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2017年J2第16節 横浜FC対名古屋グランパス レビュー「風間監督が名古屋グランパスで交代を積極的に行う理由」

2017年J2第16節、名古屋グランパス対横浜FCは2-1で名古屋グランパスが勝ちました。

この試合のプレビューで、横浜FCの「パス本数」「ボール支配率」「30mライン侵入回数」といったデータから、僕は横浜FCの攻撃を「相手が攻めてきたらボールを奪い、素早く相手陣内にボールを運び、シュート成功率の高い選手がシュートを決めて得点する」と書きました。データではある程度想定していたのですが、事前に試合が観れていなかったので予想と違っていた事があります。それは、横浜FCが徹底的にロングパスでイバを狙って攻撃してくる事です。

徹底的にロングパスを活用する横浜FCの攻撃

横浜FCがボールを保持したら、まずFWのイバを狙ってロングパスを蹴ります。イバは身体も強く、ボールを止める技術に優れているので、少々ボールがずれていても、ボールを受けてくれます。したがって、まずイバを狙ってロングパスを出し、イバがボールを受けて他の選手に預け、イバがゴール前に移動したら、再びイバにパスをする。こうした攻撃を何度も繰り返していました。正直、ここまでロングパスを活用してくると思っていなかったのですが、試合後の横浜FCの選手や監督のコメントを読むと、どうやら必ずしも狙い通りではなく、もう少し横方向に短い距離のパスを繋ぎたかったようですが、少なくともどうやって得点を奪おうとしているかは伝わってきました。

また、ロングパスを活用して攻撃するので、あまりDFやMFの選手がFWの選手と同じラインに上がって攻撃することはありません。したがって、相手にボールを奪われた時、DFの人数が数的不利もしくは同数という局面はほとんどなく、(名古屋グランパスではしょっちゅうです)簡単にシュートを打たれる場面もありませんでした。横浜FCはデータによると、相手のシュートに対するゴールの割合を示す「被シュート成功率」が第15節時点で4.9%とリーグ1位です。このデータは、横浜FCの「人数をあまりかけない」攻撃が、「人数をかけて守る」守備を生み、イバというストライカーの能力を最大限に引き出し、失点を減らしていることが分かります。

名古屋グランパスは、前半15分まで横浜FCの攻撃に対する対応に苦しみます。当初、イバに対するロングパスはワシントンが対応し、DFは後ろに残る事になっていたそうですが、DFが対応してファウルをしてしまったりと連携が上手くいきません。連携が上手くいかない時間帯にイバにフリーキックを決められてしまい、さらに苦しい状況に追い込まれました。「高さ」と「速さ」

「高さ」と「速さ」で問題を解決するな

ただ、前半15分以降は相手の守備を外し、相手陣内までボールを運ぶ事が出来ていました。ただ、ペナルティエリア近くにまでボールを運んだ後の攻撃が上手くいきません。気になったのは、成功率の高くなるシュートチャンスを作り出そうと「正確」にプレーするより、「高さ」「速さ」で問題を解決しようとしているように感じた事です。

ペナルティエリア付近は、相手チームは得点を奪われないように選手間の距離を短く保ち、素早く距離を詰め、ボールを奪おうとします。だからこそ、正確にプレーし、相手の守備を攻略し、成功率の高いシュートチャンスを作り出そうとプレーするのが、名古屋グランパスの戦い方です。ところがこの試合は、シモビッチの高さ、杉森の速さといった個人の能力で問題を解決しようと、せっかくペナルティエリア付近までボールを運んだのに、相手の守備を崩すための一手間をかけるプレーが出来ていませんでした。たしかにシモビッチの高さ、杉森の速さは名古屋グランパスの強みなのですが、強みを活かそうとして、雑にプレーするのは本末転倒です。ただ、まだ相手の守備を崩すために、攻撃のテンポを変えたり、相手を外す動きをしたりする余裕はありません。その余裕の無さが、「高さ」「速さ」で問題を解決しようとするプレーに現れていました。

