見出し画像

書評「レスポンシブル・カンパニー」(イヴォン・シュイナード:パタゴニア創業者)

21世紀の企業に求められるものはなんだろう。昨今、企業は生き残りに必死だ。今、好調な企業が来年も好調とは限らないし、現在話題になっている企業の未来ほど、疑ったほうがよいのではないかと僕は感じています。

そんな時代に一風変わった経営で注目されているのが、アウトドアウェアやシューズを製造・販売するパタゴニアです。

パタゴニアは、社員が好きな時間にサーフィンに行ったり、半年以上インターンシップで業務を離れることが出来るなど、社員が働きやすい環境を作ることに注力するだけでなく、環境に与える影響を最小限にするために、様々な取り組みを行っています。これらは一見業績向上に関係無さそうな取り組みだが、環境問題や社員の働き方などに注力すればするほど、パタゴニアは売上と利益を継続的に伸ばしています。

本書は、パタゴニアの創業者であるイヴォン・シュイナードが、パタゴニアが40年かけて試行錯誤してきた 地球環境保全や品質向上の取り組みを提示、 社会的責任とビジネスをいかに両立させるかを説明した1冊です。

経営責任とは

本書では、企業が果たすべき経営責任として、本書では以下の5つが紹介されています。

1.事業の健全性に対する責任
2.社員に対する責任
3.顧客に対する責任
4.地域に対する責任
5.自然に対する責任

僕が特に印象に残ったのは、「社員に対する責任」についてです。本書の中には、「社員に信頼され、やる気になってもらうためには、高い給与や手厚い福利厚生、いたれりつくせりの待遇を用意しただけでは不十分だ」という記述があります。

では、社員に気持ちよく働いてもらうために、現代の企業はどのような努力をするべきなのでしょうか。本書には、方法の一つとして「居心地のよい場所を作る」という方法を紹介しています。「居心地のよい場所を作る」メリットは、「居心地のよい場所に集まる社員が様々な機会を通じて情報を交換しやすくなる」ことです。

本書では、「会議室も増やすべきだが、社内のあちこちに居心地のいい場所をつくり、社員が二~三人ずつ集まれるようにすることが大事だ」と書かれています。近年、こうした「居心地のよい場所」を社内に作ろうとする企業が増えています。

2013年に公開された「米テクノロジー企業がこぞって採用するオフィスデザインとは」という記事で取り上げられていた、FacebookやEvernoteなどの企業のオフィスデザインを手がける「O+A」のパートナーによると、「今はいろいろなタイミングで、またいろいろな方法で集まれるような自由度が重視され、カジュアルで自由であることが、イノベーションにとっても重要である」のだといいます。

なお、「居心地のよい場所」を作ることの重要性について、任天堂のWebサイトに掲載されている、岩田聡さん、宮本茂さん、糸井重里との対談記事では、以下のように語られています。

糸井
昼休みの作戦会議の話に戻りますけど、
岩田さんが言う、その、
みんなで生き生きと言い合う状況っていうのは、
会議っぽいんですか?
それとも雑談っぽいんですか?

宮本
雑談ですよね。ギャグで重ねます。

岩田
はい、雑談ですよね。
クリエイティブに関する大事なことは、
ほとんど雑談で決まってるような気がするんですよ。
(中略)
だから、最近はもう、
どうやって会議をフォーマルな感じではなく、
雑談っぽい話ができる場にできるかって
考えているところがありますね。
そうしないと、極端にいえば、
つまらないことしか決められなくなるというか、
そういう恐怖心があります。

糸井
うちの会社は、去年引っ越したとき、
みんなの机があるフロアのあちこちに、
さっと集まれるような場所をつくったんですよ。
そういう場所が大事に決まってるから。
(中略)
だから、引っ越すときに、
そういうスペースが潰れないようにした。
机とかイスとかを簡単に並べられないような場所に
その雑談スペースをつくったんです。

社長が訊く『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』より)

21世紀の産業モデルは”スケールアップ”ではなく、”スケールダウン”

本書の中で、最も印象に残った言葉が「21世紀の産業モデルは”スケールアップ”ではなく、”スケールダウン”」という言葉です。本書で語られているスケールダウンとは、「事業を可能な限り地域単位でまとめる」ということを意味します。

なるべく地域的に近い工場で複数の製造ステップを処理すると共に、最終組立地になるべく近い港から出荷できるようにする。また、地域の居住環境や交通、インフラストラクチャー、動植物の生息環境に対して、会社の事業がどのように影響をあたえるのか、注目し、地域の環境団体や清掃活動や動植物の再生などにも協力する。こうした、地域単位でなるべく事業を完結させることで、会社のリスクも分散させることができると書かれています。

レスポンシブル・カンパニーは、日本企業が目指してきた企業の形

実は、「レスポンシブル・カンパニー」というタイトルの本を、アメリカの企業の創業者が出版したことに、僕はパタゴニアのファンですが、違和感を持っています。なぜなら、「レスポンシブル・カンパニー」を目指していたのは、アメリカの企業ではなく、むしろ日本の企業です。

イヴォン・シュイナードは、本書で製品の品質は日本の市場が求める品質を目安にしていると語っていますが、近年トヨタの「カイゼン」が欧米の企業に浸透したように、日本の企業文化を学んだアメリカの企業が、昔の日本企業が掲げていた経営理念のような考え方を提唱する機会が増えた気がします。そして、現在の日本企業がアメリカ企業の良いところを学んで、「居心地のよい場所」を作ったり努力する姿は、すこし複雑な気分がします。

しかし、多くの日本の企業が目指すところは、”スケールダウン”ではなく、”スケールアップ”だと思われます。”スケールダウン”を目指す企業がどこなのか。自分自身はどうするべきなのか。改めて考えさせられた1冊です。

※2013年4月に書いた書評を再編集しました。

この記事が参加している募集

推薦図書

コンテンツ会議

サポートと激励や感想メッセージありがとうございます! サポートで得た収入は、書籍の購入や他の人へのサポート、次回の旅の費用に使わせて頂きます!