書評「僕と彼女と週末に 浜田省吾 ON THE ROAD 2011 The Last Weekend」(田家秀樹)


現代の音楽業界は、従来のCDなどのパッケージの売上が落ちているため、ライブ活動やグッズ販売などで収益を挙げていく必要があると言われています。ライブ活動の重要性については、ロックフェスが盛んになってきた頃からよく聞くようになりましたし、マドンナがライフ・ネイションというイベント興行会社にマネジメントを依頼したことも話題になりました。

しかし、パッケージ販売全盛の時代から、ライブを重視した活動を行い、幅広い年代層から支持を集めているミュージシャンがいます。それは、浜田省吾さんです。浜田さんはテレビにはほとんど出ず、メディアからの取材もほとんど受けません。

しかし、ツアー日程が発表されると、アリーナクラスの会場で開催するにもかかわらず、チケットはほぼ即日ソールドアウト。ファンとの間で長年にわたって築き上げてきた確かな信頼関係によって支持されている、日本では珍しいアーティストです。そんな浜田さんのファンとの接点が、ライブ活動なのです。

前置きが長くなりましたが、本書「僕と彼女と週末に 浜田省吾 ON THE ROAD 2011 The Last Weekend」は、震災直後の2011年に12都市37公演にわたったアリーナツアーに密着した、ドキュメンタリーです。

震災から1ヶ月後。強い想いと共に始まったツアー

「ON THE ROAD 2011 “The Last Weekend”」は震災から1ヶ月後の4月16日に静岡で始まります。震災直後、日本中が音楽活動も含めて自粛ムードだったことを考えると、浜田さんの行動は迅速でした。そこには、活動を止めることによって、関係者の仕事を止めてはならない。ライブを続けていけば、チャリティーライブなどを通じて、被災地を支援することが出来るはずだという浜田さんの強い思いがありました。

そんな強い思いから始まったツアーの初日、思わぬファンの反応が待っていました。

本書のタイトルにもなっている曲、「僕と彼女と週末と」の歌詞には、こんな一節があります。

恐れを知らぬ 自惚れた人は
宇宙の力を 悪魔に変えた

また、今回のライブで歌われた「A NEW STYLE WAR」という曲には、こんな一節があります。

ひび割れた nuclear power
雨に溶け 風に乗って

2011年4月といえば原発の問題が大きく取り上げられていた時期でした。したがって、ライブで「僕と彼女と週末と」や「A NEW STYLE WAR」の演奏を聴いたファンは、歌詞の世界で歌われているメッセージと現実があまりに近すぎるあまり、メッセージを重く受け止め、演奏が終わった後なんとも言えない重いリアクションを返したそうです。

重たい現実の中を一歩、一歩、前に。

東日本大震災の後、ミュージシャンはどうするべきなのか。どのようにツアーを進めていくべきなのか。浜田省吾さんを中心としたツアーメンバーおよびスタッフは、こうした重たい現実の中を一歩一歩確実に歩みを進めていきます。神戸で行われたチャリティーライブ、震災以前から活動していた「J.S.Foundation」という基金による活動などの復興支援活動にも取り組んでいきます。

しかし、良いことばかりが起きるわけではありません。このツアー中に長年浜田さんのライブで演奏してきたキーボディストが、意見の違いから突然ツアーを離れます。それでも、浜田さんはツアーを続けます。代役をたて、仙台・さいたまスーパーアリーナでの復興支援コンサートまで、足掛け15ヶ月にわたって行われたツアーを走りぬきます。

ツアー終了後のインタビューで、浜田さんはこんなことを語っています。

これを最後にして幕引きみたいな、引退試合みたいなことは絶対最後までない。
今も、そしてこれからも道の途上であるという気持ちを持ち続けていくのだと思います。

言葉ではなく、自らの姿で進むべき道を示す。

本書は、そんな1人の男の生き様と、男を支える熱き人々の声を記録したドキュメンタリーです。

※2013年に掲載した書評を再編集しました。

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