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第1号 森山陶器/森山 至

 第1号は熊本県天草市五和町手野に展示室と工房を構える「森山陶器」を特集する。窯元の森山 至(もりやま いたる)さんは、天草の老舗窯元にて9年間の修行の後、2014年に独立し、こちらの窯を開かれた。天草島内には30を超える窯元があるのだが、その中でも「森山陶器」は私が最も撮影している窯元だ。自らが撮影する人物写真には、とんと興味がなかったが、彼と出会ってからは一挙手一投足を撮らずにはいられない。いつも用もないのについつい立ち寄ってしまうのはどうしてなのだろうか。

・作品

 彼が作る器たちは、思いの外に身近なものを用いて作られている。自らが掘り出してきた土をはじめとし、近所にある池の泥や、友人が作る塩の副産物といった素朴なものばかりだ。その素材たちからは意外とも思える色へ変化し、器の装いとして定着していく。そんな器たちを見つめていると、なんとも不思議で暖かな気持ちが広がる。力強い形とどこか懐かしい優しさを感じる独特の色合い、心境や時間と共に変わっていく釉薬の配合。新たな色もあれば、無くしていく色もある。彼のことを知れば知るほど作品たちの新たな魅力に気付かされる。

・土作り

 器の原料となる粘土を捏ねる。自らの手で掘ってきた土は、場所ごとに特性が全く違うので、焼いてみるまでわからないことが多いそうだ。鉄の成分が多い土ではぐんにゃりと曲がって溶けてしまう。納得のいくまで試行錯誤を繰り返す。

・ろくろ

 基本的に一人での制作なので、いつでも何かしらの作業を進めなくてはならない。一番よく見かけるのは、黙々とろくろに向かっている姿だ。水分を含んで柔らかくなった粘土の塊が、みるみるうちに器の形状へと変化していく。ろくろをひいている時の眼差しは真剣そのもので、近づくこともためらわれる。多くは電動のろくろによるものだが、手びねりの工程も興味深い。ろくろをひいた後は乾燥させ、削りや模様を付けていく工程へと移る。

・窯詰め

 表面の削りを終えると低温で素焼きの状態にし、釉薬を施したらいよいよ窯詰めだ。火を灯してから一日かけて器を焼いていく。焼き上がっても窯の内部の温度が下がるまで更にもう一日とまだまだ気が抜けない。慌てて温度が高いまま開けてしまうと割れてしまうこともあるそうだ。窯に詰めることのできる数量は限られているので、毎回パズルを組み合わせるように複雑な詰め方となり四苦八苦している。この工程では、爪のようにも見える陶器の欠片に少量の釉薬を塗り、焼き上がりの色味を見るものを隙間に配置する。暗室でのテストピースの様なものなのかと、陶芸と写真の意外な合致に驚くことがあった。

・焼き上がり

 焼き上がり後に最終仕上げの削りを入れてようやく完成。本当にたくさんの工程と日数を経て展示室に並べられる器たち。大筋では似ていても全く同じ器はなく、どれも一点物と呼べる品々だ。どの器たちも自然な佇まいで暮らしに溶け込んでいく。購入する際に、これはいいな、いやいやこちらも捨てがたいと選ぶことが、また嬉しい悩みなのである。欲しいと思った時に手に入れておかないと後悔することがよくあるのだ。私が営む宿で使用している器も「森山陶器」のものが多数を占める。

・森山家の日常

 展示室と工房の裏側には、森山家の生活空間が広がっている。料理上手な奥さんと元気いっぱいの長男くん、そして生まれたばかりの次男くん。そして可愛い仕草で現れる茶トラ猫のモモジや鶏夫婦のツク&ジル。いつも賑やかな森山家から目が離せない。

 人の親としても先輩である至さんを撮影するようになってから、私の中にある興味の対象がぐっと広がった。用もないのについつい寄り道してしまうのは、日々何かしらの変化をしていく愉快な家族が気になって仕方がないからなのだろう。森山家の皆さま、これからもどうぞよろしくお願いいたします。



・森山 至(もりやま いたる)

陶芸家
1982年 熊本県天草生まれ
地元の丸尾焼で9年修行
修行中にスペイン留学
高知の陶芸家・小野哲平氏の元で修行
2014年3月15日に『森山陶器』を開窯


写真/文 錦戸 俊康

※こちらの特集記事は2017年5月15日に発行した
『天草生活原色図鑑 電子版』の再構成記事です。

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