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2017-18シーズン Bリーグチャンピオンシップ準々決勝 千葉ジェッツ対川崎ブレイブサンダース 第2戦&第3戦レビュー

2017-18シーズン Bリーグチャンピオンシップ準々決勝 千葉ジェッツ対川崎ブレイブサンダース 第2戦は61-71で川崎ブレイブサンダース、第3戦は22-15で千葉ジェッツが勝ち、2勝1敗で千葉ジェッツがセミファイナルに勝ち進みました。

僕は、第1戦に87-65で千葉ジェッツの勝利。22点差で敗れた川崎ブレイブサンダースが、どんな対策を施すのか、注目していました。

藤井が富樫を封じる

川崎ブレイブサンダースが行った施策で印象に残ったのは、3点あります。

1点目は、ポイントガードのポジションに、篠山に代わって藤井をスターティングメンバーに起用した事です。

レギュラーシーズンは、キャプテンでもあり、日本代表でもある篠山をスターティングメンバーに起用してきたのですが、篠山はシーズン終盤に負った怪我をかかえており、万全の状態ではないように見えましたが、それだけが理由ではありません。

藤井の強みはスピードです。藤井の強みであるスピードを活かして、千葉ジェッツの最大の強みである、富樫を抑えようとしたのだと思います。

千葉ジェッツのバスケスタイルは、Webサイトにも書かれている「アグレッシブなディフェンスから走る」です。

この「走る」という点を体現しているのが、富樫です。走るスピード、ドリブルのスピード、どれもBリーグでは圧倒的です。何より脅威なのは、富樫が基点となって、エドワーズ、ライオンズ、パーカーというメンバーが繰り出す「ピックアンドロール」というプレーです。

※ピックアンドロールについては、こちらを参考にしてください。

富樫がスクリーンを用いて、相手の守備のズレを作り出し、ペイント内で、エドワーズ、ライオンズ、パーカーが得点する。分かっていても止められないこの攻撃で、千葉ジェッツは東地区優勝を果たしました。

川崎ブレイブサンダースとしては、スピードがある藤井に富樫をマークさせ、ボールをスムーズに運ばせず、ピックアンドロールでズレを作らせないようにしようと考えたのだと思います。この起用は当たりました。

藤井はアグレッシブな守備で富樫をマークし、楽にボールを運ばせません。富樫は楽にボールが運べないので、攻撃の時にどの攻撃をするのかというサイン(コール)を出すのが遅れてしまいます。コールが遅れるため、他の選手が攻撃をスタートするポジションにつくのが遅れてしまい、千葉ジェッツの攻撃がスムーズに機能しません。

千葉ジェッツは、攻撃をスタートするポジションにつくのが早く、選手同士が連携して、適切なポジションを取りながら、得点する確率が高いプレーを選択してくるチームです。ただ、千葉ジェッツの基点である富樫を封じる事で、川崎ブレイブサンダースは千葉ジェッツの攻撃を封じることに成功しました。

川崎ブレイブサンダースの千葉ジェッツのオフェンス対策

2点目は、ピックアンドロールやトランジションオフェンスに対する対応です。

千葉ジェッツのピックアンドロールに対しては、基点になる富樫に藤井をつける以外にも、対策を施してきました。

ピックアンドロールに対しては、藤井が「アイス」と呼ばれる守備で、スクリーンに引っかからないように、徹底的についていきます。もしも、藤井の守備が上手くいかなかったら、スクリーンする選手が富樫をマークする「ショウ」というディフェンスをして、藤井が追いつくのを待ちます。それでもだめなら、対応する選手を「スイッチ」して守っていました。スイッチする場面はあまりなく、ショウで守った場面も多くありませんでしたが、千葉ジェッツの攻撃を警戒していることはよく分かりました。

そして、千葉ジェッツの強みである「走る」攻撃に対しては、シュートのあとに、必ず3人の選手が3Pラインの外に立ち、千葉ジェッツの速い攻撃に対応すべく、素早く戻るという動きが徹底されていました。

千葉ジェッツに対しては、琉球ゴールデンキングスも同じように、リバウンドを取りに行く選手を決めて、取りに行かない選手は後ろで待機するという守備を徹底しているのですが、川崎ブレイブサンダースも同じように対応しました。ただ、琉球ゴールデンキングスの方が、動きは徹底されているように感じましたが。

