書評「ボールピープル」(近藤篤)

なぜサッカーが好きなのか。自分自身その事を誰かに説明しようとするんだけど、うまく説明できた試しがありません。

結局、「スタジアムに行けばわかるよ。」とか「ボール蹴ってみればわかるよ」とか言って、サッカーの楽しさを現場で感じてもらうことで伝えようとするんだけど、「面白くなかったよ」とか「ただ疲れただけだった」とか言われてしまうことの方が多いのです。そういえば、妻にも同じような事を言われた気がします。

そして、バルセロナのサッカーの素晴らしさや、ワールドカップの素晴らしさや、リオネル・メッシのドリブルやクリスティアーノ・ロナウドのFKの凄さや、内田篤人がいかにイケメンなのかを伝えても、サッカーの魅力を伝えたとは言えないと、僕は思っています。

市井の人々が支えるサッカーへの熱

本書「ボールピープル」は、著者が世界中で撮影したあらゆる場所でサッカーに興じる人々の写真と、写真にまつわるエッセイを収められています。写真には素敵な女性の写真も数多く含まれていますが、当然です。サッカーは素晴らしい女性も虜にする魅力があるからです。そして、そんな素晴らしい女性を目当てに、今日も男はスタジアムに向かうのです。世の中とは、そういう仕組みで成り立っているのです。おぼえておきましょう。

本書には、有名なサッカー選手はほとんど登場しません。登場するのは路上で、グラウンドで、ビーチで、あるいはちょっと予想もつかない場所でボールを蹴る人々や、スタジアムで声を張り上げる人々、テレビでサッカーを観ている人々、といった名も無き市井の人々ばかりです。

でも、そんな名も無き市井の人々一人一人が、それぞれに抱いているサッカーへの思いというものがあります。声を張り上げることで、ボールを蹴ることで表現している、言葉には出来ないサッカーへの思いが、本書の写真とエッセイからは伝わってきます。余談ですが、著者は「サッカーの女の子のことしか書かれていない」と本書の事を語っていますが、言葉にするのが難しいという意味では、(人によっては)サッカーへの思いというのは、恋愛と同じようなものなのかもしれません。

それでは私は今の世界を頑張ります。

本書の中でとびきり好きなエッセイがあります。

「僕には義理の弟がいた。」という書き出しで始まるエッセイです。事故で亡くなった義理の弟が高校2年の時にかいた「10年後の自分へ」という手紙を紹介したエッセイです。

そこにはこんな事が書かれています。

あなたは今どんな職業についていますか。
高校のとき志していたような職業につけたでしょうか。
自分の職業に生きがいを感じ、収入もよく、毎日がたのしいですか。
あなたは自分に誇りがもてますか。
あなたは自分が好きですか。
人間的に良い男、魅力ある男に成長したでしょうか。
まわりの人に好かれていますか。
今、自分の限界に挑戦していますか。
(中略)
自分を高めていってよい人間になってください。

この手紙の最後は、こんな言葉で終わります。

それでは私は今の世界を頑張ります。

本書はそんな”今の世界を頑張る”人々の魅力を、サッカーというスポーツを通じて紹介している1冊です。


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