書評「勝ち続ける意志力 」(梅原大吾)

長谷部誠さんの「心を整える」をきっかけにして、アスリートの仕事に対する考え方を書いた本を書店で目にするようになりました。勝ち負けがつく世界で戦っている人々の考え方は、仕事のストレスに悩む人々にとって、参考になる部分が多いのだと思います。

本書「勝ち続ける意志力」は、格闘ゲームの世界で長年トップを走ってきた著者の、勝負に対する考え方をまとめた1冊です。著者はプロ・ゲーマーとして長年ゲームを舞台に、勝負の世界で戦ってきた方です。勝負の世界で戦ってきたという点で、アスリートと通じる部分があるのではと思い、手にとってみました。

読み終えて、将棋の羽生善治さんや麻雀の桜井章一さんの著書と似たようなことが書かれているなぁと思いました。勝負の場で長年戦ってきた人だけが実感できた、勝ち続けるための考え方があるのだと思います。それは、どんな世界にも通用する考え方なのだと思います。

勝ち続けるためには、変化し続けること

著者が説く「勝ち続けるための仕事術」には、近頃よく書店に並んでいる「こうすれば成功する!」といった類の書籍に書いてあるようなことは、何も書いてありません。むしろ、著者は「こうすれば成功する!」という本に書かれている内容を「安易な道」と評し、むしろ安易な道に進まないことが、勝ち続けるための方法だと書いています。

著者は「安易な道、裏技は使わない」「「人読み」に頼らず、弱点もつかない」「楽な道はない」「王道も必勝法もない」という言葉で、勝ち続けるための方法に「これをやっておけばいい」という方法がないことを、本書の中で説明しています。

著者が勝ち続けるための唯一の方法として語っているのは、「変化し続けること」の大切さです。勝ち続けるために、楽な道も王道も必勝法もない。しかも、ゲームという世界は勝つための方法を身につけても、新しいゲームが出ればイチからやり直しです。ゲームの世界で勝ち続けるためには、身につけたことを捨てて、変化し続けなければ、勝ち続けることは出来ないのです。

変化し続けるためには、何をするべきか。著者は、日々の小さな変化を大切にするべきだと書いています。小さなことでも、何か新しい気づきが得られたらメモを取って、心に留めておく。小さなことでも出来る事が増えたり、自分が予定していたことが出来たら、その事を肯定する。こうした積み重ねが大きな変化を生むのだというのです。

イチロー選手がインタビューで「僕は小さなことでも、出来たら満足する。」と語っていたことがありました。野球とゲーム。一見違う世界のようですが、勝ち続ける人には共通の価値観があることを、本書を読んでいると感じます。

自分を痛みつけるだけの努力はしてはならない

著書の言葉で印象に残ったのは、「自分を痛みつけるだけの努力はしてはならない」という言葉です。これは僕も普段考えていることなので、特に印象に残りました。努力は継続しなければ本当の力として身につきません。一夜漬けの努力は短期間の問題解決には有効かもしれませんが、長期間でみれば本当に力がついているとは言えない、というわけです。

山下達郎さんが、以前インタビューでこんなことを語っていました。

「ロックンロールの場合、ギターコードを三つ知っていれば曲が作れてしまう。でもその程度では100曲は書けません。
自分の魂の叫びがいくら強くても、すぐに限界が来るのは冷徹な事実です。
音楽表現を長く続けていくためには、継続的な訓練と学習が必要なのです。」

僕は、継続的な訓練と学習をするには、適度な休養と息抜きが必要だと思っています。マラソンでも給水しなければ、走りきれません。その点を誤解して、短期間に必要以上のことを身につけようとしたが故に、結果的に自分自身の心と身体を傷つけてしまい、何も身につかなかったということになりかねません。

麻雀の桜井章一さんも著書で語っていましたが、「結果ではなく、成長する過程を楽しむ」ことが、勝ち続けるために重要なのだと思います。過程を楽しむことができれば、自分を痛みつけるだけの努力をすることはないのでは、と思います。

機が熟すのを待つ

著者の言葉でもう1つ印象に残ったのは、「機が熟すのを待つ」という言葉です。一発屋と呼ばれる芸人を例に、本来勝てる力がないのに、強いと思われたいから大会で背伸びしたり、運良く勝ってしまったりすると、その後の方向転換に大きな力が必要になってしまうというわけです。

その一方、潜伏期間が長い人は、出てきた時の爆発力があるし、苦労している分簡単には自分を見失わないし、実力が備わっていて、常に感謝と努力を忘れないでいられるというのです。いつか訪れるその日を信じて待つこと。そして日々の生活・成長に少しずつの幸せを見つけ、1日1日を噛みしめるように生きる。それこそが、本当の勝者の生き方なのだと思います。


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