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2017年J2第24節 京都サンガFC対名古屋グランパス レビュー「チームの先頭に立つリーダーは誰なのか」

2017年J2第24節、京都サンガFC対名古屋グランパスは1-3で京都サンガFCが勝ちました。

この試合を観ていて気になったのは、「自分が勝負を決める」という気持ちを持ってプレーで表現している選手が、宮原と途中出場した玉田と杉本くらいしかいなかった事です。

いつ、何を、どうしたいのか、声を出して表現している選手は少なく、身振り手振りでコミュニケーションも少ない。ただ、淡々とプレーをして負けた。そんな印象を受けました。相手に勝つために何をしなきゃいけないか考えてプレー出来ていないから、どうやってプレーしたいのかも分からない。ただ、自分が出来る事だけをやって、出来たか出来なかったかだけを基準にプレーしているように感じました。

「勝つためのプレー」が出来ない経験の浅い選手たち

今の名古屋グランパスは、宮原、櫛引、和泉、青木、杉森といった初めて何試合もスタメンでプレーするような選手と、楢崎、玉田、佐藤、小林のように経験がとびきりある選手と、シモビッチ、ワシントン、シャビエルのような外国籍選手とでスタメンが構成されています。本来ならば、チームを支えるべき24〜28歳くらいの選手で、2年以上在籍している選手がほとんどスタメンにいないのです。

経験がない選手は、試合に出場し始めた時は「試合にやっと出れる」という前向きな気持ちがプレーに現れている頃はよいですが、試合出場が続くとコンディションも落ち、相手にも研究され、よいプレーが出来なくなってしまいます。今の名古屋グランパスは試合出場経験が多い選手が少ないので、相手に対策されてしまうと試合中に修正出来ないのです。

櫛引は苦境を乗り越えられるのか

そんな選手のプレーを象徴しているのが櫛引です。シーズン序盤の櫛引は、「名古屋グランパスの守備を1人で支えている」という程のプレーを披露していました。シーズン序盤はコンディションもよく、ボールを保持する時間も短かったので、ボールを奪う位置が自陣ゴール付近になっていたのですが、その分櫛引が得意な局面で守備が出来ていました。

ところがボールを保持する時間が増え、相手の攻撃を数的不利で受けたり、相手に優位な場面で守備をする事が増え、櫛引の弱点が露呈するようになってしまいました。

櫛引は相手が直線的に自分に向かってくるときの守備は上手いのですが、2対1や3対2など、相手がコンビネーションで攻撃を仕掛けてきた時、上手く対応できる選手ではありません。また、スピードに自信があるので、相手を自分の身体から少し離してマークする傾向があります。身体を離しているので相手に先に動かれてしまい、相手に駆け引きされて、逆をとられたときに、簡単にマークを外してしまうのです。コーナーキックで何回も失点しているのは、櫛引のマークミスが要因であることが多いのです。

ただ、風間監督は櫛引を我慢して起用しています。失敗を糧にして、持っている能力を活かせる選手になって欲しい。そんな考えがあるからこそ、我慢して起用されています。ただ、正直そろそろ我慢も限界に来ているような気がします。この試合は新加入のイムが先発する予定だったのですが、登録が間に合わず起用できませんでした。イムが先発したら、櫛引はスターティングメンバーではなかったと思います。ただ、川崎フロンターレの谷口は、何度も何度もミスを犯し、それでも風間監督に起用され�続け、素晴らしいDFに成長しました。櫛引は正念場を迎えていますが、乗り越えて欲しいと思います。

田口の求められている「自分のプレーでチームを勝たせる」プレー

「チームを支えるべき24〜28歳くらいの選手で、2年以上在籍している選手がほとんどスタメンにいない」と書きましたが、名古屋グランパスにはチームを支えるべき選手もいます。それは田口です。今の名古屋グランパスを立て直すキーマンは田口だと思います。中央のMFは、チームの攻撃と守備をコントロールするポジションです。声や、身振り手振り、そして自らのプレーで、チームに今何をすべきかを伝えるポジションです。田口のプレーが、チームの「目」になります。だからこそ、勝ったら自分のおかげだし、負けたら自分の責任。そのくらい責任重大なポジションです。

田口のボールを扱う技術は、J2では突出しています。ただ今の田口が物足りないのは、「自分のプレーでチームを勝たせる」というプレーがほとんどない事です。左右の空いている選手にパスを出し、自分がボールを奪われなければそれでよいというように見える事があります。周りが動かなければ、自分で声をかけて動かさなければなりません。周りが動かないなら、ドリブルでボールを運んで、敵を引きつけることも必要です。しかし、今の田口にはこうしたプレーがほとんどありません。

前節は攻撃ではほとんどよいプレーが出来ない反面、守備で相手の攻撃に対して何度も身体をぶつけ、勝利を求める気持ちをプレーで表現してくれました。ところがこの試合は、ボールが田口の上を通過することも多く、守備でよいプレーはほとんどありませんでした。だからこそ、攻撃でクオリティの高いプレーを披露しなければならなかったのですが、この試合ではよいプレーはほとんどありませんでした。本来ならチームを支える選手として「自分のプレーでチームを勝たせる」気持ちをプレーで表現して欲しいのですが、その観点で分析すると、まだまだ田口のプレーは力不足だと思います。

