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ゲームとことば#79「いろんなことがあったよ。でも、すごくいい景色」

頼むからここで終わってくれ。
そう願わずにはいられない『The Last of Us』の1シーン。

突如、発生した謎の寄生菌により、人間が次々とクリーチャー化。
秩序が崩壊したアメリカを舞台にした本作は、オープニングからエンディングまでつらく、むごたらしく、そして悲しい場面が続く。
ゾンビゲー、サバイバルゲーとしての完成度も高いが、本作の魅力は主人公ジョエルと少女エリーの関係性の変化を表現したシナリオにある。
はじめはお互いを受け入れられなかった二人。だが、旅を続ける中で会話が少しずつ増えていき、その様子は見ていて心が洗われる。
残酷な物語と知っていながら合間のシーンで心洗われるとは、なんだかマッチポンプな気がしないでもないが、強い感動を覚えるので仕方ない。
道中で次々と心をえぐられるような経験を重ねる二人は、崩壊したビルに立ち寄る。
その窓から見える景色は、悠々と歩くキリンの群れだった。
人のいなくなった都会で、のびのびと草を食むキリン。
その光景を見てはしゃぐエリーにジョエルが感想を求めると、晴れやかな調子で表題のことばを発する。

野生の雄大さを表現するとき、ゆっくりと歩くキリンの姿はセコイぐらいマッチする。
別に疾駆するトムソンガゼルでもいいかもしれないと、ちょっと想像してみる。いや、物足りないかも。
トムソンガゼルには申し訳ないが、もう少々タッパがほしい。
感染者の驚異や未感染者の脅威に満ちた陰鬱な世界を晴らす、適切なアイコン。
それはキリンなのである。

これまでの残酷な物語から、どうせこの後もろくでもない展開が待ち受けてるんでしょ、といいたくなる本作。
どんな展開が待っていたとしても、キリンの群れに気持ちを和ませるキャラクターたちの行く末を見守らなければとも思う。
いろんなことがありすぎたエリーと、彼女にかけることばが明らかにやさしくなったジョエル。
やっぱり不安が募る行く末を忘れ、この平穏な時間のまま終わってくれないかと思ってしまうほどに美しいシーンだ。

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