とびら

わたしはベンチに身体を横たえた。
そっと目を閉じる。

真夜中の公園は、静かです。
風の音が耳をかすめていく。
わたしは眠りを迎え入れた。

意識は眠りと公園を往復する。
その振幅によって扉が開く。

此処は何処だ?
どこでもないどこか。
おまえは誰だ?
だれでもないだれか。

闇の中に浮かぶ光と影。
次第に輪郭が顕となる。
それはあたかも赤外線写真の像。
可視光線にない線が浮かび上がる。

見えていたものが姿を消す。
見えなかったものが輪郭する。
いくつものレイヤーが重なっている。
レイヤーの構造は不可解だ。

映像の意味付けが追いつかない。
拾い集める言の葉は、
彼方のものか、
此方のものか。

当てはめる言葉がない。
その言葉はきっとまだ、
此方では生まれていないのだろう。
生まれる前の言葉は、
闇が飲み込んでいく。

わたしはじっと、脳裏に眼を凝らした。

静かの中で、全身に脈打つ鼓動を聞く。
血潮のざわめきか。
指先、足先までじりじりと熱い。
意識だけが脳裡の映像へとズームされる。

脳裡の映像は、記憶の範疇を超えている。
わたし以外の誰かの記憶?
わたしが身を置いたことのない光景。
これはリアルなのか。

わたしは、自分が眠りの中に居ることを自覚している。
わたしはわたしの意思で、この眠りを破ることもできる。
あるいは、奇妙な眠りの展開を、
そのまま受け入れることができることも知っている。
むしろ、わたしにはこれが愉しい。
この楽しみを奪われたくない。
寸断させたくない。
どこまでも続く、その果てを見てみたい。

わたしは念じてみる。
右へ動け、と。
左へ動け、と。
脳裡の映像は、念じたままに動く。

この映像は、わたしが作り出しているものなのか?
わたし自身の意識下にある映像なのか?
わたしがわたしの意識を見ている?
わたしがわたしの意識に見られている?

と思いきや、意識が翔んだ。


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