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【表現研】家庭用ゲーム機における恋愛ADVの歴史~久遠の絆編~【ゲーム備忘録】

※この記事には、ゲームのネタバレが一部含まれています。

■1 久遠の絆

 1998年にFOG社から初代プレイステーションで発売された、ノベルタイプの恋愛ADVである。ノベルタイプの恋愛ADVと言われてもよくわからない人は、ソシャゲのストーリーパートを思い浮かべてほしい。絵と音楽がついていて、テキストを読んでいく形式である。基本的にはそれが続くだけなので、紙芝居ゲーとも呼ばれている。紙芝居ギャルゲーという呼び方が一番わかりやすい。

 ゲーム性は皆無と言ってもよく、作品の出来映えはシナリオと音楽とヴィジュアルが100%を占めている。同ジャンルとしてはかなりのヒット作品で、ファミ通にユーザの声が載っていた記憶がある。

■2 恋愛ADVとは

 久遠の絆は、家庭用ゲーム機の、オリジナル(移植作品ではない、他メディアの原作付きでもない)の、ノベルタイプの、恋愛ADV、という条件では、始祖の作品に近い。この手のゲームは大量の絵と音楽を必要とするので、大容量のCD-ROMがメインとなった時代に生まれたジャンルである。PCではそれ以前から存在しているし、単にテキストを読むだけという定義であれば、複数の先行作品は存在するが、先ほどの条件に全て当てはまるものは、プレステ1世代の登場と共に現れたと言える。

 PCエンジンに先行作品があるかと思ったが、自分が調べた限りでは、条件にあう作品は存在しなかった(あればご教授願いたい)。

■3 内容

 内容は輪廻転生の物語で、日本神話の世界観を軸に、平安から現代まで続く因縁を描いた、和風伝奇作品である。シナリオ、音楽、ヴィジュアル、その全てが、当時の基準で考えると群を抜いてハイクオリティで、作品の細部まで気合いが入っていた。

 ある出来事を起点とする、千年スケールの物語の中には、愛憎、嫉妬、血脈を巡る戦い、終わりのない悲恋、そして奇妙な友情まで、様々な要素が織り込まれている。平安、元禄、幕末、現代と、4つの時代にストーリーが設定されており、各時代が綿密に作り込まれていることから、プレイ時間も長大になっているが、時代ごとに人物の性格が違ったり、ある時代では敵だった人間が、ある時代では仲間だったりと、飽きさせない工夫が成されている。

 制作という観点では、未来や現代よりも、過去のことを描くほどコストがかかるはずだが(昔の資料を大量に調べないといけない点でシナリオのコストがかかり、我々に馴染みがない、直に見たこともない装飾品や服飾を描かないといけないという点でグラフィックのコストがかかる。何かと面倒が多いはずである)、そこに全面勝負を挑んでいるという点で、唯一無二の作品である。

■4 和の雰囲気

 雰囲気作りが絶妙で、日本神話の世界観をフルに生かし切ったシナリオはもちろんのこと、全体的にダークなヴィジュアルや、物悲しいBGMが、独特の陰鬱さを醸し出している。特にBGMが秀逸で、和楽器を使っているわけでもないのに、どこか遠い日本を感じさせる曲が多く、その全てがゲームの世界観と密接に連携していた。今でもこのゲームの「久遠」という曲を聴くと、久遠の絆の世界観が即座に浮かんでくるほど、ゲームの世界と曲がリンクしている。

■5 恋愛ADVとして

 いろいろ語ってはいるが、あくまで恋愛ゲームなので、中心にあるのは女性キャラクターである。ヒロインは3人いて、現代視点では、同級生(メインヒロイン)、妹キャラ(と言っても同い年だが)、年上キャラと、過不足なく揃っている。物語の中心にいるのはメインヒロインだが、時代ごとに焦点が当たるヒロインは変わるので、誰かがおまけ扱いになっている、ということはない。

 キャラの配置がマーケティングのお手本のようになっていて、面白みに欠ける印象を受けるが、上述のように、時代でヒロインの性格が変わったり、年上のキャラが年下になったりと、オンリーワンの要素を含んでいて、きちんと変化はつけられている。基本的にキャラクターありきではなくストーリーと世界観ありきのゲームでなので、それらを破壊するような突飛なキャラクターは存在しないが、物語重視のゲームとしては必要十分と言える。

 ただし、当時としても珍しく、キャラクターのボイスがついていなかったので(最近の移植作にはついているらしいが)、その点は人によってはマイナスかもしれない。

■6 久遠の絆 再臨詔

 久遠の絆が人気を博したことから、シナリオを追加した完全版として、久遠の絆再臨詔が、2000年にドリームキャスト発売された。その後、プレイステーション2にも移植されている。

 追加シナリオはクリア後の世界を描いたもので、ボリュームもそこそこあり、立ち絵の追加や、あまりスポットが当たらなかったキャラにも力を入れているなど、追加要素としては力が入っていたが、内容的には賛否両論だった。

■7 その後

 再臨詔がドリームキャストやプレステ2で発売され、最近ではスマホにまで移植されるほどの人気作品だったが、久遠の絆2のような作品は出なかった。FOG社は様々な作品を作ったものの(北海道を旅するゲームや、探偵推理モノなど)、久遠の絆2はおろか、同系統の作品すら作らなかった。おそらく、日本神話を下敷きにした和風伝奇については、完全にやり尽くしたという自負があったのではないかと思う。

 私見では、家庭用ゲーム機において、和風伝奇のジャンルで、この作品を超える作品は2020年になっても存在しない。そもそも同系統の作品がほとんどなく、家庭用の恋愛ADVが消滅の危機にあるので、今後も存在しない可能性が高い。

■8 終わりに

 なぜ、久遠の絆にここまでのめり込んだのだろうか、そう自問自答してみると、BGMの影響、特に「久遠」の影響が非常に大きいことに気づいた。久遠の絆を思い出すときは、いつも頭の中に「久遠」が流れていた。

「久遠」は常に作品へ貼り付いていた。一体化していた。作品の裏から表から世界観を形成していた。全てを忘れ、物語に浸らせてくれる最高の楽曲だった。ゲームにおいて、音楽がこれほどまでに重要なのかと、思い知らされた。「久遠」に限らず、全ての楽曲が細部にまで溶け込んでいた。

 他のジャンルにも名曲はたくさんあり、重要性は認識していたが、絵と音楽とテキストしかないゲームにおいては、その重要度は全く異なっている。恋愛ADVでは、ヴィジュアルと音楽とテキストは三位一体で、全てが主役だった。音楽が添え物ではなく、主役になりえるという衝撃を受けた。今でも真っ先に思い出すのは、キャラでもなく、ストーリーでもなく、ダークな雰囲気の中で流れている「久遠」だった。

 真っ先にBGMを思い出す作品はいくつかあるが、久遠の絆は飛び抜けてBGMの印象が深い作品だったと言える。

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