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2017年J1第12節 鹿島アントラーズ対川崎フロンターレ レビュー「鹿島アントラーズの強みを弱点に変える」

2017年Jリーグ第12節、鹿島アントラーズ対川崎フロンターレは、3-0で川崎フロンターレが勝ちました。

この試合を鹿島アントラーズの立場で見ると、前半は守備が上手くいきませんでした。問題だったのは、FWの鈴木と金森、MFのレアンドロ、中村の動きです。

機能しなかった鹿島アントラーズの守備

川崎フロンターレのセンターバックを務めていた、谷口とエドゥワルド、そしてMFのエドゥワルド・ネットがボールを持った時、鈴木と金森はボールを奪いにいくのか、相手ゴール方向へのパスコースを消すのか、はっきりしません。したがって、センターバックのエドゥワルド、谷口、エドゥワルド・ネットの3人でボールを動かして、ボールを運ぶ事が出来ました。

鹿島アントラーズとしては、川崎フロンターレのサイドバックの武岡と車屋がボールを持ったら、中央へのパスコースを消し、タッチラインに追い込んでボールを奪いたいという意図があるのですが、サイドバックをマークするレアンドロと中村の守備が機能しません。特にレアンドロは武岡に対して距離を詰めるのが遅く、武岡に何度もドリブルで運ばれてしまいました。武岡の中央へのドリブルによって、鹿島アントラーズの守備者が守る位置がずれてしまい、より守りづらくなってしまいました。

鹿島アントラーズの守備は、サイドの選手はタッチラインに追い込んでボールを奪い、中央の選手は相手に強く当たってボールを奪う。この動きで成り立っています。しかし、中央の守備の起点となるFWと、サイドの守備の起点になるサイドMFの動きが遅いため、本来は強みである小笠原、永木、昌子といった、相手に素早く寄せて、身体を当ててファウル無しでボールを奪える選手の動きでボールが奪えないため、動いた場所を川崎フロンターレに活用され、フリーの選手やスペースを作り出してしまう結果になってしまいました。強みが弱みに変わってしまったのです。2点目の長谷川の得点は、鹿島アントラーズのFW、MF、DFの守備の連携がとれていない事を象徴しているかのような得点でした。

後半に入って、鹿島アントラーズは、まず守備を修正します。FWは素早く相手に寄せ、谷口、エドゥワルド、エドゥワルド・ネットの3人にボールを持つ時間を与えません。武岡への守備もFWが素早く寄せ、横方向にドリブルする時間を与えません。少しずつボールを奪えるようになったので、ボールを保持できるようにはなりましたが、なかなか川崎フロンターレの守備を崩せません。そのうち、武岡にボールを運ばれ、左サイドにパスがつながり、ブエノが不必要に阿部に食いついて、登里にシュートを決められ3失点目。これで勝負は決まってしまいました。

プレビューでは鹿島アントラーズの守備を、「相手にシュートを打たせない守備が上手い」と書きましたが、この試合の前半は、鹿島アントラーズらしい守備が全く見られませんでした。

リードされると強くない鹿島アントラーズ

プレビューでは、鹿島アントラーズの攻撃の特徴を「シュートは打つけど、枠内に飛んでいるシュートがシュート数の割に少ない」と書きました。鹿島アントラーズの攻撃の特徴には理由があります。それは、「ペナルティエリアの周囲でパスを交換する」という点です。鹿島アントラーズは、DFがボールを保持すると、まずはサイドにボールを動かします。ボールが右サイドにあれば小笠原、左サイドにあれば(この試合であれば)永木がDFラインと同じ位置まで下がってきてボールを受け、サイドバックの西と山本はFWと同じ位置に上がります。

鹿島アントラーズの攻撃の起点は、右サイドです。小笠原、遠藤(この試合であれば土居)、西の3人でパスを交換しながら、縦方向にパスを出すタイミングを探ります。川崎フロンターレであれば、縦方向のパスを出すというのは、ペナルティエリア前中央付近の事を指しますが、鹿島アントラーズの場合は、ペナルティエリアとタッチラインの間のスペースです。このスペースにFWの2人のうち1人が走り込み、ボールを受けます。ボールを受けたFWは、ボールをゴール方向に運べればよいのですが、大抵は背後にいる遠藤、西にボールを渡します。そして、相手陣内に入ってから3人でパス交換しながら、相手の守備がボールを奪いにくるまで待ちます。相手がボールを奪いにこなければ、3人でパスを交換し続けることもあれば、左サイドにパスを出して、サイドを変えて攻撃することもあります。

鹿島アントラーズは、攻撃時にペナルティエリアに自ら侵入するプレーをあまり選択しません。基本的にはサイドでパスを交換しながら、相手がボールを奪いにくるのを待ちます。相手が焦れてボールを奪いにきたら、相手が空けたスペースを使って攻撃を仕掛けるのです。この攻撃は、リードしている時に効果を発揮します。ボールを保持し続ける事を優先しているのだと思います。

