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「カメラを止めるな!」の感想

昨日ようやく、映画「カメラを止めるな!」をみてきました。その感想を書いてみます。ネタバレありです。

ひとことで感想を書くと、とてもおもしろかったです。

事前情報をなにも入れずにみました。超話題作なので、先入観なしにみるというのはとても難しかったですが…。頭から最後まで十分に楽しめました。

タイトルとフライヤーなどの雰囲気から、実際の映画監督が撮っている姿をメタ的に楽しむ感じかと思っていました。シリアスなドキュメンタリー映画なのかな〜と。

その予想はかなり裏切られました。この映画は、娯楽作です。謎解きの要素が大きいため、サスペンスというくくりでも差し支えないかな、とも思います。

ここでざっとあらすじを。

主人公の映画監督・日暮隆之は、普段はテレビの再現VTRなどを作っている映像監督です。とあるプロデューサーから、「ワンカット・生放送」で撮り切るゾンビ映画の打診が来ます。

自分に撮り切れるか悩んだ挙げ句、やってみることにします。

言うことを聞かない出演者をなんとかなだめすかしながら進めていき、いざ本番当日になると映画監督役とメイク役のふたりが交通事故で来れなくなります。しかも音響役はお腹をくだし、カメラマン役は泥酔中。

映画監督役は自らが出演し、メイク役は見学に来ていた妻が代役することにして、なんとか生放送を撮り切るというものです。

構成は大きく3つにわけることができます。

① 映画内映画である「ONE CUT OF THE DEAD」の上映。
② 「ONE CUT OF THE DEAD」を作ることになった経緯。
③ 「ONE CUT OF THE DEAD」撮影中の舞台裏。

つまりいちばん最初に回答である①を見せられて、その種明かしを最後の③で行なうという構成です。

まず最初の①ですが、なんの前置きなく始まるんですよね。そのため観客は、いま上映しているのが映画の本編なのか映画内映画なのか、判断がつきません。これがうまいなと思いました。

いきなり大きな謎を出されて、そこに引っ張られる形で映画を観続けることになるんです。

でもその謎はわりと早い段階でわかります。なぜなら出演者の演技がすごくぎこちないんですね。「ここまで下手くそな映像が本編のはずはない」と気づくわけです。

ここで観客は新たな疑問を持ちながら映画を見続けることになります。その疑問とは、「だったら、この映画内映画はいったいなんなんだろう?」ということです。

しかも不可解なシーンがかなり発生します。たとえば、音響役の人が前振りなしに急に具合が悪いと外へ出ていったり、カメラが地面に転がったままになったり、女優の怖がっている表情のシーンがやけに長かったり…。

そんなさまざまなクエスチョンを持ったまま、映画内映画である「ONE CUT OF THE DEAD」はエンドロールを迎えます。

舞台はかわり、時間軸がひと月前に変わります。経緯を説明する、ブリッジ的な役割の②がはじまります。

ここでさまざまなことがわかってきます。最初に見せられた映画内映画の「ONE CUT OF THE DEAD」は、「ワンカット・生放送」という制約のもと作られたテレビ映画だったということです。

さらに配役が決まると、役者の個性が紹介されていきます。

理屈っぽくて現場を中断させるゾンビ役の役者や、演技のNGを要求するわがままな女優、酒好きの音響役など、ここで伏線がどんどん張られていきます。「なるほど、そういうことか〜」と観客は徐々に理解できてくるんですね。

すでに完成版を知っているわけですから、それをパズルをはめていくみたいにして観客は楽しめるのです。

ここから③へ移行するのですが、疑問が残ります。

映画監督役とメイク役は、本編では実際にメガホンを撮っている主人公の日暮隆之と、その妻である元女優の日暮晴美でした。でも監督役とメイク役には役者が配置されています。ここはどうなるんだろうと?

すると交通事故によって、この二人が来れなくなるというアクシデントが発生するんですね。通常の撮影であれば、別日にリスケジュールされるところ、この映画は「ワンカット・生放送」を売りにしています。ここでこの設定がいきてくるんです。

物理的にリスケは不可能。そこで映画監督の日暮隆之は、自ら出演することを決意します。さらに妻の晴美も脚本を読み込んでいたため、急遽、代役に抜擢されます。こうして、①へつながる舞台が完全に整うことになります。

この「急遽、映画監督役とメイク役の代役をする」というアクシデントの設定がうまいです。交通事故というベタな理由でありながら、このアクシデントがあるかないかでその後のブーストのかかり方がまったくかわってきます。

観客はこの映画の完成版①をすでに観ているわけですから、無事に放送できたという事実は知っているんです。

「ワンカット・生放送」という制約の中で、いったいどのようにして乗り切ったんだろう。そんな疑問の解明へ向け、この急遽行なわれた代役という出来事が、観客をぐっと前のめりにさせるんです。

③は種明かしになりますから、「なるほど、そういうことだったのか〜」の連続です。息もつかせぬくらいにポンポンとテンポよく舞台裏を披露していきます。

最初に①をみたときに不自然に思えた部分が、次々と解明されていきます。とっさの判断で撮影を乗り切っていく監督の姿に感動すら覚えます。

そうなんですよね。この映画をみていると、いつの間にか応援しているような気分にもなってくるんです。

そこには、映画監督役・日暮隆之のキャラ設定のうまさもあると思います。

作品を何度も作ってきて、十分ベテランの域に達している。でもこだわった映像づくりなど自分のレベルではできないと自ら制限をかけていて、プロデューサーや演者のご機嫌伺いばかりしている。

告白は一切ありませんが、表情などからそういった鬱積した部分が読み取れます。「早くて安くて質はそこそこ」という自虐的なキャッチフレーズで仕事をこなしている映像監督なんです。

でもクリエイティブな仕事をしている人がみなそうであるように、必ず自分が理想としている映像というのがあるはずなんです。映像に対する誇りを持っているはずなんです。

普段はそれを出せない弱者である監督が、「カメラを止めるな!」と叫んでなんとか撮りきろうと頑張る。種明かしのおもしろさとともに、「最後までがんばれ!」と応援したくなる。そんなストーリーに仕立てられています。

最後のカットを撮り切るために、演者とスタッフ全員が力を合わせて人力のクレーンを作成。無事、屋上を俯瞰で写すシーンを撮り切って、この映画は終わります。

最後の最後に、パズルのピースがぴしっと気持ちよくハマったわけです。

パズルが完成した爽快感、監督が撮り切った達成感、ドタバタのギャグ要素。これらがうまく組み合わさった、おもしろいエンタメ作品でした。

二回みたほうが楽しめそうですねー。

しばらく経ったあと、もう一度みにいきます。その際には初見の方のため、①の部分で笑ってしまわないよう十分に気をつけます。

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