書評「28年目のハーフタイム」(金子達仁)

本書を手にとったのは、このツイートがきっかけでした。

このツイートを読んだとき、僕はこう思いました。
「今読んだら面白いかもしれない」と。

そして、読み終えてこう感じました。
「僕は読んでいたから、西野さんの考えが理解できたのだ」と。

本書「28年目のハーフタイム」の舞台は、1996年夏のアトランタ。28年ぶりに五輪出場を果たしたサッカー日本代表は、ブラジル戦での奇跡的な勝利で世界中を沸かせました。だが、躍進の陰で矛盾と亀裂を抱えたチームは、続くナイジェリア戦のハーフタイムで、ついに崩壊します。

安易な喝采と批判を容赦なくあびせ、日々消費される報道からはけっして見えてこない監督、選手たちの葛藤を、深い愛情と洞察力によって肉迫した、スポーツ・ドキュメンタリーの金字塔です。

金子達仁さんは本書をきっかけに、一躍脚光を浴びます。当時掲載された、西野監督や川口能活さんのインタビューを読んだ時の衝撃は忘れられません。

改めて西野さんがどう考えていたのか。今の西野さんの考え方にどうつながっているのかを理解したくて、手に取りました。

攻めるには、自分たちがボールを持ってなきゃいけない

アトランタオリンピックの日本代表監督を務めた西野監督は、22年後にFIFAワールドカップロシア大会の日本代表監督に就任します。大会前の悲観的な予想をはねのけ、ベスト16に勝ち進み、ベルギーと素晴らしい試合を披露しました。一方で、ポーランド戦では、決勝トーナメントに進出するために、あえて「攻撃しない」という選択をし、物議を醸しました。

本書を読んで最も印象に残ったのは、西野さんが語ったこの言葉です。

「攻めるには、自分たちがボールを持ってなきゃいけないワケだろ。じゃあ、ブラジルからどうやってボールを奪うか。一番確率が高いのは、こっちの陣内に引きずり込んで、人数で奪うことだと俺は思った。守るために引いたんじゃない。攻めるために引いたんだ。それを消極的だっていうんなら、積極的なサッカーってのがどんなもんなのか、それがブラジル相手に通用するものなのか、そこまで考えてるのかって言いたかったね」

この言葉の答えは、22年後に開催されたFIFAワールドカップロシア大会で日本代表が披露したサッカーにつまっている。僕はそう感じました。

サッカーは、ボールを保持しているチームが、攻撃する権利を持つスポーツです。それがサッカーというスポーツを理解する上での前提です。西野さんは20年以上前から、サッカーというスポーツがどんなスポーツなのかを理解し、戦略と戦術を決めていたことが、この言葉から分かります。

そして、西野さんが語った言葉からは、最近目にする「相手にあわせたサッカー」という言葉が、はやりの言葉ではなく、当たり前に考えなければならないことなのだということがよく分かります。

アトランタオリンピックの反省を活かしたロシアワールドカップ

本書を読んでいると、西野さんがオリンピック代表監督を務めていた頃に学んだことが、日本代表監督に就任した時のチーム作りに活かされていることがよく分かります。

アトランタオリンピック当時は、大会直前に選手と監督との溝が広がり、披露したいサッカーに認識のずれが生じました。当時の反省をいかして、FIFAワールドカップロシア大会では、選手とコミュニケーションをじっくりととり、認識をすり合わせた上でチーム作りを進めたことも分かります。

引き分けでよかったナイジェリア戦のハーフタイムで、「もっと攻撃したい」と味方に要求した中田英寿に、「みんなが頑張っているのに、なんでお前はそういうことを言うんだ!」と怒声を挙げた西野さんが、22年後にポーランド戦に「攻撃しない」という選択をして、チームに徹底させたと思うと、とても興味深い。

そして、ハリルホジッチが強化委員長だった西野さんに対して不満を抱いていたように、西野さんが当時の強化委員長だった大仁邦弥さんに不満を抱いていたことも、興味深い。歴史は繰り返すのでしょうか。

日本のサッカーが進化したこと、進化していないこと

本書を読んでいると、日本のサッカーが進化したこと、進化していないことが浮かび上がってきます。当時のオリンピック代表の選手には、「自分のために戦う」と公言するような選手がいましたが、今の日本代表にはそんな選手はいません。

当時のオリンピック代表の選手には、大会が終わるとモチベーションを失い、パフォーマンスを下げた選手がいました。しかし、今の日本代表の選手たちは、新たな目標を立て、次に進もうと歩みを進めている選手が大半に見えます。「海外に移籍する」ことが目標だった時代から、「海外に移籍するのは当然」という時代に変わったことが、選手の意識も変えているような気がします。

一方で、メディアがサッカーを取り上げる内容、姿勢に大きな変化はないように思えます。アトランタオリンピックの時は、チームが勝てば攻撃陣の活躍を大きく報道し、守備陣の扱いは小さい。選手の活躍にばかり注目し、チームの戦い方などに対する議論はほどんどなかったと記憶しています。そして、そんな報道は大きく変わっていないと思います。

メディアは攻撃陣の活躍を取り上げ、守備陣のミスを、特にゴールキーパーのミスを面白おかしく取り上げます。僕が「メディア」と言っているのは、新聞やWebだけではなく、TwitterやFacebookやInstagramのようなSNSとよばれるツールで発信する人たち(僕も含めて)のことも含まれます。

アトランタオリンピック代表監督当時ですら、メディアには「ブラジルには守備的に戦う」と語りつつ、チームにはさりげなくブラジル代表の失点シーンをビデオで説明し、得点を取るための方法を伝えていた西野さんが、メディアの影響力をよく知っている西野さんが、FIFAワールドカップロシア大会を戦うための戦略を明確に描いていたとしても、メディアに伝えようとするでしょうか。

記者会見の煙に巻くような言葉に対して批判が集まりましたが、西野さんは自分に批判が集まるのは覚悟の上だったのだと思います。僕はメディアに掲載する記事を読みながら、西野さんの意図が読み解けないメディアや、解説者のコメントが凄く残念に感じていました。僕がそう思ったのは、本書を読んでいたからかもしれません。

28年目のハーフタイムの続きが読みたい

西野さんは、ワールドカップが終わったあと、一切メディアには出てきていません。僕は本書を読み終えて、「金子達仁さんにインタビューしてもらえないかな」と思いました。22年前のオリンピック日本代表を率いていた頃の経験がどう生きたのか答えてくれるんじゃないのでしょうか。

改めて書きますが、本書は今読み直すと面白い本だと思います。ぜひ読んでみてください。


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西原雄一

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