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2017年J1第8節 川崎フロンターレ対清水エスパルス レビュー「阿部がプレーで訴えていること」

この試合のプレビューに書きましたが、この試合に臨む前に川崎フロンターレはチームのアイデンティティとも言える、攻撃に課題をかかえていました。2012年に風間監督が就任後に、「止める」「受ける」「運ぶ」「外す」といったボールを扱うために必要な技術を徹底的に追求し、相手の守備の強度を上回る攻撃を披露し、相手の守備を上回って勝つという戦い方を追求してきました。

しかし、2017年に鬼木監督が就任後、チームはより勝つ確率を高めるために、攻撃だけでなく、いかに相手のボールを奪うか、いかに相手にゴールを決めさせないか、といった守備にも力を入れるようになりました。鹿島アントラーズのようなチームと比較して、簡単に失点してしまう点を改善して、より多くの試合で勝利したい。そう考えたのだと思います。

2017年シーズンがスタートして、鬼木監督の取組は成果を出しているように感じていましたが、シーズンが進むにつれて、問題が浮き彫りになります。攻撃に特徴があるチームなのに、得点が取れないのです。相手を押しこんで、これでもかと攻撃し続けるサッカーでサポーターを魅了し続けてきたチームが、攻撃で相手を上回る事が出来ない試合が続きました。攻撃で相手を上回れないため、守備をする機会が増え、結果的に失点も減らないという悪循環に陥りつつありました。弱点を強化しようとして、本来の強みを見失うということは、どんな組織でも起こりうる事で、どんな人でも起こりうる問題です。負傷者の続出、ACLのおかげで解決策に時間をかける事が出来ず、鬼木監督としては中々大変な時期を過ごしています。

前段が長くなりましたが、この試合は、川崎フロンターレとしてのアイデンティティでもある、攻撃で相手を上回って勝つことが出来るのか、そして起用された選手がどのようなプレーをするのか注目していました。

前半に相手の守備を崩せなかった理由

前半の川崎フロンターレは、ボールは動きますが、中々相手の守備者を動かし、崩す事が出来ません。僕が観ていて問題だと感じたのは、中村とエドゥアルド・ネットのポジションです。攻撃を開始する時、エドゥアルド・ネットが谷口と奈良の間に下がってきてボールを受けにくるのですが、前半は中村も下がってきてしまいました。近年、中村は相手の守備者の距離が狭い時、コンタクトされたくないのか、守備者の間に立つのではなく、守備者の守っている場所の外側でボールを受けようとします。大島がいれば守備者の間でボールを受けて、ゴール方向に運んでくれるのですが、前節のコンサドーレ札幌戦同様、中村とエドゥアルド・ネットの2人が下がってしまうため、なかなかボールが前に運べませんでした。

ただ、前節のコンサドーレ札幌戦と比べたら、ボールはスムーズに動いていました。ボールがスムーズに動いていたのは、三好、阿部、大塚といった、この試合にスタメンで起用された選手が、相手の守備者を外して、ボールを受ける動きを繰り返してくれたからです。特に効果的だったのは、大塚です。相手の守備者の間に立ってボールを受け、味方にパスを出し、また受ける。ボールはなかなか前に進まないものの、大塚がいることで、テンポよくパス交換する事は出来ていました。

前半観ていて気になったのは、エドゥアルド・ネットのプレーです。ボールを持ってから次のプレーを決断するまでの判断が遅く、相手の守備に捕まってしまう場面がみられました。また、パスをミスした時、他の選手がボールを奪われた後、次のプレーに移るまでの動きが遅く、ボールを奪われた後に相手の攻撃を受ける要因になっていました。前半の1失点目は、エドゥアルド・ネットが谷口が空けた場所に全力で戻っていれば、防げた失点でした。谷口の守備の事が問題だという人もいましたが、あの失点はエドゥアルド・ネットのミスです。鬼木監督は攻撃時の課題より、エドゥアルド・ネットがやるべき事をやらなかったことを問題視したのだと思います。

より攻撃に特化した後半。守りきるのではなく、攻めきりたかった。

後半に入って、エドゥアルド・ネットに代って、森谷を入れます。この交代によって、森谷が前、中村が後となり、森谷が守備者の間でボールを受けてくれる事で、パス交換がよりスムーズになりました。また、森谷がパスを出して受けるという動きを繰り返し、相手ゴール方向へのパスを選択してくれた事で、相手ゴール前にボールが運ばれるようになりました。森谷、中村という2人を並べるのは、相手に攻め込まれた時の守備に不安がありますが、攻撃の事を考えれば素晴らしい組み合わせです。森谷が入った後に2得点を挙げたのは偶然ではありません。

