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幻想怪奇な読み切り短編作『もののけ草紙』(全4巻)

『夏目友人帳』よりエグイ。

『人魚の森』シリーズより明るい。

『蟲師』よりネットリ。

『どろろ』より妖艶。


そんな位置にあるのが、この『もののけ草紙』だ。

舞台は昭和20年前後。

主人公の少女は、千里眼や霊視で座興をするひとりぼっちの旅芸人だ。

手のひらに眼の形の入れ墨があり、「手の目(てのめ)」と名乗る。

客の依頼で料亭のお座敷に呼ばれては、丁々発止の口上で、一席を披露する。

その一芸とは、さまざまな怪異や面妖、悪霊を呼び寄せ、消し去り、操る術だ。

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©高橋葉介/ぶんか社

物の怪が、かなりグロい

一見、高橋留美子先生を彷彿とさせるキャラクターデザインに思えるが、まず留美子先生はこの手のゲテモノを描いていない。

こちらの高橋葉介先生は、かわいらしいキャラにドロドロの物の怪をからませている。

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©高橋葉介/ぶんか社

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©高橋葉介/ぶんか社

物の怪は堂々と醜く、ふてぶてしく、個性があり、存在に説得力がある。

「ユルい敵に価値は無し」という私の好みにぴったりの力技や魔力を持っているのだ。

ただのこの作品を単純に「怪奇もの」と括ってしまいきれないのは、その怪異がじつは荒唐無稽なフィクションじみていないからだ。

少しだけ、ネタバレをしてみたい。

口減らしのために山に捨てられたこども。

戦争成金の御曹司をモノにしたいお嬢の嫉妬心。

戦地での臆病心。

戦後の焼け野原に転がる髑髏。

誰も参詣しなくなった護国神社のご神体。

そうしたドロリとしたものが、元凶となっている。

太平洋戦争の前後、日本と中国大陸の租界と特定した設定であるため、あの戦争の後遺症として、人々の悪意や悔恨が怪異に転じているものが少なくないのだ。

とはいえ、色や欲といった怪異に転じやすい人間の心も、おとぎ話のような怪異譚になっている。

怪異のバリエーションが非常にバランスよく豊富、かつ読み切りにちょうど良い長さとオチの心地良さが、この『もののけ草紙』の特筆すべきところなのだ。

物語が成長していく

主人公・手の目は第1巻で、少女から大人へと成長していく。

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©高橋葉介/ぶんか社

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©高橋葉介/ぶんか社

巻末で高橋先生いわく、「読者サービスのつもりでヌードを描いていたら大人になってしまったが、よく考えたら少女誌掲載なので、そんな忖度はしなくてよかったのかも」と。

先生のうっかりから始まった手の目の成長とともに、物語そのものも育っていく面白い作品だ。

大人になった手の目には、彼女を姉御と慕う、押しかけ弟子の小兎(シャオツー)が登場、第2巻は小兎が主役、手の目がサブでお話が進む。

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©高橋葉介/ぶんか社

ここで気づくのは、初出の小兎が、少女とも少年とも読み取れるところだ。

手の目にころころと懐く様子は……、そう、『どろろ』だ。

手塚先生が『どろろ』初期にどろろを男児か女児かに決めかねていたというエピソードを聞いたことがあった。

本作の小兎も、第2巻を通して女の子であることがやっとわかるようになっている。

そして第3巻では、手の目の過去の物語。第1巻で出てきたお話が伏線になり、番外編になり、キレイな再登場をキメている。

最終巻の第4巻では小兎は女児から思春期の少女に成長し、手の目は登場しない。最終話では『もののけ草紙』の世界観の集大成ともいえる物語をじっくりと描いており、見事な4巻完結の読み応えとなっている。

読み切り短編集のよいところは、チョイ読みでも一気読みでも、応えてくれるところだと思う。

本作は、適切な「非現実」を①テンポ良く、②ちょうどいい濃度で、③ストンと腑に落ちるように、与えてくれる優れた短編集と言えるだろう。

たまたま出逢った第一巻だったが、私の日々のマンガ生活において大当たりの一作になったのだ。

出逢い方も含めて、マンガって楽しいのだな。


※本稿は「マンガ新聞」2019年06月20日公開記事の再掲載です。

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