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書評「すいません、ほぼ日の経営。」

ほぼ日の篠田さんのツイートを見て、即購入してしまいました。

僕は、ほぼ日刊イトイ新聞の熱心な読者だと思います。毎日11時を過ぎたら「ほぼ日刊イトイ新聞」にアクセスし、更新されたコンテンツを確認しています。

ほぼ日刊イトイ新聞は2018年に創刊20周年を迎え、ほぼ日刊イトイ新聞を運営する「株式会社ほぼ日」は、2017年に東証ジャスダック市場への上場を果たしました。

他のメディアや企業には思いつかないアイディア、社員(ほぼ日では「乗組員」と表現します)がいきいきと働く姿、そしてほぼ日刊イトイ新聞でしか読めないコンテンツを読みたくて、多くのファンが毎日11時を過ぎたらほぼ日刊イトイ新聞にアクセスしていると思います。僕もそんな1人です。

ほぼ日の塾」に参加した時に聞いたのですが、ほぼ日刊イトイ新聞はトップページへのアクセスがサイト全体で一番多いのだそうです。

Webサイトのアクセス解析を行うと、検索エンジンが発達した影響で、トップページではなく、読みたいコンテンツに直接アクセスしていることが多いのですが、トップページへのアクセスが最も多いということは、ほぼ日刊イトイ新聞というWebサイト自体がいかに愛されているかを現しています。

ほぼ日という会社は、自分たちで決裁してプロジェクトを進めることができる会社なので、クライアントや上司からの無理難題に悩んでいる人にとっては理想的な会社に見えるかもしれません。多くの企業が悩んでいることから、ほぼ日という会社は遠い企業に見えるときがあります。

ただ、ほぼ日も会社である以上、悩みはあります。苦労もあります。試行錯誤はしています。ただ、ほぼ日という会社が、これまでどのように経営してきたのか、あまり語りたがらなかっただけだと、僕は感じていました。

そう思っていた時、「すいません、ほぼ日の経営。」という本が発売されたことを知りました。本書は「ほぼ日の経営」について、「社長、そのデザインでは売れません」の著者でもある川島蓉子さんが、糸井重里さんにインタビューした内容をまとめています。目次を読んで頂ければ、これまであまり語られなかった「経営」というテーマについて、糸井重里さんが答えている本であるということが、分かって頂けるかと思います。

目次
第1章 ほぼ日と事業
第2章 ほぼ日と人
第3章ほぼ日と組織
第4章 ほぼ日と上場
第5章 ほぼ日と社長

ほぼ日で働く厳しさ

本書の素晴らしいところは、ほぼ日で働く「厳しさ」が伝わってくるところだと思います。ほぼ日は糸井重里さんや他のスタッフが形作っている、穏やかな雰囲気から、「やさしい」だけの会社だと考えている人がいると思いますが、僕は違うと思います。

ほぼ日で働くために求められるのは、自らアイディアを出し、自ら実行し、周りの人の役に立つ(結果として儲かる)、ことです。自分でこの3つを実現させるのは大変です。人から言われたことを実行しているほうが、楽かもしれません。

ほぼ日で働くことの厳しさは、毎回素晴らしいインタビュー記事を作っている奥野さんのインタビューで読むことができます。

ほぼ日に入社した当初の2年間くらいはまったく企画が通りませんでした。ほぼ日では自分の仕事が自動的に降ってくることはそうないので、自分で企画を出さないと何もすることがなくて苦しいんですね。冗談ではなく、一日中ネットサーフィンをするしかなくて。(日本デザインセンター「POLYLOGUE」より)

1年前に「ほぼ日の塾」という、ほぼ日刊イトイ新聞のコンテンツの作り方を教えてくれる塾に初日だけ参加させて頂いたときにも、「ほぼ日で働く厳しさ」を感じました。

糸井重里さんが作った会社は、実は社員にとって「とても厳しい」会社なのかもしれません。場合によっては、売上といった成果よりも「なぜこれをやりたいのか」という、自分の生き方のような、より根本的な動機を問われる会社です。

ただ、ほぼ日はこれまで「厳しさ」について、あまり言葉にして、公にしてきませんでした。もしかしたら、きちんと理解してもらえるタイミングを探っていたのかもしれません。それが、ほぼ日刊イトイ新聞が20周年を迎え、上場を果たした、このタイミングだったのかもしれません。

糸井重里さんは何をする人?

本書を読みながら、「糸井重里さんは何をする人なんだろう」と考えてしまいました。社員が自分たちでアイディアを考え、実行し、人の役に立つ。社員だけでできるなら、社長は何をするのか。そんな考えが、ふと頭をよぎりました。

何度も読み返して、僕なりの現時点での問いに対する答えは、糸井さんは「先頭を歩く人」なんだと思いました。

行動指針として掲げられている「やさしく」「つよく」「おもしろく」を実践し、先頭を歩く人。後ろの人に「こうしろ!」とは口にしませんが、歩く姿を見せることで、後ろの人に歩き方、スピード、姿勢などのお手本を図らずも示す。それが、糸井さんの「ほぼ日」での役割なのかもしれない。僕は読み終えて、そんなことを考えました。

本書は決して理想郷について書かれた本ではありません。ありのままに、現在のほぼ日という会社の姿が書かれた本です。ただ、読み終えたら、ほぼ日と同じことをするのは簡単ではない、ということも分かるはずです。

ぜひ多くの人に読んでいただきたい本です。


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