一方、リードされている時、この攻撃は効果的ではありません。なぜなら、相手はリードしているので、守るべきはまずはペナルティエリアの中で、シュートを打たせないように守ればいいからです。したがって、鹿島アントラーズというチームは、先制点を奪って、自分たちのペースで試合を進めている時は強いのですが、リードされ、相手が余裕をもって試合を進めている時、相手の守備を崩せずに負ける事があります。先制点を奪って試合をコントロールして勝つ、という勝ちパターンが確立されているので、パターン以外のプレーが求められた時、脆いチームでもあるのです。

鹿島アントラーズの強みを弱点に変えた川崎フロンターレ

ただ、こうした鹿島アントラーズの強みが弱みに変わるような仕掛けを、川崎フロンターレが用意していたのも事実です。長谷川を左に起用し、中村と永木の間のスペースでボールを受けさせて、エドゥワルド・ネットや大島への守備を牽制し、小林を右に起用して町田の背後を狙わせ、中村は永木と小笠原のどちらかがマンマークのようにくっついてくるのを見抜き、少し相手ゴールから遠い位置でボールを受けることで、大島や阿部が受けるスペースを作り出しました。

守備でも鹿島アントラーズの起点となっている西によいプレーをさせませんでした。西がボールを持ったら、長谷川と中村が2人で挟み撃ちにします。西のボールを運ぶプレーや、相手を引きつけて出すパスによって、鹿島アントラーズは相手の守備を崩すのですが、川崎フロンターレは西に自由にプレーさせないように、最大限の警戒をしてプレーしていました。

西を強く警戒していた事を象徴しているのが、長谷川に代わって登里を入れた選手交代です。長谷川が少しずつ西へのマークを離すようになった直後に、素早く登里に交代させた時、僕は鬼木監督がどれほど西を警戒しているか、よく分かりました。登里は元旦の天皇杯決勝で西をマンマークしていたのを、僕は忘れていません。登里のおかげで、西は再び思うようにプレーが出来なくなりました。

ボールを運べなかった後半

川崎フロンターレとしては狙い通りの試合展開だったと思いますが、あえて課題を挙げるなら、後半3点目を奪ってからほとんど攻撃出来なかった事だと思います。特に大島が負傷交代してからは、ほとんどボールを相手陣内に運べなくなりました。原因は鹿島アントラーズが攻勢を強めたこともあるのですが、僕は中央でボールを受ける選手がいなくなったことも原因だと思います。

鹿島アントラーズが攻勢を強めてからは、鹿島アントラーズはサイドから攻撃を仕掛けるので、ボールを奪う位置もサイドが多くなりました。サイドで奪ったボールを受けようと阿部がサイドに動きます。阿部がサイドに動くのは仕方ないと思うのですが、阿部がサイドに動くと中央に誰もいなくなってしまい、中央へのパスコースがないので、仕方なく相手陣内に向かって蹴る。そんな展開が続きました。

小林の課題は中央でのプレー

小林は相手の背後でボールを受けるのは上手いのですが、DFとMFの間でボールを受けるのが得意ではありません。チャレンジはするのですが、ターンする時の半径が大きいので、人が多い中央では相手に引っかかってしまうのです。僕は大島の負傷交代でハイネルを入れましたが、この日は森谷や大塚のように、中央でボールを受ける選手がベンチ外ということで、仕方なく入れたのだと思います。

小林がサイドで受けて、阿部は永木と小笠原の後ろでボールを受けるように工夫すれば、もう少し攻撃出来る時間も増えたような気がします。実際、家長が入った83分以降は、阿部が中央でボールを受けるようになったため、攻撃出来る時間が増えました。

中央でボールを受けるというプレーは、小林にとって中々改善されない課題です。小林のプレーの特徴として、ターン、シュート、ドリブルといった一つ一つのアクションが大きいので、どうしても人が多い中央では相手に捕まりやすくなってしまいます。

ずっと試行錯誤しているのは分かるのですが、そろそろ何か改善策がみつけられないと、中央のFWでプレーする時、得点が増えていきませんし、日本代表での出場機会も増えません。特に、久保裕也というサイドでも中央でも得点が奪えるFWが出てきたので、小林の立場は厳しくなっています。小林がより凄いストライカーになるには、中央でいかにプレーできるかだと思います。今シーズンの小林のプレーを測る尺度の1つとして、中央でのプレーを注目してみてください。

中断期間までの残り3試合をどう戦うのか。

鹿島アントラーズが本来の出来とはいい難かったく、怪我人が多かったため、優位に試合を進められたのは事実です。しかし、ベストメンバーではない相手に対して、きちんと勝てたのは良いことだと思います。そして、何より我慢強く、相手のペースに飲み込まれる事なくプレー出来るようになった事は、チーム力が上がっている証拠です。

この後、ACLを2試合挟んで、リーグ戦は2週間後の6月4日。横浜F・マリノスとの対戦とはいえ、再びアウェーゲームです。ACLでどんな試合をするのか。そして、リーグ戦中断期間まで、どのようにチームは戦うのか。楽しみにしたいと思います。

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