特に余裕がなかったのが内田です。前半は内田のところでパスミスが多く、攻撃のテンポが上がらない場面がありました。内田に代わって後半開始から杉本を入れ、和泉を左サイドバックに移します。よりスムーズにボールを運び、攻撃のテンポを上げ、相手の守備を崩そうとします。杉本個人のプレーがよかったわけではありませんが、和泉が左サイドバックに入ったことで、スムーズにボールが運べるようになり、左サイドから攻撃する回数が増えました。PKを奪った2回の攻撃が左サイドからだったのは、偶然ではないと思います。

風間監督が名古屋グランパスで交代を積極的に行う2つの理由

最近の試合では、杉本が交代の1番手として起用されています。杉本のドリブルは、ボールを運ぶポイントが増えるので、相手陣内にボールをスムーズに運べないときや、相手を押しこんでから崩したい時にとても効果的です。また、交代で出場しても、スムーズに試合に入れるのも杉本の強みです。簡単ではありません。ただ、90分通じて同じレベルでパフォーマンスを発揮出来る選手ではないので、風間監督は交代で起用しているのだと思います。

風間監督が川崎フロンターレで監督を務めていた頃と比較して、明らかに変わったのが交代策です。川崎フロンターレ就任当初は交代枠を使わない試合も多かった監督が、前半45分で選手を代えたり、交代枠を使い切ったりと、積極的に選手交代を行うのが目立ちます。これには2つの理由が考えられます。

1つ目は、名古屋グランパスの方が起用できる選手が多いという事です。川崎フロンターレに就任した直後は、怪我人が多かっただけでなく、風間監督の意図を理解出来る選手の方が少なく、交代で選手を起用してもかえってプレーの質が落ちる事がありました。しかし、名古屋グランパスでは選手のレベルも高く、起用できるレベルの選手が数多くいます。

風間監督は、川崎フロンターレの監督を務めていた頃は「試合に出るのは簡単じゃない」という事を、交代枠を使わないことで示していた時期もありました。選手がいないから穴埋めで出られるのではなく、実力で自分のポジションを奪い取る。そんな意識をチームに根付かせたかったのだと思います。言い換えると、就任当時の川崎フロンターレはそのくらいチームのプロ意識が低いチームだったのです。

しかし、今の名古屋グランパスには、楢崎、佐藤、玉田、シモビッチといった何も言わなくても高いプロ意識を持った選手がいます。彼らのおかげで、チームは高い競争意識が保たれ、「試合に出るのは簡単じゃない」というメッセージをわざわざ強調しなくてもよい状態になっています。だから、風間監督は交代枠を使えるのです。

2つ目は、名古屋グランパスにJ1昇格という目標があるからです。風間監督は「J1昇格が目標」という言葉は口にしませんが、当然頭の片隅にはあると思います。川崎フロンターレの頃は、多少順位を度外視して、選手を成長させるために、交代枠を使わずに選手を起用した事もありました。何かフィールドで問題が起こっても、選手に考えさせるようにしていました。

ところが、名古屋グランパスではその余裕はありません。選手に解決策を委ねて試合に負けていたら、J1昇格出来ない可能性もあります。当然解決策を教えてしまう事によって、選手が監督を頼り過ぎてしまい、選手自身が解決策を導く力を養えないというリスクはありますが、今の名古屋グランパスには、前述した楢崎、佐藤、玉田、シモビッチといった選手がいるし、田口も急速に成長しています。選手のレベルを考え、傷口を最小限にするために、交代枠を活用し、フォーメーションを変更するといった策を実行しているのだと思います。

より緻密で正確なプレーが求められている

この試合に勝利し3連勝。ただ、ペナルティエリアの左右と中央の「三辺」をどう攻略するのかという課題は残っています。ボールを運ぶときは1mのずれで許されたとしても、ペナルティエリア付近では、1mのずれでは許されません、50cm、いや30cmのずれも許さない正確性が求められます。ただ、この正確性が身についてくれば、より簡単に相手の守備を崩していけるはずです。

三歩進んで二歩下がるような感じで、チームは少しずつ成長しています。次の試合も楽しみです。

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