ただ、森谷と中村は得点を奪うための組み合わせなので、相手の攻撃を受けて、守りきれる組み合わせではありません。2得点を奪った後も、攻撃し続け、3点目、4点目を奪って、勝ち切ること。それが、鬼木監督が考えていたゲームプランだと思います。だからこそ、2得点を奪った後も攻め続けなければならなかったのですが、2得点を奪った後、あれだけ押しこんでいたのに、自分たちで攻撃を止めてしまったように見えたのは残念でした。特に大塚が下がった後は、ボールを受ける動きをする人がいなくなり、FWの選手はボールを受ける動きを止め、DFはボールを味方につなげず、相手に渡してしまう。そんな場面が増えた事が残念です。

エドゥアルドではなく、田坂を入れた理由

鬼木監督はこの試合は、「攻めきって勝つ」というゲームプランを徹底しようとしていました。大塚に代って長谷川を入れて、右サイドに配置。攻撃に出てきていた松原に対して、長谷川をぶつけて、押しこんでやろうという意図がみえた交代でした。また、82分には足のつった三好に代えて、田坂を入れます。エドゥアルドを入れるという選択肢もあったと思いますが、まだ10分以上時間があり、DFラインが下がってしまっている事を考えるとDFを増やして、相手の攻撃を受け止めても守りきれないと判断したのだと思います。僕はこの交代は妥当だと思います。

ただ、田坂を左に入れたのは疑問が残りました。守備の上手い阿部がいることによって、村田を抑える事が出来ていたのですが、田坂が入ったことで逆に攻め込まれるようになってしまいます。また、阿部は中央でボールを受けるのが上手くないので、阿部がボールを受けられないために、なかなかボールを保持して相手を押し込む事が出来ません。阿部を左に配置して、田坂を右に、長谷川を中央にするという選択肢もあったと思いますが、ただ前節までの試合で、長谷川は中央でボールが受けられないという評価を、スタッフは下していたのだと思います。もしかしたら、田坂を中央にしておいたほうが、上手くいったかもしれません。

僕が問題だと思った2つのプレー

僕が気になったのは、ロスタイムの奈良のプレーです。ロスタイムに入って、自陣で登里が奈良にパスをした場面で、奈良はフリーだったのですが、ダイレクトで相手陣地に向かって意図の分からないパスをしてしまいます。味方につないでいれば何も起こらなかった場面をきっかけに、相手にボールをキープされ、結果的に失点してしまいます。失点前の守備を問題だと考えている人がいましたが、僕は守備より奈良が簡単に相手にパスをしたことが問題だと感じました。

奈良が相手にパスした後、川崎フロンターレはボールを再度奪い返して、相手陣内でスローインをする場面がありました。この場面で阿部や小林にきちんと渡して時間を稼いで、相手ゴールキックから再開させていれば、攻め込まれる事もありませんでした。ところがスローインした登里は誰に渡したかったのかよくわからないスローインをして、相手にボールを渡してしまいます。奈良や登里のように、簡単にボールを渡してしまっていては、勝てる試合にも勝てません。チームのアイデンティティ以前の問題です。こうした細かいプレーの積み重ねで、勝利を失っているし、タイトルにあと一歩届かないのだと思います。

阿部は川崎フロンターレに足りない点が分かっている

実はこの点について試合後に指摘していたのは阿部です。阿部はガンバ大阪というタイトルを獲得したチームに在籍していた経験から、勝つためにどんなプレーをしなければならないのか、経験から理解しているのだと思います。阿部のコメントを読んでいると、川崎フロンターレがなぜタイトルを取れないのか、勝たなければならない試合で勝てないのか、理由が分かっている気がします。阿部はこの試合、他の選手に対して何度も次のプレーですべきことを促すように声をかけ、指示をしていました。特にミスし、パスがこなくて下をむく選手に対して声をかけている場面が何度もありました。阿部は、川崎フロンターレが勝てるチームになるために、自分の経験を伝えようとしている。プレーを観ていて、そんな気がしました。徐々に川崎フロンターレのプレーのテンポにも馴染んできているので、今後はもっと良くなると思います。

ギリギリの戦いは続くが、最悪な状態は抜け出した


結果的に引き分けてしまいましたが、ゲームプランを90分間遂行した上での引き分けなので、悪くない結果だと思います。前節のコンサドーレ札幌戦で失った余裕を、多少なりとも取り戻した。そんな試合だと思います。まだまだギリギリの戦いは続きますが、最悪の状態には至らずに済んだというというところでしょうか。悲観するほどではありません。中3日でACLが控えていますが、この試合のような戦いが出来れば、十分チャンスはあると思います。正直、この試合を迎えるまではどうなることかと思いましたがホッとしました。どうにか、我慢の4月を乗り越えられそうだ。そんな手応えが得られた試合でした。

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