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恋と変とM-1グランプリ


どうもにっしゃんです。

今日は15年前、僕の人生を変えるきっかけとなった大勝負の話をしたいと思います。

大勝負といってもギャンブルの話ではありません。
安心して下さい。

純愛感動青春大スペクタル巨編です。

それではどうぞ。



2005年11月。

当時大学三回生。

僕は人生を賭けた大勝負に挑もうとしていた。


その大勝負とはM-1グランプリ2005 2回戦である。

僕は2ヶ月前、アマチュアながらM-1グランプリに出場し1回戦を突破していた。


僕は芸人になりたかった。

自分の笑いがどこまで通用するのか、このM-1グランプリで試そうとしていた。


そしてあわよくば大学内で「M-1に出て勝ち進んでいる人がいるらしい」と噂されたかった。

さらにあわよくば「え〜もしかしてあの人じゃない!?ちょっと話しかけに行こうよ!」と大学の女子達にチヤホヤされたかった。

さらにさらにあわよくば「あなたの笑いが大好きです!付き合って下さい!」と告白されたかった。

僕の頭の中は「芸人5あわよくば95」の割合で構成されていた。


そんなあわよくばに支配された僕に願ったり叶ったりの大チャンスがやってきた。

当時僕が好きだった女子(以下Aさん)が観に来る事になったのだ。

しかも1人で。

こっちから誘ったわけではない、向こうが言い出したのだ。

「なるほど。おそらく相手はこちらに気があって彼氏になる人の漫才がどんなものか見てみたい。という事は爆笑をとりさえすれば確実に付き合える。そういう事ですね」

僕の中のポンコツ恋愛探偵が推理を展開した。


"これは絶対にウケなければ"

