書評「通勤の社会史 毎日5億人が通勤する理由」
毎日電車に乗って、会社に向かう。都市近郊に住んでいる人なら、お馴染みの光景だ。なぜ仕事にいくために電車に乗るのか。そのことを疑う人すらいないはずだ。
でも、仕事に行くために電車に乗る「通勤」という行為をしなければならない理由はなぜか。そもそも、なぜ通勤しなければならないのか。そんなことを丁寧に考察し、1冊にまとめた本がありました。
本書「通勤の社会史 毎日5億人が通勤する理由」は、通勤という行為がなぜ始まったのか、イギリス、アメリカ、そして日本の通勤事情をまとめ、通勤の将来を考察した1冊です。
通勤電車のための保険があった
本書の冒頭を読んでいて驚いたのは、通勤が始まった当初、通勤するという行為は「命がけ」だったという事実です。鉄道が出来てから日が浅い頃は事故も多かったため、通勤するということは、死ぬ確率もあるということを意味したのだという。イギリスでは、通勤中に死んでしまった時のための保険まであったというから驚きです。
通勤という行為が浸透したのは、都市部の仕事の方が、賃金が高かったからことが大きい。都市部の仕事は賃金が高い一方で、人が住むには家賃が高い。そのため、少しでも手元に得た賃金を残すため、多くの人は通勤するということを選んだにすぎないのだ。
通勤は残り続けるのか
しかし、2018年現在では、ネットワーク環境の発達と、PCの高性能化に伴い、家にいても仕事をすることが可能になった。自宅でのリモートワークを推奨する企業も増えることで、通勤する人は減るのではないか。そんな考えに対しては、作者は文中で「NO」と答えています。
なぜ、「NO」なのか。作者はリモートワークで出来る仕事もあることは認めた上で、「顔を合わせるという行為自体に意味を見出す企業が多い」と指摘します。
グーグル、ヤフーといった企業は、リモートワークを承認していません。こうしたIT企業は、顔をあわせて同じ場所で仕事をすることにこだわっています。
最先端の技術を取り入れている企業ほど、顔をあわせて仕事するということにこだわる。顔をあわせる事が、自分自身の価値をアピールすることにつながっている。そんな意見すら、本書には掲載されています。
本書は通勤という行為をテーマに、現代社会の働き方を考察する書籍です。通勤をどう捉えるかによって、働き方は変わる。そのことを教えてくれる1冊です。
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