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もどかしさの空の色

初めて目にした
鮮やかな色に
彼らは涙するのではなく
憧れも屈託も
諦めさえも
ひと目で塗り替えた世界の彩に
震えている
押し出される言葉にならないものに

始めて人に示唆された
赤という色は
それは赤であって
赤でなかった

空は青色ではなく
空という色はどこにもなく
きっと
輝く大気の澄んだ層の複雑な色階を
一色で表すことはできないから

わたしたちはそれぞれの
まるで区切られた部屋の中にいるように
見えない自分同士である
それでも
まるでパラレルワールドのように
わたしたちは重なり合っている
美しく暮れる夏の茜の夕暮れの下で
決して入れ替わることの出来ない
あなたとわたしの
それぞれの色が広がる

その色を赤と呼び
或いは橙、朱、薄紅、珊瑚と呼び
或いは虹、小豆、黄金、山吹と呼び
或いは菖蒲、紅藤、紫水晶、勿忘草と呼び
空色と呼んだ無限の色階は
波長の広がりと光の粒が拡散して
かけがえのない色の広がりを
いつまでも飽きることなく
覚えている

そして眼を閉じて蘇る
思い出深い空の広がりは
わたしの中に確かにある
白雲の艦隊は
冷たい追い風に悠々と冬空を渡る
孤独に空は高く澄んでいる

きっと満ちていたあの光から
わたしたちは別れて
ここへやって来たのだと
そして
それぞれに新たに何かを得て
再びあの光の中へ還るのだと
本当に信じていた

降り注ぐ春の始まりの光が
特別だった
物ごころがついた頃より
今でもまだ消えずある
この震えにも似た
言葉の届きそうで届かない
もどかしさの空の色



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画像は”和色大辞典”
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