僕は尋常じゃないレベルの気合いに満ち溢れていた。

かくしてM-1グランプリ2回戦は僕の一世一代の大勝負となった。



僕が相方に選んだのは高校時代ラグビー部で一緒だった「変人」とみんなから呼ばれる男だった。

変人は本当に変な人だった。


1回戦の直前にいきなり

「俺明日からボクシング始めるから漫才辞めるわ!」と言ってきたり

ネタ合わせが終わった後、何の脈略もなく

「俺の方がおもろいんや!!」とブチギレてきたり

本当に変な人だった。


とはいえ2人の相性は抜群で漫才コンビとして一致団結し、練習に励んでいた。

ネタは1本だけでその1本をひたすら練習していた。

とにかく同じネタをずっと練習しているので次第にネタ時間が早くなっていった。

これ「ネタをやりたての人あるある」でネタに慣れてしまって話すのがどんどん速くなるのである。

最初3分15秒あったネタが気付けば3分を切っていた。

3分切った瞬間なぜか2人は「ヨシッ!」という顔をした。

いつの間にか謎のタイムトライアルに挑戦していたのである。


ネタの内容は「色んな設定のコンビニ店員と客がその設定に沿ったやりとりする」みたいなものだった。

例えば演歌歌手の店員とロックな客が

客「ジャカジャカジャカ!!弁当を〜買いに来たぜ〜!!」

店員「タラランランラン〜いらっしゃいませ〜」

といった感じである。

面白いかどうかはとりあえず置いといて

当時はこのネタに全てを賭けていた。



そしていよいよ本番当日。


舞台衣装という概念がなかった僕達は当日着て来た服で舞台に出ると決めていたのだが

待ち合わせ場所に現れた変人は奇妙な格好をしていた。

異常な量のファーが付いたコートに寝癖全開というスタイルだったのである。

X-MENに出てくるウルヴァリンの宿敵セイバートゥースのような出で立ちである。

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「あ、この人セイバートゥースで漫才するんや」

僕は思った。

そしてそういう僕は袖の部分だけ色が違うGジャンという謎の一品を着ていた。

クソダサ秋冬コレクションの2人が難波に降り立った。


Aさん以外にラグビー部の2人も応援に来てくれた。

中学の時アメリカンフットボールをやっていた通称アメリカンと

後にツルッツルにハゲる事になる男、通称後ハゲ(のちハゲ)である。

アメリカンと後ハゲは僕らをずっと応援してくれていた。

「もし誰も笑ってなくても俺が全力で笑うから!」

後ハゲは頼もしかった。


僕は受付をする前にAさんと合流した。

Aさんは「すっごい楽しみ!」と言ってくれた。

僕らのやり取りを隠れて見ていた後ハゲは

「彼女めっちゃかわいいやん!あ、まだ彼女と違うか!まだな!ハッハッハッハ!!」

と絶妙な死亡フラグを立てていった。


会場は昔NGKの横にあった無限大ホールという場所だった。

楽屋に入るなり変人は不敵に笑って周りを見渡し僕にこう言った。

「俺らはこいつらとは練習量が違う。俺らは3分を切っている」

今ならはっきり言える

「そういう事やない」



不敵に笑っていた変人の顔に木材が直撃した。

「何だ!?」一瞬わけがわからなかった。


無限大ホールは楽屋が狭かった。

楽屋というか色んな道具が置いてある通路の様な場所を楽屋として使ってたのである。

その狭い場所で他の演者の肩が何かに当たった。

それがピタゴラスイッチの様に連動していって最終的に木材が変人の顔に直撃したのである。

漫才の出番前に顔に木材が当たった人を見たのは後にも先にもこの時だけである。



そうしていよいよ僕らの出番がきた。


「どうもどうも〜!!」

飛び出す変人

揺れるファー


「いや〜ちょっと今日はね、変わったコンビニの店員と客をやってみたいねんな!」

よく分からないGジャンを着た僕がよく分からない事を言った。


「ウイ〜ン、ジャカジャカジャカ!!弁当を〜買いに来たぜ〜!!」

変人がシャウトした。

張りつめる空気。

焦る僕。

変人の口から出るよだれ。


すかさず僕も叫んだ。

「タラランランラン〜いらっしゃいませ〜」

張りつめる空気。

焦る僕。

僕の口から出るよだれ。


演歌歌手とロックのやり取りを終えた後、素人ながらこう直感した。

"これめちゃくちゃスベるやつや"


それから様々な設定

織田信長の店員と板垣退助の客

レジマニアの店員と原始人の客

ネタが進むごとにどんどんやばい空気になっていった。


舞台上からふとAさんの顔が見えた。


!?


混乱した顔をしている。

笑ってないとかそんなんじゃなく、混乱した顔をしている。


おそらくAさんはこう思っていたのだろう。

「漫才をすると言っていた知り合いが舞台上でわけのわからない事をよだれをたらしながらやっている。
あれは一体何だ?
私はいま何を見せられているのだ!?」

混乱するのも無理もない。


そしてその横にはいつの間にかAさんと合流していたアメリカンと後ハゲが無表情でこっちを見ていた。


「もし誰も笑ってなくても俺が全力で笑うから!」

こう言っていた後にハゲる男は会場の誰よりも全力で無表情だった。



出番を終えた僕らはそそくさと会場を後にした。

変人は

「ちょっとその辺でエッグタルト探してくるわ!」

と謎のセリフを残しミナミの街に消えていった。


僕はAさんと合流し開口一番こう言った。

「いや〜もうちょっとやってんけどなあ」

頬に釣り針が刺さってそのまま釣り上げられたかのようにAさんの顔が引きつった。

僕はいまだにあの顔を忘れる事が出来ない。


帰りの電車、エッグタルトを頬張る変人の横で僕は心の中で誓った。


「この屈辱は来年2回戦で爆笑とって必ず返してやる!今に見てろよ!絶対リベンジするからな!」

結局この誓いはMからRに変わりしかも15年かかる事になる。


変人の顔が赤く腫れていた。




大スベリ烈伝 その4 終



100円で救えるにっしゃんがあります。