猫が平気になった日

覚えている記憶の中ではいつも猫が怖かった。
嫌いなのではなく、恐ろしいのだ。

というか正直、動物全体が恐怖の対象で
幼稚園の遠足で動物園に行った写真を見返してみると
それはそれは慄いている幼き私が、そこにいる。

友人との会話で
「将来、仕事場で大きなゴールデンレトリーバーを飼って
休憩時間には一緒に眠るのが夢!」といわれたときには
ああ信じられない...という顔をしてしまい
「来る時は柵の中に入れておくよ。」
と、とっさに気を遣わせてしまったこともある。

そんなこんなで何の動物も飼うことなく、
道で出会う動物には体をこわばらせ日々過ごしてきた。

だけど一昨年の冬、この深い深い渦から
私は静かに引っ張り出された。

その手の主が、猫だった。


「うちで、クリスマスパーティーしよ。」
クリスマス近くに仲良し数人の休日が被り、
猫を飼う広い友人宅にて泊りで
パーティーは開催されることとなった。

「うちの子は、普通の猫と違うから多分大丈夫だよー」
以前、動物と接触するのはかなり苦手だということは話していたのだが
それを知った上でのこの言葉は
妙に説得力があった。

当日の夜、友人の家に着き
玄関から廊下を歩いてリビングに入ると
ふわふわの黒白の猫がシャンッと首元の鈴を鳴らしてそこにいた。

こちらにくる気配も、こちらへの興味も感じない。目が合わない。

あれ?猫ってこんなに警戒もしないし寄ってこないのか!!!
...実は手汗がものすごいことになっていたが
予想に反した光景に心が落ち着いた。
ああは言ったものの心配してくれていたらしい友人も私の様子に「大丈夫だったでしょ?」と笑顔を向けた。

TVを見ながらだらだらし、作ってくれた美味しい料理やお菓子を食べ、シャンパンで乾杯。
お風呂を上がったらこたつでみんなで懐かしいテレビゲーム三昧。くそ楽しい。今思い出しても最高なクリスマス。

その間、猫は飼い主である友人の元へ幾度か絡みに来て
野生か!!!という動きを見せつつも(心臓がびくっとなった)
猫好きである別の友人がデレデレな表情で近づき抱き上げようとすると
さらっとかわして逃げて行った。

もうさすがに寝よう、と
じゃんけんで部屋割りをした結果
私は畳の部屋で猫を飼う友人とお布団を並べて眠ることになった。

あれから何時間経っただろう...?
「にゃあ」という声が聞こえて目が覚めた。

仰向けに寝っころがりまっすぐに伸ばした膝のあたりがなんだか重く、首だけ起こしてそちらを見ると
掛け布団の上に、こちらをじっと見つめる
2つのまあるい瞳。
不思議と敵意は感じなかった。

「あ、はい。」
とりあえず目があってしまったのでなんとなく返事をすると
猫は、怪訝な表情をしたように見えたが、離れない。

隣にいる友人を確認してみると、ぐっすり夢の中。
起こしたら申し訳ない。自分でどうにかするべきだ。

すると「にゃあ」と言われそちらを確認する。
うん、うん。わかってる。わかってるよー。
猫と私はそれから4、5回見つめあっては
「にゃあ」対 "頷き" で、何かを確かめ合った。

日常の中に膝がピンポイントで
重くて痛いという経験はなく時間が経つにつれ、もがき苦しんだが
どうしたら猫に対して失礼ではないのか考えてしまい微動だにできなかった。

もう一度猫の方を見ると、お先にぐっすり眠っていた。おいこら!

その後、どうやら私も眠ることに成功していて
朝、飼い主である友人の甲高い声で目が覚めた。
「あれ?なんでここにいるのー?いつきたの?」
猫は、さささ〜〜〜っと部屋を出て行く。

「いつから乗っかってたの、重かったでしょー?大丈夫?」
起き上がり、布団を片付けながら昨晩の出来事を友人に話した。

「なんで私のとこじゃなかったんだろうね。今までそんなことなかったから、ごめんねー。」
別の部屋で眠っていた猫好きな友人にも話すと
「え?私のとこには全く来なかったんだけどーーー!」と悔しがった。

帰り際、しゃがみこんで猫と目を合わせバイバイした。もう手に汗は握ってなかった。

こうして思いがけなく、わたしは猫が平気になった。二十うん年間も、怖かったのにいとも簡単に克服できてしまった。

ちなみに私にとっての動物園は未だ、戦慄迷宮である。

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