ある「没企画」の墓標

<ファイルの更新記録によれば、主に2000年代の前半、深夜向けのオリジナルテレビアニメの企画を複数進めていた時期がありました。自分の仕事史的には「ヒヲウ戦記」から「十二国記」「ロウラン」などと、いくつかのペンネーム仕事をこなしていた時期です。
本来オリジナルといえど、プロデューサーや監督から何らかのオーダーがあり、そこから何かを考えていくものですが、私の場合まず自分がなにか考えていることがあって、それがたまたま向こうの興味と合致すると、企画を転がし始めるというスタイルが多いです。
さて、今回ご紹介するのはそんな中、実現しなかった企画の一本です。一本と書きましたが、実際には6本余りの企画書がセットになっています。これは私が一つの企画を考えているうちに、その企画の核になっているアイデアを自分の中で転がして、さらに別の企画へと進化させていくということをやるからで、スパっとあきらめて全く別の企画を作るということができず、この場合は結局ズルズルと数年にわたって、企画の変奏を続けてしまいました。
自分としては恥の記録のようなものですが、どのように企画を考えるのか、それをどう変化させていくのかという意味では、興味のある方もおられるかと思い、時系列順に紹介してみることにしました。
もちろんこれらは私一人で作ったわけではなく、プロデューサーに見せて意見をいただきながらの作業でしたが、結局企画が成立しなかった時点で引き上げさせていただく約束をさせていただいたものですので、今回は私のオリジナル作品扱いで、途中から有料とさせていただきました。

さて、最初の企画ですが、元々「ナデシコ」以降、テラフォーミングされた火星を舞台に面白い話が作れないかということをずっと考えていました。その成果の一つは、火星で西部劇をやるという「BANBAN LADY」という漫画-寿ひさし(平井久司)さんとの仕事-でしたが、これは読みきりで終わってしまいました。その後考えていたのが、火星に地球から隔離された子どもたちがいる、というアイデアでした>

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「綺能教室」

 どこともしれぬ教室に、中学生が1クラス分集められる。彼らは初対面で、どうしてここにきたのかもよくわかっていない。「君たちの中に侵略者がいる」という放送が出し抜けにある。そしてその通り、生徒の一人は人間に化けた怪物だった。
 子供たちは最初は隠し合っているが、実はいずれもある種の「超能力」を持っていた。彼らはそれを明かし合い、なんとか怪物を倒すことに成功。
 だが教室の外は砂漠(?)、ここは火星で、地球に侵攻するエイリアンを倒すために彼らは集められた……と告げられる。子供たちは半信半疑のまま、共同生活をしていくしかない。
 彼らは様々な仮説をたてる。
 ここは本当に火星なのか?
 夢ではないのか?
 何かの実験なのか?
 自分たちは実在しているのか?
 自分たちは死んでいるのでは?
 自分たちは地球を追放された囚人なのでは……?
 彼らは答えを見付けることが出来るのか。

 アレンジして考えると、舞台は地球の平凡な学校のほうがいいように思える。だとすると彼らの「敵」はなにか。ひそかに入り込んでいる宇宙人、なにかこちらの世界に重なり合いかけているパラレルワールドの住人? どっちもちょっと冴えない感じ。 その「敵」にズバッとしたアイデアがあれば、あとは集められた超能力少年たちの恋愛や疑心暗鬼や戦いで描いていけると思うのだが。

彼らは教室から逃れることが出来ない
だが事件を解決したり「成功」したものから、教室を解放される。帰れる最初は帰りたくないと考えているものたちも、帰ることを望み始める。
教室という閉鎖系社会

彼らは全員が「神」だったりする?
神になるレッスン
見えない教室

ポイント
「多数のヒロイン、全て別の制服」「世界を救うために戦う若者」「世界への喪失感」「それと重なる、いつか来る個人的な別れ」

○田舎町へ転校させられてくる子供たち そこは化け物が支配していた?
○火星 地球防衛の最前線
○ロボットに乗る? 超能力が合わさることにより、なにか?
○敵は神 観念的世界

<一方、ファンタジー的な要素と、現代の学生を使った能力バトルみたいなものがミックスできないかと考えていて、ただファンタジー的なものを成立させるアイデアがどうしても思いつかなくて(単に異世界から来ましたみたいなネタは、当時はまだ受け入れられる空気がなく)メタフィクション要素を追加してみました>

