグ戦で得点を挙げられず、苦しかったのだと思います。

ようやくストーミングを抜けたビジャレアル

先日、数多くの企業のチームビルディングをサポートしている長尾彰さんに教えていただいたのですが、チームの成長モデルには4つのステージがあるそうです。

①フォーミング(形成期)
②ストーミング(混乱期)
③ノーミング(統一期)
④トランスフォーミング(機能期)

ビジャレアルは長く「ストーミング」の時期を過ごしましたが、カジェハが復帰した後、曖昧だったルールが整理され、「ノーミング」の時期に達したと思います。3バックはストーミングからノーミングに移行する助けになったのではないかと、僕は考えています。

いよいよ、ノーミングの時期に入り、トランスフォーミングの時期を迎えようとしているビジャレアル。UEFAヨーロッパリーグ、リーグ戦とハードな日程が続きますが、今のチームならけが人が頻発しなければ、よい結果が残せるはずです。

僕はとても期待するとともに、これだけ長くストーミングが続いた理由と、ストーミングを抜けたきっかけが他にないか、自分なりに仮説を立てて検証したいと思います。

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