疑問が残った佐藤寿人のベンチスタート

前節のモンテディオ山形戦は、キャプテンの佐藤がリーダーとしてチームを引っ張ってくれました。ロングパスに対して相手に身体を当てて競りあい、守備の時は素早くボールを奪いに動く。プレーが止まった時は、味方の選手に声をかけ、何をしなければならないか、プレーで、声で、身振り手振りで、チームを鼓舞し続けました。

僕はこの試合で風間監督の采配で疑問が残ったのは、佐藤をスタメンから外した事です。今の名古屋グランパスのメンバーは、「勝つために何をしなければならないか」分かっている選手はいません。たしかに、ボールを扱う技術でスターティングメンバーを選んだら、京都サンガFC戦の11人が選ばれるのかもしれません。

ただ、「ボールを扱う」技術と「チームを勝たせる」技術は別です。風間監督は「ボールを扱う」技術を高め、実行出来るプレーを増やそうと考えてトレーニングを積んでいますが、最終的に身に着けたいのは「チームを勝たせる」技術です。まだ今の名古屋グランパスは、「チームを勝たせる」技術を身に着けている選手は多くありません。佐藤がいなかったことで、チームはやるべきことが分からずに試合を終えてしまった。僕はそう感じました。

川崎フロンターレには中村と大久保というリーダーがいた

風間監督が川崎フロンターレの監督を務めていた頃、今の名古屋グランパスのように苦労した時期がありました。ボールは保持できるようになったけど、得点が奪えない。ボールは保持しているけれど、セットプレーや相手のチャンスで簡単に得点を奪われる。勝ち点を落とした試合が何試合もありました。しかし、川崎フロンターレにはひとつ救いがありました。

それは、チームには「自分のプレーでチームを勝たせる」事をプレーで表現し、チームを勝たせてくれた選手がいました。それが中村憲剛と大久保嘉人です。チームの先頭に立ち、賞賛も批判も全部受けとめ、監督の最大の理解者として一歩一歩前に進む原動力となってきました。

中村と大久保の2人がチーム引っぱっている間に、谷口、小林、大島、車屋といった選手たちが「自分のプレーでチームを勝たせる」ために何をしなければならないか、少しずつ理解し、プレーで表現するようになりました。田坂のように海外で経験を積んだ選手や、チョン・ソンリョンや阿部のように、「自分のプレーでチームを勝たせる」事を当たり前として捉えている選手が増えたことで、試合中に相手を見て臨機応変に対応出来るようになりました。

今の名古屋グランパスのリーダーは誰なのか

今の名古屋グランパスは、川崎フロンターレと同じ道を進んでいますが、気になるのはチームの先頭に立つ選手が誰なのか分からない事です。試合では小林がキャプテンマークを巻いていますが、小林が先頭に立っているようには見えません。田口がキャプテンマークを巻いてもよいのですが、田口は2017年シーズンはキャプテンにも副キャプテンにも選ばれていません。佐藤か玉田が出ていなければ、リーダーがいないのです。

僕は今の名古屋グランパスで必要なのは、現場のリーダーを決める事だと思います。試合中にチームの進むべき道を示し、プレーで表現出来る選手です。僕は佐藤、田口、玉田の3人の誰かだと思いますし、キャプテンはベンチスタートになるような選手ではいけません。佐藤か玉田に委ねるならどちらかは必ずスターティングメンバーで起用する。田口に委ねるなら、シーズン中でもよいからキャプテンにする。どこに進むべきか迷っているチームに進むべき道を示すには、リーダーを決めて、現場に立たせて任せる。まずはここから始めるべきだと思います。

フロントは決断した。あとは選手とスタッフがやるだけだ。

モンテディオ山形戦の勝利を糧に、チームを上昇気流に乗せる事は出来ませんでした。磯村、矢田、古林、大武といった選手の移籍が発表され、チームは良くも悪くも岐路に立っています。

厳しい事を書くと、磯村以外の3人は「自分のプレーでチームを勝たせる」プレーが出来る選手ではありませんでしたので、移籍したことに大きな驚きはありません。彼らはどちらかというと、チームを勝たせるプレーをしている選手の背中にくっついているような選手でした。磯村だけはプレーから変化が感じられていたので残念ではありますが、フロントとしては「自分のプレーでチームを勝たせる」プレーをして欲しい選手が期待に答えられなかったので、決断をしたのだと思います。フロントにとっても痛みの伴う決断でしたし、磯村のように移籍しなくてもよいだろうと思う選手も移籍してしまいましたが、フロントが「誰と戦うのか」を明確にしたという点ではよい決断をしたと思います。

あとは残された選手たちと、「どう戦うのか」です。そして決めなければならないのは、「誰がリーダーなのか」です。佐藤なのか、玉田なのか、楢崎なのか、田口なのか、小林なのか、それともシモビッチなのか。リーダーの力を引き出し、チームの力を上げていくのに長けている風間監督の手腕が試されていますし、選手もこの苦境をいかに打開しようとしているのか、経験、技術、そして意志が試されています。

周りはいろんなことを言いますが、大切なのはチームが結果を出すために、やるべき事をやる事です。今後の試合に引き続き注目したいと思います。

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