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赤い秒針

赤い秒針

昭和40年代前半、私は小学生だった。貧しい家庭だったが、生活に不満は無かった。それは少年の、小さな不思議への眼差しだった。今でも、私の深くに刻まれている。

母は私に、振り子時計のネジを巻くことを教えた。

柱の鴨居の上にある掛け時計。私は踏み台に乗り、振り子が止まった時計の蓋をあける。蝶形の巻きネジを取り出して、時計のネジを巻く。ネジ穴はふたつ。右と左。両方ともにネジを巻いていく。

ギリィリィ

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断層スケッチ

断層スケッチ

■事象の揺れ
事象は揺れていて多次元に渡っている。しかし、その事象は自分が置かれた次元からしかとらえることができない。
時間の流れは次元の移行に等しい。

■湯船の記憶
人間の脳感覚には複数の次元が渦巻きながら並行して存在しているのかもしれない。
それらを極限にまでシンプルにまるめるのが、「人の智」というものなのだろう。

■シンクロ
まったく違う時間の流れの中で、まったく隔てた互いの場所で、二人

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岐路

岐路

目の前に岐路があったとしよう。
岐路は二つに別れている。
それぞれ、その先が何処に繋がっているかは分らない。
右を選べば左を失う。左を選べば右を失う。
しかし、失うものは、それが何であるかは知ることができない。
在るのは、右への希望と左への希望だろう。
ただ、右を選べばその希望が叶うとは限らない。
左を選んでも左の希望が叶うとは限らない。
岐路とはそういうものだろう。

友よ

友よ

友よ
私の声が聞こえるか
目玉を刳り抜き
耳を切り落とし
鼻を潰せ
そして歯を砕き
拳を喉に押し込めろ
肛門に頭を突き刺せ
不自由な躰を脱ぎ捨てろ

友よ
私の姿が見えるか
上もない
下もない
右も左もない
前も後ろもない
外も内もない

友よ
私の振動に触れなさい
腺毛を逆立てよ
風を聴け
熱を浴びろ
そして水に流れるのだ

友よ来たれ
磁場は整った
大きく揺れるのだ
広く波打つのだ
遮るものは

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闇の壁

扉を開けたら闇だった。
闇が壁となって口を開けている。
その形相には魅惑が漂っている。
来る者を阻みながら手招きする。

そして、戸惑い。
暗黒の壁、とでも言うのだろうか。

私は立ち尽くした。
暗黒の壁を前に。

入口なのか?出口なのか?
入るべきか、入らざるべきか。

私はその扉を開けてしまった。
私は暗黒の壁を見てしまった。

好奇心。

入れるものだろうか?
戻れるものだろうか?

暗黒は

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幻速

白線で仕切られた屋外駐車場。
10台ほどが止まっている。
ほぼ満車に近い。
道路際に一台の空きがあった。

私は駐車場内に車を乗り入れた。
ギアをバックに入れる。
サイドミラーとバックミラーを確認。
左に止まっている車との距離を測りながら、
ゆっくりとハンドルを切っていった。

バックミラーに映る車止めの縁石。

駐車ラインに沿ってバックする。

左に止まっている車に注意を払い、
視界にも収めてい

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