徹底したダブルチーム

3点目は、ダブルチームの徹底です。ピックアンドロールや速い攻撃を封じられても、千葉ジェッツにはもう一つ武器があります。それは、小野のポストアップという攻撃です。

197cmという身長で3番(スモールフォワード)のポジションを務める選手は、Bリーグにはいません。Bリーグでは、3番には外国人選手は起用しないので、小野と他の日本人選手とでは、体格差のミスマッチが生じる事があります。このミスマッチをつくため、小野は「ポストアップ」と呼ばれる、相手を背負って押し込み、ペイントエリアから得点を奪ってきました。ピックアンドロールが封じられても、速い攻撃が封じられても、小野がいるというのは、千葉ジェッツの強みです。

川崎ブレイブサンダースは、小野のポストアップに対しては、守備が上手い長谷川(栗原)が強くコンタクトし、自由にプレーさせません。さらに、小野がボールを持ったら、時折藤井がダブルチーム(1人に対して2人で守る)を仕掛け、小野を自由にプレーさせません。ダブルチームは小野だけではなく、得点源のエドワーズに対しても行っていました。

シンプルな攻撃を徹底する

そして、川崎ブレイブサンダースは、攻撃はあれこれとやらずに選択肢を絞り、徹底してきました。

ファジーガスのポストアップ、デービスの1対1からのドライブ、辻の3P。川崎ブレイブサンダースの攻撃は、ほとんどがこの3パターンでした。(細かい戦術は省略します)

分かっていても止められないファジーガスのポストアップが機能し、得点を量産。辻の3Pが入っていれば、第1戦とは逆の点差になってもおかしくありませんでした。そのくらい、川崎ブレイブサンダースの施策はあたりました。

千葉ジェッツが見つけた攻略のポイント

千葉ジェッツの大野ヘッドコーチは、試合中「いかに攻撃を機能させるか」苦心していたのではないかと思います。富樫は藤井のマークに苦しんでいただけでなく、膝を怪我して、本来の動きが出来ません。

富樫を復活させるか、富樫が機能しなくても得点出来るオプションを見つけないと、第2戦だけでなく、第3戦も勝てないという事になりかねません。大野ヘッドコーチは、第3Qから様々な修正策を試します。見つかったのは、第4Q残り8分11秒の攻撃でした。

タイムアウト明けの攻撃で、千葉ジェッツはスクリーンを使って、西村をフリーにして、3Pシュートを決めさせます。この攻撃は狙い通りだったと思いますが、千葉ジェッツにとっては、狙い通り以上の効果がありました。それは、「攻略すべきポイントが見つかった」からです。

攻略すべきポイントとは、川崎ブレイブサンダースの辻のことです。辻は3Pシュートだけでなく、ファジーガスのピックアンドロールで、シュートチャンスを創り出すのが上手いプレーヤーです。

しかし、辻は2016-17年シーズンのBリーグファイナルでも、第4Q残り1:30以降で、栃木ブレックスの古川(当時)に、田臥をスクリナーに使ったシュートを決められたときに、スクリーンにひっかかっています。辻はピックアンドロールを仕掛けるのは上手いのですが、仕掛けられることには慣れていません。

千葉ジェッツは、辻に対するスクリーンが通用するのか試すため、富樫と西村というポイントガードを2人並べ(ツーガード)、西村にボールを運ばせます。西村をマークするのは辻なので、西村にピックアンドロールを仕掛けさせ、攻撃が機能するのか試したところ、思ったとおり守備のズレが生まれることが分かりました。

千葉ジェッツがしたたかだったのは、ズレが生まれることが分かったら、富樫をベンチに下げて休ませ、ポイントガードを1人にした後、シューティングガードの石井にボールを持っていないときにスクリーンを仕掛けさせ、守備がずれるのか、ペイントエリアの守備がずれるのか、試しているように見えました。千葉ジェッツはある程度上手くいくことが分かると、この攻撃を第4Qの残り5分でやめてしまいます。その頃には、第3戦を見越していたような気がします。

第3戦までに千葉ジェッツが行った修正

Bリーグは1勝1敗になったら、第2戦の20分後に5分ハーフの第3戦を行うという、変則ルールで勝ち抜くチームを決めます。(このルールを採用しているのは、アリーナ確保の問題などが要因なので、ここでは割愛します)

