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言葉にならないことがある

ねえ 覚えているよ
懐かしい声の響き
呼びかける言葉の癖を
飼い主を亡くした犬は黙って
顔を傾けて耳を澄ましている
在りし日の思い出に浸るために

見えないものに目を奪われることがある
失ってしまった思い出の今在るような姿が浮かび
去っていった面影の今在るような声が語りかけ
あたかも場所さえも今そこに居るかのように
匂いさえ懐かしいような

調べの中に閉じ込められた思いが蘇る
誰にも分かりはしないと諦めた
孤独が優しい旋律によって解されていく

印象と彩の奥に思いもしなかった感情が生まれ
そうであったのかと振り返る夕陽の思い
断絶が鮮やかな輪郭によって受け継がれていく

言葉にならないことがある
きっとずっとそうだったように
今も聞こえている声がある
そこにいることを確かめるように
今が在ったことを引き継ぐように