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或る晩(物語詩)


或る晩

そうだった
あの月のやけに明るい晩のこと
母は只事ではない様子で
裸足でわたしを外へ
引き摺って行こうとした
わたしが必死で逃げると
そのまま母は走り出て行って
鬼のような姿になり去ってしまった
最後に何か言ったが覚えていない

あれは、冬のとても寒い夜のことだったと思います。眩しいほどに月が輝いていたのです。
かつて、様々なことがありました。結局最期の時にやっと、解放されたのです。逃れたかったのだと思います。
壊れてしまった家族は戻りません。廃屋がやがて野に還るように、思い出さえも風化して消えていきます。
そのままでいい、それでいいと今では思っています。