期待しなかった街

昨年12月から翌1月にかけて、ヨーロッパをひとりで回ってきました。そのなかにはロンドンやパリ、バルセロナなど、世界的に有名な都市が入っています。

それらの都市を訪れるのは初めてのこと。行く前からものすごくワクワクしましたね。パリに入ったときなど、感動で体が震えました。

ただ振り返ってみて、有名な都市が一番だったかと言われると微妙な感じ。もちろん素晴らしい経験だったのは違いないですが、最も良かったわけではありませんでした。

では自分にとって良かった都市はどこか。それはポルトガルのポルトでした。

ポルトという都市をご存知ですか。ポルトガルの北西にある人口20万人ほどの都市です。

ポートワインの有名なこの小さな港町に来たのは、なにもワインを飲みたいからではありません。ポルトガルへは行こうと思っていて、有名なのは首都のリスボンだなと。リスボンともうひとつくらい泊まろうと軽い気持ちで決めたのでした。

滞在はわずか2泊3日。移動日をのぞくと実質、見て回れるのは一日だけです。でも元々、期待していなかったので、それで何の問題もなかったんですね。

ところが。ポルトのフランシスコ・サ・カルネイロ空港から市街地へ向けて電車に揺られると、どんどんこの都市に引かれていく自分がいました。

気候が温暖とか街の人がやさしいだとか、考えれば理由はいろいろ浮かんできます。でももっと感覚的に「この街は肌に合うな」と思ったんです。

宿の最寄駅を降りると、焼きたての焼き栗を売っている屋台がありました。おばちゃんが大声のポルトガル語で客引きをしています。いつもは駅前の露店など素通りするのですが、この時はなぜかするすると引き寄せられ…。

料金を英語で尋ねると、早口のポルトガル語が返ってきました。英語は通じないようです。指を二本立てているため、「2ユーロかな」と2ユーロコインを渡しました。すると大量の小銭がお釣りで返ってきました。どうやら0.2ユーロだったようです。

熱々の栗を食べながら歩いていると、遠くからスケボーを楽しむ数人の少年が好奇心いっぱいの表情でぼくのことを見ています。立ち寄ったスーパーマーケットの人からは「あなた日本人ね、『ARIGATO!』」と陽気な挨拶。

良い意味でも悪い意味でも都会だったロンドンから移動してきたため、物価の安さとのんびりした空気が印象的でした。到着して数時間だけですっかりポルトが気に入ってしまったのです。

✳︎

こんな調子で、2日目もポルトの好きなところをたくさん発見できました。

海沿いの車一台がやっと通れるような細い坂道。見上げると高い窓から釣り下がっている洗濯したばかりのシーツ。観光客が来るのを昼寝しながら待っているオート三輪の運転手。

午後からあいにく雨が降って早々に宿へ引き上げましたが、雨上がりの夜には飲食店が集っているフードコートのような施設へ。

ワインバーやフルーツ店、パスタ、高めのレストランなどごちゃまでのなかで、海鮮のお店でトマトと魚介のパッパルデッレを食べました。濃厚なスープが絡んだ麺を口に運びながら、空いた食器を下げている係りの人に目が行きました。全員が20代前半くらいの若い女の子なんです。

どこの国にもフードコートの食器片付け係はいますが、大概はおじちゃんとかおばちゃんです。めずらしいですよね。

ふと気づくと、キッチンやカウンターで料理やお酒を作っているのも女性ばかり。男性はというと、主に接客や会計を担当しているみたいです。なんだか日本と真逆です。ポルトは女性が支えている街、そんな新鮮な感想を持ちました。

帰りには女性のバリスタだけがいるコーヒーショップでエスプレッソを一杯。翌日にはポルトを離れる予定です。苦味の効いた美味しいエスプレッソを飲みながら、短い滞在にしたことを後悔しました。

✳︎

こうして良い印象ばかり残ったポルトですが、なんの期待もしていなかったのは最初に書いた通り。でもこういうことってよくあることです。

期待すると自分のなかで良いイメージができあがって、それを現実が越えられないケースがあるんですよね。あと有名な都市の場合、ひとがたくさん来すぎて地元民の対応が冷たくなる(そのつもりがなくとも、そう感じる)のもあります。

憧れの都市に行ってみたいのは当然のこと。でもそれだけに絞ると、「期待ほどじゃなかった」とがっかりしてしまうかもしれない。

聞いたこともないような小さな都市も旅のルートに入れると、幸運な出会いがありそうです。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

12

西出光一郎

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。