第3戦の千葉ジェッツは、2点を整理して試合に臨んでいるように見えました。

1点目は、リングに近い選手を積極的に使う。具体的にはリングに近い位置でプレーするエドワーズにボールを集め、シュートチャンスを創り出すことです。攻撃時のプレーの選択が遅くなっていたので、修正していました。エドワーズにボールを集める一方で、第3戦では、ほとんど小野のポストアップは使っていません。

2点目は、辻と石井のマッチアップを起点に守備のズレを作り出す。石井はサイドから中央に移動して、ビッグマンとのスクリーンをかけ、辻のマークを外します。辻のマークが外れ、他の選手が石井に気を取られた瞬間を狙って、中央のエドワーズやライオンズといった選手にボールを集め、得点を重ねていきました。

勝敗を分けた前半残り27秒のプレー

勝敗を分けたのは、前半残り27秒のプレーです。タイムアウト明けに、千葉ジェッツは富樫を使ったピックアンドロールを選択します。本来であれば、藤井が富樫をマークしているはずなのですが、この場面だけは、なぜか辻に代わって入った篠山が富樫のマークにつきます。藤井がマークについていたら選択しなかったと思うのですが、千葉ジェッツはとっさに富樫を使ったピックアンドロールを選択します。これはたぶんタイムアウトで話していたプレーとは違っていたと思います。

篠山は万全ではないのか、スクリーンをかけられ、富樫のマークを外してしまいます。フリーになった富樫は、この試合初めて自分の好きなリズムでシュートを打ちます。富樫の3Pシュートが決まり、普段はガッツポーズなどみせない富樫の渾身のガッツポーズが、富樫がいかに苦しんでいたか、そして、この試合の勝敗を大きく左右するプレーだったことが伝わってきました。後半に富樫が辻との1対1を制してシュートを決めましたが、僕は後半のシュートより、この3Pシュートが勝敗を分けたと思います。

やるべきことはやった川崎ブレイブサンダース

川崎ブレイブサンダースは、第1戦の敗戦を活かし、素晴らしいプレーを披露しました。守備の強度を高め、藤井の起用も当たりました。

ただ、最後の最後で、万全ではない篠山に富樫をマークさせたのは、ミスだったと思います。ここまで上手く試合をコントロールしていただけに、悔やまれるミスだったと思います。ただ、藤井も大分消耗し、両膝に手をつく場面が見られたので、限界だったのだと思います。第2戦は無理をして勝った試合なのだと思います。

それだけに、ほとんど3Pが入らず、守備で相手に狙われてしまった辻のプレーが悔やまれます。ただ、辻の3Pが入っていれば、川崎ブレイブサンダースの勝ちだったと思いますので、北ヘッドコーチの選択は理解出来ます。

千葉ジェッツは琉球ゴールデンキングスの守備を崩せるのか

千葉ジェッツはよく第3戦までに立て直したと思います。

千葉ジェッツ、マイケル・パーカー、石井、西村といった、目立たないけれど、ヘッドコーチの意図する戦術を攻守両面で実行出来る選手がいるのは強みです。エドワーズや富樫の得点が増えなくても、第2戦はマイケル・パーカーが22得点を上げ、チームを助けました。

石井は、オフボールで動き続けるだけでなく、第3戦に辻との1対1に勝ち、アリーナの雰囲気を高めるだけでなく、ショットクロック残り1秒で迎えたシュートを沈め、チームを助けました。西村は、富樫と異なり、きちんとプレーをコールすることで、チームがやるべきことを整理し、試合のテンポを落ち着かせる役割を担いました。些細な点かもしれませんが、こうした些細な点が勝敗を分けたような気がします。

千葉ジェッツは勝利しましたが、次に対戦する琉球ゴールデンキングスは、Bリーグ最少失点の守備をほこるチームです。特に、ピックアンドロールやトランジションオフェンスに対する守備が上手く、アルバルク東京との試合では相手のピックアンドロールに対する攻撃をほぼ封じ込めてみせましたし、トランジションオフェンスを封じるためにリバウンドを取りにいかない動きも徹底しています。千葉ジェッツにとっては、難敵です。

千葉ジェッツがどのようなプレーをするのか、そして、琉球ゴールデンキングスの佐々ヘッドコーチは、どのような対策を準備してくるのか。楽しみです。

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