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星空ナイトOに繋がる15年前の物語

もう皆さん知らないかもしれないんですけど、私今でこそ地図調査や大会運営してますけど、昔は競技者だったんですよ。2006年度インカレミドルは優勝しています。

インカレミドルを優勝したとき思ったんです。「よっしゃ!次は世界や!」って。次の世界ユニバー選手権の開催地がエストニアと知り、その年に単身でトレーニング遠征に行くことを決断しました。いやー若かったですね。自分の目が世界に向いたのは後にも先にもこの頃だけでした。

地元の地域クラブに連絡を取り、宿舎を紹介してもらい、大会も含め様々なテレインで練習しました。2007年の夏、21歳のときのことです。

意気揚々と乗り込んだのも束の間、テレインが日本と余りに違いすぎて全く対応できません。エストニアの森は地形がほとんどなく、しかし直進を阻むヤブが多く、「いい加減な直進+地形補正」を主戦略としていた当時の僕の技術では全く通用しなかったのです。

自分の自信がだんだんと失われていく中、出場したとある大会。今日はその話をしたいと思います。

エストニアのナイトO選手権です。

※以下、当時の記憶をたどりながらですので、誤りがあるかもしれない点ご了承ください。

ナイトOとは

読んで字のごとく、夜にやるオリエンテーリングです。視界が極めて限定される中ナビゲーションする必要があるため、昼よりも格段に難易度が上がります。百聞は一見に如かず。齋藤氏がyoutubeに上げてくれているのがあるので貼り付けておきます。

命がけのレース

エストニアのナイトO選手権、本当は自分みたいなよそ者がいきなり出れる大会じゃなかったようで、コースは21ではなくM18A、スタートをトップスタートのさらに20分くらい早くに出させていただくということになりました。特別対応、本当にありがたい限りです。

そのコース距離なのですが、8.0kmでした。

・・もう一度言います。8.0kmです。高校生が走るコースでです。21Eは12kmとかでしょうか。

もちろん公園とかじゃないです。ガチフォレストの普通のコースです。

そしてよく考えてみて下さい。トップスタートの20分前スタートです。それはすなわち、20分以上は、異国の、真っ暗闇の森の中で独りぼっちなんです。

まあ高校生以下のコースだしなと粋がっていた自分、スタートしてスタートフラッグまでの誘導の間に急速に恐怖が襲ってきました。

うそ、この中僕入っていくの・・?

熊とか居らんの?熊じゃなくてもヘラジカとかでも僕たぶん勝てないよ・・?

1番、慎重に慎重を期してなんとか迷うことなく取れました。でも、まだ20個以上あります。

2番、ロストしました。さあ大変です。ナイトなので当然リロケが極めて困難。そもそも日中のテレインでさえまともに回れたことないんです。これ生きて帰れるのか。全身に緊張が走ります。

それ以降のことはほとんど覚えていません。とにかくツボリまくったはずです。後半になると多くの人に追いつかれ追い越されていきました。道走りでは小太りのおばちゃんに抜かれました。みんなバリバリ走ってるのを横目にただオロオロと迷いながらなんとか進んでいきました。

やっとラスポを取りました。フィニッシュまで走ります。

完走でした。全部取り切りました。タイムは覚えていません。2時間くらいかかったんじゃないでしょうか。

フィニッシュ後、一人よろよろと歩いて、近くの木にもたれ掛かり、そして座り込みました。地図を見返します。

泣きました。

ええ、もうワンワン泣きましたよ。

もう帰ってこれないんじゃないかってくらい、めちゃくちゃに怖かったんですけど、それでも戦い続けて完走してフィニッシュまでたどり着き、それで一気にほっとして、緊張の糸が切れました。でもそもそも全く戦う土俵に立てていなくて、ここまでも、今日も、自分の力が何一つ通用しないってのをまざまざと見せつけられて、そんな悔しさも多分にあったんでしょう。そんな、いろんな感情が一気にあふれ出てしまいました。

ここで私は強く感じました。こんなクレイジーなレースでも普通に走れなければ到底世界では戦えない。日本でもこういうガチのナイトOをやってみたい、と。

どしゃ降りの星空ナイトO

それから15年の歳月が流れた2022年9月。ついにそれを実行に移す時がきました。そう、クラブカップ7人リレーの前日イベント、「星空ナイトO」です。

みなさんご存じの通りどしゃ降りでした。どしゃ降りの中提供されたのはこんなコースでした。

星空ナイトOのEクラス

暗い中でも滑落する危険がなく、増水する川もなく、危険を増やさずに難易度をいくらでも上げられる、まさにナイトOにうってつけ。日中でも難しいコースを走ってもらえる最高の機会です。

そう、これです。これを皆さんに味わってほしかったんです。

北欧系の、なだらかだがごちゃごちゃテレインでは、「自分はまっすぐ進める、進んでいる」という自信がなければ全くオリエンテーリングが成立しません。世界大会のGPS中継でも、正しく進めているのに自信を無くして自滅していった日本人選手をたくさん見ました。

今回のような環境で「外したら死ぬ」くらいの覚悟で直進を当てに行く、という経験をしていただきたかったのです。

ナイトOの魅力

もちろん上記のような技術練習としての側面も大きいですが、ナイトOにはやはり独特のスリルがあります。日中では味わえない「恐怖」が良いスパイスになってるんでしょう。ジェットコースターやお化け屋敷に好き好んで入るような感覚でしょうか。自分はそういうの嫌いなんですが、なぜかナイトOは好きです。

「安全に迷える」「安全に冒険ができる」というのがオリエンテーリングの一つの魅力ではありますが、それをさらに先鋭化したものと言えそうです。

もちろんこの15年間、これ以外にもナイトOもたくさん行われていますが、それでもガチのフォレストナイトOは貴重です。安全に実施しようと思うと制約も多いのですが、ぜひまたたくさん開かれてほしいです。

おまけ

先日、ご招待いただいてナイトOさせていただきました。小泉さん、りかさん、村越さん、そして久しぶりにお会いした朝霧野外活動センターの皆さんありがとうございました。

やっぱオリエンテーリング楽しいね。


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