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「ドラゴン・プリズナー」

○舞台は近未来の地球
○日本近海に人工島が作られる、そこには二十世紀の東京の一部が丹念に再現されていた。だがそこにはまだ入居者はない。
○そんな無人の東京にある学校に、日本全国から数十名の学生が集められ、強制的にその学校での共同生活を行なう様、指導される。
○その町では突然建物が壊れたり、音がするという奇怪な現象が相次いでいた。その現場にいった子どもたちは、そこで電柱の上でトグロを巻くドラゴン、或いは家の中で煮炊きをするゴブリン……といった怪物たちを目撃する。だがそれは彼らにしか見えないものだった。
○そこに集められたのは所謂何かが「見えてしまう」子どもたちだった。彼らにはそうした霊視能力のほかに、必ず何かの超能力がある。彼らを集めた者たちは、この人工島に起こる見えない何かからの侵略に対抗するために彼らを呼んだのだ。
○子どもたちは何らかの方法で島から出ることを禁じられる。そして学校で共同生活をしながら(学園祭の前日のような高揚感の中で)、何故ドラゴンや怪物たちが町に出没するのかを考えるようになっていく。
○彼らは自分たちがいる場所がなんなのかを考えるようになっていく。そして毎回仮説をたてて、世界からの脱出を試みるが失敗するという繰り返しである。その仮説とは次のようなものになる。「自分たちは囚人ではないのか」「ここは別の宇宙ではないのか」「誰かが自分たちを殺戮シミュレーションに組み込んだのではないか」「リアルなバーチャルゲームの中ではないのか」「自分たちは死んでいるのではないのか」「誰かが考えた想像の世界に閉じ込められているのではないのか」「自分たちだけが生き残っていて、外の世界はとっくに滅びているのではないのか」「ここは宇宙船の中ではないのか」「自分たちは眠っているだけではないのか」「自分たちはロボットで人間だと思わせられているだけではないのか」
○やがてここはフィクションとリアルの境界が壊れ出しているのだ、ということがわかってくる。そしてそれは世界全体に広がりつつある病のようなものであり、リアルとフィクションの交換が行なわれようとしている(その原因については未設定)。
○それを意識したとき子どもたちの一部は積極的にフィクションを味方につけようとする。というか自分たちがフィクションの中でそれぞれ役柄を与えられていることを認識し、積極的にその役を演じようとしていく。具体的にはドラゴンや怪物たちの味方となって、その勢力を拡大し、世界を滅ぼす方向に向かって行く。しかしもう一方の子どもたちはあくまで自分たちの世界、リアルを守ろうとする。そうして子どもたち同士の戦いが始まる。
○リアルとフィクションの交換が始まっているこの世界では、超能力を持つ子どもたちのイマジネーションが融合すれば、物理的な現象を起こすことが出来る。子どもたちの想念が武器や鎧を作り出してドラゴンなどと対決すというビジュアルシーンが可能になる。
○テーマはリアル。今子どもたちにとって学校は「牢獄」とも言われる。そのカリカチュアとして、誰もいない東京に自分たちだけがいるという世界で、「一体ここはどこなのだ」という、現実にも通じる問いかけを行なわせ、一体リアルとはなにか、という子どもたちなりの解答を模索する。それは現代に生きる全ての人間にとって、リアルとフィクションの距離感について問い直すことになるのではないだろうか。
○より過激な設定としては、ある日、一部の子どもたちを残して全ての人間が地球上から消滅する。そして謎の宇宙人、或いは怪物たちが町に現われるようになっていく。子どもたちは「いつか大人たちが戻ってくる」と信じ、それまで「この星を自分たちで守り抜く」という哀切な決意で、そうしたものたちと戦い抜く……、その過程でいったい人々は何故、どこに消えたのか……もしかしたら消えたのは自分たちのほうではないのか……という探求をしていく、という設定も有り得る。

<上記の二つの企画のいいとこをとって、一見現代の日本なんだけど、そこには学生たちしかいなくて、何故かドラゴンや魔法使いと戦っている。そこにややミリタリ風味も入れて、ということで、ここで本格的に企画がGOします。企画書には当時流行っていた人様の作品のタイトルなどもバンバン出てくるのですが、そこは恥ずかしいのであちこちカットした上でお見せします>

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「奇能教室  ゴースト・エイジ」

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