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書評「21―世紀を超える神々たち」(金子達仁)

僕が学生時代にとても楽しみにしていた連載がありました。月初めの雑誌「ぴあ」の発売日に、僕はダッシュでコンビニに駆け込み、その連載を読んでいました。

「ぴあ」に連載されていたのは、金子達仁さんによる「21―世紀を超える神々たち」。

この連載は、当時「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」といったサッカーのノンフィクション作品がヒットし、飛ぶ鳥を落とす勢いだった金子達仁さんが、21人の才人に対してインタビューをするという連載です。

この連載が雑誌に掲載されていたのは1998年から2000年にもかかわらず、松本幸四郎、トータス松本、太田光、三谷幸喜、古舘伊知郎、宮本浩次、羽生善治といった人物は、2018年現在でも第一線で活躍しています。

「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」といった作品を読み直すにあたって、本書「21―世紀を超える神々たち」も読んでみたくなり、手をとりました。

サッカー以外のことも書ける

本書で語られている言葉は、今読んでも面白い。太田光は「納得のいくギャグはもう出てこない」と語り、古舘伊知郎は「いずれは言葉数を減らしていきたい」と語り、浦沢直樹は当時連載がスタートしたばかりの「20世紀少年」が終わったら、「もっと売れない作品を書いてみたい」と語っています。

本書に登場する小室哲哉が語った「自分では気をつけているつもりでも、僕、かなり周囲から甘やかされている部分ってあると思うんですよね」という言葉は、現在の小室哲哉と照らし合わせるといろいろと考えさせられます。

本書は、金子達仁さんの「サッカー以外のことも書ける」という思いから始まった連載でした。

サッカーだけじゃない。中田英寿だけじゃない。川口能活だけじゃない。自分はどんなテーマでも書ける。そんな気合と、気負いと、不安が文章から伝わってくるのは面白く、全体を通して、金子さん独特の深く人の本性をえぐり出すような文体で書かれている反面、専門的な知識があれば、もっと突っ込めるところもあったのではと思わせる文章もあります。

学生時代の時代の自分を思い出す

本書を読みながら、僕は学生時代の自分のことを思い出していました。

スポーツのことに興味があったけれど、スポーツのことを学ぶ大学には進まず、別のことを勉強していた自分。「サッカーだけじゃない」という金子さんの思いは、どこか自分の心の中にもあったのかもしれません。

最近、サッカーの事を文章に書くようになり、人に読んでもらえるようになってから、僕自身「サッカー以外のことも書ける」という気持ちはあるし、「文章書くだけの人じゃない」という気持ちもあります。

本書を読み終えて、自分にはられたレッテル、ブランド、イメージを塗り替えていく努力は続けていかなきゃダメだなと感じました。

お金にならないけれど、トライしたいことをやってみる。知らないことを学ぶ。繰り返した結果、自分にとって最も得意な技で再び脚光を浴びるかもしれませんが、ヒットし続け、最前線に立ち続けられる人はいません。敗北、失敗、準備といった、目に見えないことをどれだけ出来るか。そのことの大切さを、改めて思い出させてくれました。

本書を読み終えて、学生時代に読んでいた書籍を読み直したくなっています。

当時の自分はどんなことを考えていたのか。今の自分はどう感じるのか。最新の事例を追いかけるより、新しい発見があるのではないか。そんな気がするのです。


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